直接的な描写はありませんが、人が減ります。短いです。
gr side
『屋上で待ってます』
その一言のメッセージの意味に気付いた時には、体は既に動いていた。
勢いよく開けたドアの先に、見慣れたアイツの姿。
夕日はとうに沈みかけていた。
少し強い風になびく、綺麗な黒髪と赤いマフラー。
その姿に思わず見とれてしまう。
tn「本当に来るとは思わんかったわ…」
ひしゃげて所々穴の空いたフェンスは、俺と彼の間に壁を造っている。
gr「お前、何、しとんねん」
色んな感情がごちゃごちゃになって声がうまく出ない。
いつもの様に口調をつくる事も出来ない。
tn「…ええやろ、別に」
困ったように彼は笑って目を逸らす。
gr「なぁ…そこ、危ないぞ。はよこっち戻ってこい。」
tn「大丈夫やで、そんなに怖ないし。」
何の説明にもなってない。
何を言ってるのか分からない。
俺は、何も言葉を返せなかった。
じっと彼を見つめる。彼は何も言わずに俯いている。
しばらく続いた沈黙を破ったのは彼だった。
tn「そろそろ、行こか……」
やっと紡がれたその言葉の意味を理解したくなかった。
tn「忘れないでな、俺の事。…ずっと。」
そう言って俺に目を合わせる彼。
吸い込まれそうなその瞳に息を飲む。
それを皮切りに、彼の体が傾いていく。
咄嗟にのばした手は、虚しく空を切った。
彼の最後の顔は、声は、あの瞳は、ずっと忘れられない。