テラーノベル
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芽衣がビクビクしながら六駆の作った赤い盾の脇から顔をぴょこりと出して、異世界からの軍勢の様子を伺った。
「異界のスキルの耐久値を測るのだ! 撃て撃てぇ! 煌気の尽きた者は下がれ! 後衛と交代して、絶えず撃ちまくれぇ!!」
「みみみみみみみみみっ!!!」
芽衣は軽い気持ちで覗き見なんてするんじゃなかったと後悔した。
そんな彼女に声をかけるのは、削れて行く『赤壁の番人』を興味深そうに眺めている師匠であった。
どうやら、怯える弟子を落ち着かせる模様。
六駆もやればできる。精神年齢おっさんの肝の据わり方を見せてやれ。
「芽衣。落ち着いて。僕が絶対に君の事は守るから。そして、敵の持っている未知の武器を一つでも多く奪うからね!!」
後半のやけに力強いセリフは必要だっただろうか。
「六駆くん! そろそろ盾が限界じゃないかにゃ!? 莉子ちゃんにも『風神壁』出してもらう!?」
「あっ! そうだ、わたしも盾スキル持ってるじゃん! 六駆くん!」
2人の提案に六駆は頷かない。
その理由をこれから述べるのだが、それまで果たして盾が持ちこたえるだろうか。
「敵さんは雷の属性をあの銃で高密度に圧縮して、ビームみたいな形状で撃ってきてるからねぇ。『風神壁』は一点集中型のスキルとは相性が悪いから、ゴーサインは出せないかな。現に、僕の出してる『赤壁の番人』だって、もうボロボロだよ。数の力ってのはすごいや」
「ふぇぇ! 六駆くんでもお手上げなのぉ!?」
「小坂さん。逆神師匠を信じるです。と言うか、もうそれしか芽衣たちに出来る事はないのです」
芽衣がまたしても達観した事を言う。
だが、今回に限り、彼女はネガティブながらも前向きだった。
六駆が「絶対に守る」と言ったからには、それを信じられなくて何が弟子かと芽衣の中では結論が出ていた。
さすがは現役監察官の姪。ここぞの覚悟は伯父譲りだろうか。
「僕も敵さんのスキルがまったく分からないから、不用意に反撃できないんだよね。相手にスキル吸収タイプとか、スキル反射タイプの戦闘員がいたら、僕の撃ったスキルがそのままこっちに向かってくるんだから」
「うへぇー。それはヤバいにゃー! 絶対に嫌だー!!」
「わたしもです! 六駆くんのスキル受けるくらいなら、玉砕覚悟で特攻します!!」
年頃の女の子に露骨な危険人物扱いをされて、六駆の心が少しモニョった。
それはさておき、彼は29年もの間、異世界で戦いの中に身を投じて来た男。
この程度の死線など、100や200では足りないくらい潜り抜けている。
「よし、この場合、僕たちが取るべき最善策は何でしょう。はい、莉子さん!」
「ふぇっ!? えっと、六駆くんが一気に距離を詰めて、敵の砲撃隊を無力化する! ……とか、かなぁ?」
莉子の作戦は悪くなかった。
彼女の成長を感じながら、六駆は採点を発表する。
「んー。60点かな。その方法なら敵は確実に戦闘不能に追い込めるけど、味方の防御が脆くなるよね。現状こっちは僕を除けば莉子の『風神壁』しか盾はないけど、さっきも言った通り、相性が良くない。女の子を危険にさらすのはちょっとねぇ」
「そっかぁ……」
しょんぼりする莉子に「着眼点は良いんだよ!」とフォローをした六駆は、続いて芽衣にも同じ質問を投げかけた。
なお、弟子ではないと言う理由でクララを順番から飛ばしたのだが、その事情を把握できなかった彼女もまた心をモニョっとさせていた。
「あの、質問いいです?」
「もちろん。どうぞ」
「さっきから芽衣たちの上にある、なんだかバチバチって凶悪な音を立てている球体は関係あるです?」
「お見事! よく戦況が理解できてるね! あれは、さっきから景気よく撃ってきてる敵さんのスキルを『吸収』で集めてるんだよ。その調子で、答えまで頑張ろう!」
芽衣は考える。
彼女は探索員になる以前に戦闘の教本を山ほど読んでいる。
正確には、伯父の木原監察官によって読まされている。
その教本は、誰あろう木原監察官が執筆したもので、武力ならば現役最強の呼び声高い氏の考えは、姪である芽衣の中にもしっかりと根を張っていた。
「もしかして、敵の攻撃スキルを反射させるです?」
「90点! ほぼ正解! 雷に粗品を付けてお返ししよう! 彼らはモンスターじゃなくて、人間だからね。中には雷耐性のある兵隊もいるだろうけど、全員がそうだとは考えにくい。少なくとも、彼らにとって有効な攻撃手段としてあの銃撃スキルが採用されているって事は、逆に考えれば彼らにも効果的である可能性はそれなりにあると思うんだよ。だって、異世界の中でも内戦とかするだろうからさ」
六駆教官のよく分かる逆神流兵法解説。
確かに勉強になる内容だったが、「なるほどです!」と熱心に聞いている芽衣と、「それどころじゃないよ!!」と慌てるお姉さんが2人。
お姉さんたちの指摘通り、そろそろ『赤壁の番人』が破壊されそうであった。
ならば、攻めに転じる時は今。
◆◇◆◇◆◇◆◇
六駆は鬼の面の軍勢の電撃スキル『アストラペー』が大量に詰まった球体を操り、照準を合わせる。
そこからは実に速かった。
「『解放』! この雷のエネルギーを纏わせて、『雷神岩石群』!!」
話が違うじゃないか。
六駆は「相手のスキルのエネルギーを反射して攻撃する」ような事を言っていたのに、普通に『岩石群』を、粗品と呼ぶには余りにも凶悪なスキルを付随させていた。
得体のしれない相手には容赦をしない。
これも、六駆の長年にわたる戦闘経験から導き出されたスマートな回答だった。
話が違うのはおっさんだからと言う理由で許されるのか。
その点だけが心配である。
「し、司令官!! 巨大なエネルギー体がぁぁ!! うわぁぁぁぁっ!!」
「各人、シールドを張れ!!」
「だ、ダメです! 雷は防げても、この煌気を内包した岩の雨は!!」
「ぐぁあぁぁぁぁっ!! 司令官、退避を! 退避命令を!!」
「だ、ダメだ! せめて詳細なデータを獲得せねば! 手の空いている者はランドゥルを回収せよ!!」
鬼の面の軍勢に、悪魔が迫る。
その脚は速く、音を置き去りにする。
「『瞬動・二重』! 司令官さん、判断が遅いなぁ! どうも、こんにちは! 原住民の逆神六駆と言います! 逃がしゃしませんよ? 『引力掌』!!」
六駆の広げた右手に引き寄せられるように、鬼の面の軍勢は集まっていく。
ダイソンの掃除機も真っ青な吸引力で、12人いた異世界人を無力化。
仕上げに『粘着糸』で全員を捕縛して完封。
「それで、皆さんはどこの何と言う国からいらっしゃったんですか?」
「ふっ。我らは誇り高きルベルバックの軍人ぞ! 捕虜になったからと言って軽々しく機密を漏らしてあああああああ!!」
「司令官、何してんですか!! くそったれ! だから斥候部隊なんて嫌だったんだ!!」
2発か3発くらいビンタしようと思っていた六駆だったが、何故か知りたい秘密の方からこちらに駆け寄ってきたため、実に平和的な解決が成された。
敵国の名はルベルバック。
今回は「あ! それ僕の知ってる国だ!」と六駆が言わない。
つまり、未知の異世界からの襲撃を受けているという事実。
さらに、斥候部隊がいるのだから本隊もそう遠くない場所、例えばもうこのダンジョンの下層にやって来ているのかもしれない。
六駆垂涎の攻略報酬500万が風前の灯火になっている事を、彼もまだこの時点では知らずにいた。
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