コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「次にですが、トワイス国とローズディア公国において集団政略結婚があります。両国の基盤を盤石にするためというのが名目であるのですが、私はここで位の高い令嬢となります。そのときにも、ローズディア公国より公室へ……公世子の第二妃としてお誘いがあるのですが、ここは、もうすでにジョージア様と出会っている『例え政略結婚だとしても、ジョージア様と添い遂げたいのです! 』とでも言って私が断ります。決まったばかりで婚約を公表していなかったジョージア様に公から直々に婚約するよう命令が下りますから」
やっと、ジョージアをソフィアから、横取りする話が出てきたので、三人ともが納得……? している。所詮、公族からの命令と公表前だったので、『先に公に婚約決められちゃったら、断れないよね?』って話だね……と。
「確かに、銀髪の君は、押しに弱そうだね……? ソフィアのことと言い。最上位の公からアンナと婚約しろと言われたら、有無も言わず、頷きそう……だよなぁ」
兄にはそう言われてしまったが、ここで一つ誤解をといておいてあげよう。ジョージアを今から落とすのだから、少しぐらい株も上げておかないと、今度は私の両親にこの婚約を反対されかねない。
「お兄様、それは違います。ジョージア様は、大人しい雰囲気で優しそうですが、お兄様と違って領地運営も努力している上に苦手なことも頑張ってできるちゃんとした人ですよ? それに、公の打診に喜んだ両親より先に本人がきちんと私を望んでくれたのですから……」
顔見知りの兄からすれば、「それが、信じられないな」という言葉が出てくる。素の私とジョージアは、全く真逆の存在なのだ。両方を知っている兄からすれば、もう疑い以外何もないのだろう。
「それって、アンナの外見に騙されてないか?」
兄にものすごくひどい扱いをされてないか? と思うのだけど、隣にいるから、睨むこともできない。
「失礼ですよ! ! 私だって、中身もきちんと磨いています! ! それに、学園での私も知っているので、猫かぶりなところばかりで選ばれていませんよ!」
口では勝てないとばかりに降参のポーズをとる兄を私はわざわざ横を向いて睨む。
「それで、私は1年は向こうで花嫁修業をして、公爵夫人としての教養をつけるようです。まぁ、主に広大な領地運営を公爵一人では賄えないので二人で知恵をしぼるための訓練でした。1年後結婚し、翌年に子供が生まれます。私の子供はこの子だけ。名前は伏せておきます。この子を産むこと、10歳まで育てることが私の使命です」
「使命か」
「はい。そのための結婚と言っても差支えはないのかもしれません」
「政略結婚は貴族の中ではよくあることではあるが、娘にそんな未来が待ち構えているとは。後押しするとはいえ、アンナには、幸せな未来を掴みとってほしい。それは、親として願うことだ」
「わかっています。でも、私は大切にしたい未来があります。大好きな人が幸せになってくれる未来が」
父に笑いかける。私が決めたことは、曲げないことを知っているからか、それ以上は口を噤んだ。
「子どもの容姿は言っておきますね。ジョージア様の生き写し。もうそれは見事に、私の要素は見た目に一つも混ざってません。お兄様の言う銀髪の君そのものです!」
兄はあんぐりしている……。そりゃそうだろう。あんな美人。二人といたら国がいくつなくなるのか。
「それは、男にしても女にしても相当な美貌の持ち主だな。そんな二人と暮らすとなると。アンナはかなり見劣りして、毎日鏡の前で泣かないといけなくなるんじゃないのか……?」
また、なんか、失礼なこと言われてる? と思い、今度は隣にいる兄の足を軽く踏む。声にならない身悶えをしている兄は知らん顔をする。
「ご心配無用ですわ。私、子供を産んだ日より、2歳になる直前までジョージア様には忘れられるので。かなりの冷遇されているとローズディアの社交界ではもっぱらの噂にもなりますしね。私が領地に引っ込んでからも、ジョージア様はソフィアのところで住んでいます」
「なんだって?」
「私は、きちんと衣食住は保証されているし、本宅で使用人たちと何不自由なく楽しく生活していますからご安心ください!」
「アンナを第一夫人として本人が望んだのにも関わらず、捨てるというのか!?」
兄は、まだ起きてもいないことに激高してくれる。本当に優しい兄だ。
「落ち着いてください。私は、それでいいのです。問題は他にもございます。私は、子供の11歳の誕生日まで生きられません」
「さっき、10歳まで育てることが使命といってたことと関係があるのかい?」
父が静かに聞き返す。私はそれに頷く。
「理由は、ソフィアが私の子供に毒を盛ります。大体は避けて通れるのですが、その毒だけは、代わりに私が煽ることになります。それだけは、避けられないので、あと20年くらいしか生きることができないようです」
私の寿命を聞き、父は、目頭を押さえている。母は口元を押さえている。兄は、言葉がでないようだ。
「それまでにも何回か食事に毒を盛られますが、食器を変えたり毒の耐性を付けたりとなんとか避けられます。夢で見られるのもあるので避けられますが、見れないものは口に入れてしまいますね。向こうに行くまでには毒の耐性と知識、解毒剤を作る知識を付けなくてはなりません」
兄の顔が青ざめる。私の手をぎゅっと握ってくれた。
「それなのに、なぜその道を選ぶのだね?」
静かに父に問われる。
「…………私の産む子供が、トワイス国、ローズディア公国、エルドア国の3国を纏めあげる王になるからですよ」
さすがに衝撃が部屋に走る。私が死ぬことが分かっただけでもかなりのものだっただろうが、私が生んだ子供が3国の王になるというのだ……とても信じがたい話である。
「お父様とお母様は、『ハニーローズ』を知っていますか?」
二人とも知らないようで、顔を見合わせている。
「では、もともとこの3国は一つの国だったのはご存知ですよね?」
「あぁ、もちろんだよ」
「その始まりの王が女王だったことはご存知ですか? かの女王の名前は、アンバー女王。とろっとした蜂蜜色の瞳が特徴でした。彼女のことを王配が、『ハニーローズ』と呼んでいたらしいです。3国の記録には、三国の成り立ちがいいものではないので、あまり書物には載っていませんが、アンバー公爵家にはその王配の手記が残っています」
「……そこに『ハニーローズ』というのが載っていると」
「はい。何代かに一度生まれる原初の女王と似た特徴を持つものが『ハニーローズ』と呼ばれています。『ハニーローズ』が生まれる年代は、大きな厄災が起こるが毎世代栄えるとも」
「大きな厄災。……それが、戦争か」
コクンと頷く。それは、私の『予知夢』から導き出した予測ではあったが、きっと、そこにたどり着くのだろう。私の『予知夢』の未来が2つあるのだから。
「今は当時と違い国も分断され一領主となっているアンバー公爵の領主としての手腕もさることながら、王の器としての采配も見事だそうで、『ハニーローズ』が生まれた世代には、王の代行者としてローズディアでは代々重宝されています」
「王の代行者。それはまた大きな話だね。三国をまとめる王か。分断された国を元に戻すことになるのか」
頷くと大きなため息が父から漏れる。途方もない未来に、父も眩暈をおこしそうだ。
「ローズディアでは、法が敷かれており、アンバー公爵家に生まれるすべての蜂蜜色の瞳を持つ者を害したもしくは害そうとした場合は、一族郎党死刑となります。古い法になるので、王家に連なるものとアンバー家のみが伝承されている法になっているようです。一応、トワイス国の法を記した本にも載っているのですが、あまり知られていない気がします」
そこで区切ると、さすがに三人とも気づいたようだ。
「次世代のアンバー公爵家にハニーローズが生まれるということか? その子供を産むのがアンナ? アンバー公爵家は、正当な王家の血筋と……」
父の声が震えている。こんな話、信じてもらえるとは思っていない。
でも、家族なら……こんな私も支えてくれるのではないかと思い話したのだ。
「その通りです。3国に分かれたとき、ローズディア公国の建国者の実妹であった当時のハニーローズを自国で降嫁させ、公爵家に『アンバー』の名前を授けました。これは、当時の公、つまりハニーローズの実兄が意図的にしたものだそうです。ローズディアの初代公は、ハニーローズの存在を巧妙に隠し、他の二人の王子と祖国へクーデターを起こし自身の国を得ました」
「それは知っている。衰退した王国を三人の優秀な王子がそれぞれの国を興したことだね」
「はい。それには、隠された事実があった。隠蔽された実妹である『ハニーローズ』が、もたらす益を実兄は知っていたのです。何世代かごとに生まれた『ハニーローズ』は、アンバー家の領主と定め、他の2国へ出すようなことはしませんでした。その後、調べてみても各王家で蜂蜜色の瞳の子は産まれていません。アンバー公爵家でしか蜂蜜色の瞳の子供は生まれなくなったのです。それも当代一人か二人……。その中でも、『ハニーローズ』は何世代に1度生まれるかどうかの存在です」
かなり壮大な話になってきている。この話を子供の私がずっと抱えてきたのかと思うと三人には、かなり堪えたようだった。