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シード視点
世で言うクリスマスってのはつい先日のことで、クリスマスだからって特別な何かがある訳でもなくて、寝て、起きて、編集して、寝る。ただ普遍的な生活が続くだけ。
「さぶ…」
ただ当たり前のように目が覚めて、起床してみれば、まるで凍えるんじゃないかと疑うレベルの寒気が俺を襲った。
寒くて、何もしたくない。かといって、このままでは布団に逆上りだ。
一足踏ん張って、身体を起こして、そうすれば自然と身体は自由に動いてくれる。顔を洗って、歯を磨いて、当たり前のようにPCと向き合う。
もうすぐ編集鯖へ入ろうとふかした煙草を灰皿に押し付けた。画面に目を移せば、ヤニを摂取しているうちにパソコンは立ち上がっているため、準備は満タン。できることならば編集なんざしたかないが…。
そう思いながら、マウスカーソルを動かして、ぽこんと音を弾ませた入室音
「お前それちげえだろw」
「www」
と、共にやってくる騒音。変わらない日常だと思わせるやりくりが、柄になく延々と続いて欲しいと願うものだ。
「お?シードちゃん」
「ん、シードも来たん?」
騒音の要因はなにやらピンクのガキと高校時代のダチ。二人でわちゃわちゃと何を…と思ったのもつかの間、珍しくゲームに誘われた。てっきり編集するもんだと思い込んでいたものだから拍子抜けという感じだ。
「ニキ鯖きてよ」
その言葉だけでなんのゲームかを瞬時に理解する。脳に刷り込まれた慣れとは恐ろしいものだと思いつつ、某四角い世界のゲームをたちあげ、娯楽の世界へ飲み込まれていった。
✺
それから夢中になっていると時間は刻々と経過し、クソガキも予定があるからと抜けていった。気がつけばゲーム中心だったはずがトーク中心となり、手を動かすことさえも無くなってきていた。くっちゃべって、馬鹿みたいに笑って、ゲームに熱中していた訳でもないのに消費カロリーが酷い。
そんなことを考えているとニキが変なことを言い出す。
「そっちに帰りてえなあ」
ふと、思い耽るような声色で帰りたいと零したんだ。コイツのことだから実家に帰るだけなのだろうと思ったから、来たいなら来ればいいだろうにと素っ気ない言葉を声に出す。
「…あーあ、シードなんもわかってなーい」
俺に不満げな声色に、大変不貞腐れた発言。
まるで鬱陶しい女みたいじゃけ、ほんま癪やわ。
「なんじゃ…」
「お前んち行くわ」
そこに大した意味なんて込められていないことくらいわかるのに、期待で胸を弾ませる自身が鬱陶しい。高校のころから気分屋なニキに振り回されてばかり。そこに喜びが生まれてしまうのも憎たらしく、今日もまたニキのくせに、と思うのだ。
「お前を保護するこっちの身にもなれし」
「んー?なんのことだか?」
「うぜえー…」
冗談まじりに口先から数々の毒を吐き出して会話を繰り広げる。どうせ、口だけで広島までは来ないはず。
「…まあ、なんでもいいから俺の寝床くらい準備しといて」
「は?」
「今からそっち行くけん、ええじゃろ」
そう吐き捨てては通話を落ちる音が聴こえた。本当にこっちまで来る気なようで衝撃的だ。
いくらなんでも気分屋すぎやしないかと、突拍子もない行動力に驚愕しつつ、年末も近づいてきている今日この頃、新幹線のチケットを取ることはできるのか?と疑念が湧き始めた。
すぐさま今日中には来れるのか、新幹線とか大丈夫なのか、と連絡をすると、問題ないと言わんばかりのスタンプが送られてきた。
✺
それから一日も経たぬ間にピンポーンと来客の鐘が鳴る。どうやら本当に新幹線のチケットを取ることができていたらしい。
「案外こっちも寒いんじゃね」
戸を開ければ、鼻先と耳たぶが赤みがかり、肩を縮こめて寒がる同級生の姿がそこにはあった。
「うお、さっさとこっちきいや」
本当に来たのかという衝撃よりもこのままでは風邪をひいてしまうだろうという心配が勝り、中へ案内したが断られてしまった。
「飯いこ」
「ニキの奢りで?」
「やねこいわw」
「飯誘ったんはお前じゃ」
それはそうか、しょうがないと言わんばかりに「まあ、いいよ」と返答が来た。結果論的に言えば、食費が浮いて俺は非常に嬉しいことこの上ない。
「外じゃ寒いけ、ここで待っとって」
飯に行くとなれば、この薄着では心許ないどころか、凍え死んでしまう。何か上着でも取りに行こうと思ったが、母ちゃんが家の扉を閉めろと騒ぐのもあって、上着を取りに行く前に玄関へと誘導した。
「ひいー、さみいさみい…」
そりゃあコート一枚じゃ心許ないわな。見りゃわかるくらいに鼻先やらは赤らんでいて、玄関を開けた際の冷気にですら凍えたのだから、寒くない訳がない。
寒い寒いとうるさいニキを他所目にちゃちゃっと上着を取りに行く。スマホと財布片手に準備をして玄関まで戻り、奢りで飯にありつくとしようじゃないか。
「ほいじゃ、行こっちゃ」
それから飯を食いに行って、ニキの家まで送って、帰り際に「明日俺ん家来て」と誘い込まれた。彼の家は遠いから面倒くさいとは思いつつ、そういうのも悪くもないかとも思ってしまう俺がそこには居た。
✺
翌日になってニキの家を訪問すると、ささっと部屋まで案内された。ニキにしては清潔が保たれているこの空間は何かと違和感がある。なんかこう、悪寒がする感じ。
「ほら、ゲームしよ」
そんな事を考えているとマルチプレイゲームに誘われて、大人しく没頭していった。
それから1、2時間も熱中していたが、2人だとできる範囲も限られてきて飽き飽きとしてきたものだから、ニキがボビーたちも呼ぼう!なんて愉快に誘ってきて、断れるはずもなく。しろせんせーと弐十くんを交えた4人でわちゃわちゃと遊んでいる。
ただ、気がかりなのは時たまニキが咳き込んでいること。昨夜まではそんな素振りはなかったからこそ、少し心配だ。
「っ、なんそれw」
ぐっと堪えてから声を発したニキを見て、次の瞬間には声が出ていた。
「ニキやめとけって」
「え、別に咳出るだけやけん平気」
「悪化されたらこっちが困んのじゃけど」
熱が出ようと、風邪を引こうとも職業魂を燃やしているのは尊敬できる反面、心配の念だってある。自身の身体を蔑ろにする様子は何度も見てきたが、慣れるものではないし、自身の体調を優先してほしいものだ。
「何?ニキくん熱でもあんの?」
「んなことよりシードがそこに居ったこと気にしいよ」
そうだそうだ、としろせんせーの指摘に野次を入れようとした途端、ニキが少し咳き込んだ。大袈裟な咳でも、人体に害があるような咳でもなかったけれど、自分自身の体くらいは大切にしてほしかったから、と彼を気にかける思いは加速していく。
「やめときいよ」
「大丈夫だって…」
意固地に大丈夫と言い張るニキに体調不良でコンディションが悪くなっても困るからという説得をして、弐十くんやらしろせんせーの野次も次第に増え、嫌々ながらも大人しくdiscordを抜けた。
「熱はないけ、大丈夫なんに」
discordを抜けるやいなや、また大丈夫だと抗議を続けてくる。そこまで風邪が酷くないことは俺もわかるのに胸が張り裂けそうなくらい心配で堪らない。こんなことは口が裂けても言えないが…。
「ようけ寝て、はよう治し」
仮にも病人なニキを引きずるようにベッドへ連れて行って、彼が布団に入り込んだのを確認してから傍に座る。
「シード」
何故呼ばれたのかもわからないまま、無視する理由なんてないので呼ばれた方へと顔を向ける。
1秒か、1分か、1時間か、そんなこともわからないほどに長々と意図の汲み取れない眼差しを向けられている。
何を言われるのかなんて想像もつかない。ずっと心臓の音がうるさい。
「俺のこと好き?」
思わず息を飲んだ。俺の全てを見透かされているような感覚に陥っては心拍数が上がる。冷や汗が額をつたって、呼吸さえままならなくなりそうだ。
「なーんてね、冗談よw」
「っはは、きもちわりい…w」
ひゅっと喉奥が開通する。締め付けられているような感覚からは解き放たれたが、心拍数は未だ収まらない。
悟られたくない恋愛感情を押し込めて、あくまでも世の女が好きな自己を演じる。たとえそれが自分に嘘をつくことになったとしてもだ。
「ねー、シードが看病して?」
不意にそういう仲でもないのに俺の太ももに手を添えて、上目遣いで我儘なお強請りをされる。お前が寝ろって言ったんだからどうにかしろ、という念が伝わる。
ああ、もう本当に調子が狂う。
いつになくニキが可愛らしく見えるのだ。そこら辺の女の子のような色気を放っていて、普段よりも弱っていると見てわかるからかもしれないが今なら彼に絶対に勝てるという謎の自信が尚、魅力を引き立たせる。
「いやじゃ…」
このまま進むと後戻り出来ないのが目に見えてしまって、できる限りの拒絶的反応を示した。すると、彼がしょぼくれた顔をしたものだから、罪悪感が募るったらありゃしない。でも、それ以上に邪な感情が入り浸って、もうしっちゃかめっちゃかだ。
そんなこんなで何もかもが気まずくて、それは彼にも伝わってしまったのかごめん、また今度遊ぼう。と、なんとも言えぬ空気感のまま彼の家を後にする。
とぼとぼと歩いて、胸に燻る感情を押さえつけているのに溢れてしまいそうで、足取りは重たいまんま。
今頃寝てるだろう鈍感なあいつにだけはバレとうないなあ、と自身の身を守ることしか考えていられない。
「ほんまは好きなんじゃけどなあ…」
気霜と共に溢れた想いは伝わることを知らず、永久に伝えられず終わるのだろうと、そんな気がしている。