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#BL
「俺じゃ、だめ?」
こんなことを言えたら、どんなに楽で、こんなに苦労しないだろうか。
まろのことなんて、全部わかってる。 誰も知らないまろも、秘密も、俺だけが知ってる。
しかし、まろの心は俺にはないことも、俺だけが知っていることの一つだ。
男同士の恋愛なんて、面倒で仕方ないのに、俺はどうしてもまろから離れられないことはわかっている。
そんな気持ちを紛らわすように、水をがぶ飲みした。
それを、何回か繰り返した。
「ッ…く」
…水だけじゃ…足りない。
なんか、気を紛らわせられるもの…。
俺の目に写ったのは、ココア味のクッキー。
砂糖がいっぱい入ってるから、減量中の俺には少し厳しかった。
だけど、この気持ちは、理性に勝てなかった。
「ッ…は」
咀嚼がめんどくさいクッキーも、気付けばもうなくなっていた。
砂糖を取ると、気持ちが落ち着くって、本当だったんだ。
その時の俺は満足してそのまま、久しぶりに安定した睡眠を取った。
・・・
作業中。
なにか食べたい。
別に、お腹が空いてるわけじゃない。
適当に部屋を見渡してみると、カラフルな丸いものが目に入った。
飴だ。
これこそ、砂糖の塊だ。
・・・
『ないくん、また仕事中にお菓子食べてるの?』
りうらが、資料を置きに行った時に聞こえてきた言葉だ。
確かに、ないこのデスクにはでかでかとラムネの開いている袋が置いてあり、本人の口はもぐもぐと動いている。
『ふふふ。 これはね、糖を取って集中力を上げているんだよ。』
・・・
ドヤ顔でそういうないことりうらの会話が蘇る。
つまり、これは仕事に集中するための糖ということだ。
そう思い、カラフルな飴玉を一つ、口に放り投げた。
気づくと、飴玉が溶けきって、消えていた。
それに気がつくと、俺の口の中はまたものを欲するように、さみしくなる。
そう思い、頭で考えるより先に飴を口の中に放り投げる。
俺は1日中それを繰り返した。
窓から眩しい光がさして言うことに気づいて、顔を上げる。
パソコンの下に表示されている電子時計には、AM 7:30分 と書かれていた。
それと共に、口の中がまた淋しくなる。
口の中は、甘々になっていて、飴の味がわからなくなっていた。
当時の俺は口の中に物が入っているという安心感がほしかったのだろう。
蓋を開けて、飴を一つ取り出す。
「…あれ。」
飴は、もうひとつも残っていなかった。
誰が、どこにやったのだろう。
不思議に思いながら放置して、作業を続けようとする。
口の中に、ものがなくって、落ち着かない…。
あたりを見渡しても、お菓子は見渡らなかった。
今からコンビニまで買いに行く気力もないし、配達で頼む気も起きない。
本当になんでもいいから、口に入れたい。
どう思った時、足にカサッ、と紙が当たった。
こんなところに資料置いてあったっけ、なんて呑気に考えて手探りでその紙を取る。
なんの資料か確認しようと思ったら、それは俺の今一番求めている『資料』だった。
・・・
『一人じゃ何もできない。』 誰かが唱えた言葉が、頭の中で再生される。
小学生の時、先生がよく口にした言葉の一つ。
それも、なんとなく嫌になりながら、俺は珍しくリビンクにあるダイニングテーブルに座っていた。
外には、多くの自動車や、改造されたうるさいバイク。
べらべらと饒舌に喋る男女や、無気力に歩いているリーマン。
俺は脳内再生されている言葉より、そちらの方が癇に障り、カーテンを勢いよく締めた。
ダイニングテーブルに置いてある俺の『資料』…もとい、いつぞやに貰った赤色のカプセル薬。
俺は、薬を水で飲むんじゃなくて、何個か口に含んで、ガリガリと噛んだ。
カプセルの中に入っている粉が出てきて、薬独特の苦みが口に広がり、顔をしかめる。
俺は、自分の答えを導き出していた。
これが、一番、気が紛れる方法だ。
毎日毎日、これを繰り返していった。
たまに来る吐き気なんて気にならないほど、俺は何も気にしなくなっていった。
「…、このまま…死んでも、誰も文句言わへんかな…。」
自分の吐瀉物を眺めながら、ポツンとつぶやく。
俺は、我に返った。だめだ。
この思考をここに留めておくと、言霊となって俺の元に降り掛かってくる。
俺はこの感情に蓋をするように、洗面所のドアを勢いよく締めた。
だめだ。 落ち着かない。
家の中を早歩きで歩き回る。
首の後ろを抑えてみたり、空を仰いでみたり、長い髪をかき乱してみたりする。
頭の中がぐちゃぐちゃで、よくない。
「ッ、まろッ。」
ふと、ダイニングテーブルの真ん中に置いてあるものが目に入る。
薬だ。
俺は、力任せに蓋を開けて、薬を口の上で逆さまにして、すべての薬を放り込んだ。
ねぇ、まろ。 俺まろのために頑張ったの。
いっぱい褒めて。
「えらいなぁ、あにき。 俺のために頑張ってくれたんの、すっごく嬉しいわぁ。 ありがとうな。」
意識が朦朧とする中。
まろが、そう言って微笑んだように思えた。
俺はその言葉に安心しきって、眠りに落ちていった。
「ッ、ばかっ。 ばかあにきッ!! なんで、こんなことすんねやッ!! …あにきが良かったのに…。 あにきじゃないとだめだったのに。」
まろが、泣きながら冷たい俺を抱きしめたのは、俺だけが知らないまろだった。
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