テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
『…大森さん?』
声をかけてきたその男は、思っていたより背が高かった。
駅前のロータリー。人の行き交う雑踏の中で、その存在だけが少し浮いて見える。
「…あ、はい。若井さんですか?マッチングアプリの」
『はい…。早速ですけど、行きますか?』
「そうですね…」
会話はそれで終わった。
互いに自己紹介も、仕事の話も、趣味も尋ねない。 必要ないからだ。
雑踏を抜け、2人は並んで歩く。肩が触れるほど近くもなく、かといって距離を取るわけでもない。ちぐはぐな歩幅を合わせる気配すらなかった。
繁華街を外れたあたりで、男は自然に足を止め、現れたラブホテルの看板にほんの一瞬だけ顎を向けた。
『…ここでいいですか?』
「ええ、構いません」
形式的な確認だけを交わし、2人はエレベーターへと吸い込まれていく。流れるBGMは無機質で、ホテル特有の乾いた空調の匂いが鼻をかすめた。
部屋に入った瞬間、ドアの閉まる音が背中を切り離すように響いた。
男は躊躇いなく靴を脱ぎ、ベットの脇に腰を下ろす。俺はネクタイを緩めながら、その光景を冷めた目で見ていた。
互いの名前すら、本名かどうか定かではない。だが、そんなことはどうでもよかった。
これから始まることは、ただの習慣であり、消耗品のような時間に過ぎないのだから。
コメント
2件
わ…!新連載‼️‼️楽しみぃ…!! 冷たい感じがそれまたいい…😸💓💓