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ふいに、くらむ。

「、っ……」

「あ、曽良さんっ……!」

とっさに、近くにいた弟分の子が支えてくれる。

「大丈夫ですか、最近、こういうの……多いですよね」

「ええ、大丈夫です。貴方が気に病むことではありませんから。……少し頭痛が酷いだけなので」

今日は、元禄8年、10月12日。芭蕉さんが亡くなってちょうど一年が経つ。

この頭痛は、僕を苦しめる頭痛は。貴方のせいですよ……拝啓、芭蕉さん。

貴方が亡くなってからというもの、弟子たちは貴方の埋葬やら葬式やら、お通夜やらでてんてこ舞いでしたよ。僕も。まあ、貴方のことなので、天国からにたにたと気色の悪い、吐き気のするようなにやけ顔で見下していたことでしょうが。

そんな顔が見られないということですら、弟子たちはわんわんと泣けるのですよ。

全ての事が済むと、次にはどっと今までの疲れと同時に悲しさと虚しさが押し寄せました。僕はこれからどうすればいいのか。貴方亡き世をどう渡れというのか。

それからです。僕がたちまち体調不良に見舞われたのは。

毎日のように、頭痛がします。咳が出れば嘔吐もします。熱も出ます。頭も回らず、まともな句など詠めないのです。旅の時のような腹痛もしましたが、貴方はあれを覚えているのか不安でございます。

体のどこかが痛む度、体のどこかが軋む度、貴方の顔が浮かびます。貴方は顔に立派な皺を携え、これでもかというほどに優しい微笑みで、僕を睨むのです。

僕は怖い。貴方が生前きっと何より恐れたであろう僕は、貴方を恐れているのですよ。

ある、貴方の好きだった鎌倉時代に生きた武将は、首を切られたあとも叫び続け、600年ほど経った今も首塚をのけられない状態にあります。きっと貴方なら誰のことかお分かりでしょう。奈良時代にいた学問の神様も同様のことが起きたそうですが。

貴方はそれと同じです。僕だけに被害を及ぼす祟りです。それを断つのに必要なのは、きっと僕の意思です。

貴方に、生前何より見下していた貴方に、情けない僕は助けを求めます。

どうぞ腹を抱えて笑いなさい。どうぞ先はよくも、とくどくど愚痴を僕にこぼしなさい。

今はそれが、僕にとって一番の幸せなのですよ。

芭蕉さん。僕が、貴方を諦めるには……どうすればいいのでしょう。

またいつか、会える日を楽しみにしております。


「……曽良さん? 顔色が悪いですよ? 少し、横に……」

「いえ、結構です。それより、……手紙を、書かせてください」

「……て、手紙? 誰に?」

「あなたもよく知っている方です。まあ……きっと読んでくれないでしょうが」

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