「今日は俺がご馳走を振舞ってやるぞ!」
チャンスはソファで書類整理していた俺の前に立ち、大きな声で自信満々にそう言った。
まず初めに言っておくが、俺はこいつが料理をしているところを今までで一度も見たことが無い。なのにどうして急に料理なんか?そもそも料理経験あるのか?これは完全に俺の直感だが、チャンスは料理が下手だと思う。ならば尚更不思議に感じる。
純粋に気になった俺は、本人に直接聞くことにした。
「へぇ…それまたどうしてなんだ?」
そう質問すると、チャンスの肩がビクッとなり、エプロンの紐を結ぶ手が止まる。
「え゛ッッッ!?あ………い、いやまぁ、別に気分だったから……???」
まるでバレたら不味いかのような反応をする。ますます怪しいな…
まぁとりあえず作ってる間休んどけよ!と言い、両手で再び背中にあるエプロンの紐を結び始めた。おぼつかない手つきなせいで苦戦している。やっぱ普段から料理してないだろ。
「結んでやろうか」と話そうとしたがなんだかチャンスの機嫌を悪くさせてしまいそうなので成功するまでソファから見守ることにした。
3分後、グチャグチャなリボンがようやく成功し、チャンスは腕を捲りながらキッチンへと向かっていった。
…キッチンが粉々にならなければいいが
あいつの腕前やキッチンの心配ばかりしていてもアレなので、料理ができるか異常事態が起きるまで俺は目の前に溜まっている仕事を進めることにした。
___30分後
突然ドンという爆発音がした。キッチンからだった。
案の定やらかしたな…と思いながらキッチンに足を早め向かう。
キッチンへ向かうと、手にやけどを負い、涙目になっているチャンスがいた。ふと周りを見てみると、レンジが破損しており、中から黒い煙がもくもくと溢れ出ていた。これがあの爆発音の原因か。
「あ、マフィオソ……仕事の邪魔しちまったな」と無理に笑顔を作り明るいトーンでチャンスが話しかけてきた。
「今はそんなことどうでもいい。急いでやけどした手を水道水で冷やせ」
俺がキッチンを爆破した自分に怒っていると勘違いしたのか少々不安と申し訳なさが入り混じったような声で「分かった」と言い、すぐにシンクの蛇口を捻り、出てきた冷水で火傷した箇所に当てた。
水が流れる音だけが続く空間で、先に口を開けたのはチャンスだった。
「…ごめん、キッチン荒らしちゃって。あんま言いたくなかったけど…俺さ、実はアンタに喜んで欲しかったんだよ」
そう言われ、ふと荒れたキッチンの方に目をやる。机の上にあったまな板の横に『初心者に優しいレシピ 50選』というレシピ本が置いてあった。よく見ると、チャンスの手に無数の切り傷がある。練習でうっかり怪我したときのものだろうか。
「だってさ、いつも出前ばっか頼んでるし、それじゃ健康に悪いだろ?それに……しゃ、借金もまだ払えてないし…」
小っ恥ずかしいのかゴニョゴニョと喋る。俺のことを心配して、こんなに張り切っていたんだな、と心の中で嬉しさを感じていた。俺はチャンスの頭にぽんと手を置き、
「そうか、チャンスの手料理が食べられなくて残念だったな」
と本音を呟く。
期待されていたことがよほど嬉しかったのか、チャンスは少し嬉しそうな顔をして
「実はな、一個だけ失敗しなかった奴があるんだ!それを食べてみてくれないか!」と俺の前にミートボールスパゲッティが乗った皿を置く。
「見た目は…悪くないな。美味しそうだ」とチャンスに微笑みかけ、フォークで掬い上げたスパゲッティを口に運ぶ。
………
…………………
まっっず………………
味の感想がそれだった。やはり俺の勘は合っていたのだ。
だが目をキラキラさせているチャンスの目の前ではとてもじゃないが「まずい」なんて言えないので、なんとかスパゲッティを平らげ精一杯の“美味しい“アピールをした。
るんるんで皿を下げたチャンスが、満面の笑みで「また作ってやるからな!」と言ってきた。
俺が本音でチャンスの料理に美味しいと言える日は当分先になりそうだな…
完
コメント
1件
2人とも尊すぎる