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「ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ」
文奈の身体は火に包まれた。
涼は止めようとしたが、やはり黒樹の瞳にはもうなにも映らなくなっていた。
涼は後悔した。
なぜ、文奈と尊と会った時点で避けなかったのか。黒樹に甘えたのか。自分の過去を変えようとしたのか。怯えていたのか。信じていたのか。
幼くて、ただでさえ入り切らない力を背負う黒樹に、重ねて業を背負わせてしまったのか。
止めようとした事実に酔って、抜本的な制止をかけなかったのか。
なぜともしもは多く浮かぶ。
文奈の骨が墨になって朽ちるまで燃やした黒樹は、暗い目のままでしりもちをつき、そのまま深く寝入る。
よほど疲れたのだろう。
そりゃそうだ、一日遊んで、こんなところまで連れ込まれて、その上感情を爆発させたのだから。
人の道は外れたが、それは文奈も同じだった。まだ幼いからこそ、十把ひとからげに怒れないのだ。
とりあえず、今晩は寝かせておこう。そうしよう。
翌朝。
目が覚めた黒樹は、頭が痛かった。身体もだるい。風邪でも引いただろうか。
涼を探そうと起き上がるが、すぐに動けなくなる。昨日のことも思い出せないしで、最悪。黒樹はもう一度寝ることにした。
月が見えている廃工場の窓からは、大通りの音が微かに流れ込み、ひたすらに響いている。電気も点けず、暗いままの部屋には簡素な居間がある。ホコリ臭さも抜けない状態で、二人は押し黙って動かなかった。
「な」
「……」
「これ」
「……羅生門?」
涼が黒樹に渡したのは、羅生門の漫画だった。羅生門というとあの芥川の原作である。
「……ありがと」
黒樹は受け取ると、その場で月灯を頼りに読み始めた。
荒涼として誰も好かない羅生門。
そこで行き場を失くした少年。
業を積んだ女を引剥する老婆。
彼女を引剥する少年。
生きるか死ぬか、そこに奇跡など起こり得ない不穏の空間。
黒く冷たい雨が降る、京の様子は格別想像しにくいわけでもなく、かといって造像に容易いわけでもない、独特の雰囲気を醸し出す文字列によって紡がれている。
「お前ばかりが悪いわけじゃない」
涼は、黒樹が本を閉じたタイミングでそっと声をかけた。黒樹を安心させるという目的で。
「……でも、僕は人を殺した」
「ああ。それは変わらない。でも、黒樹に先に手を出して……いや、もともと手を出してきたのは向こうだ。ツケが回ってきたんだ」
「それでも」
「黒樹が謝ることは、もうない」
「……」
「相討ちだ」
風が窓から入る。
湿っぽい風は少し冷気を持って気持ちよかった。
黒樹は覚悟した。
これから先、また業を重ねることを。
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