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「フリード!」
金羊騎士団の中の一人の騎士がフリードの名を呼んだ。
耀くような金髪に鮮やかな緑の瞳の類まれな美貌の若者である。
「ヴァレリウスか」
共に竜王を倒した竜殺しの仲間の一人である。彼は正式に騎士に叙任される前の武者修行として一時冒険者となり、フリードと行動を共にしたのである。
「君は既に天使と戦ったのか?」
再会の挨拶もそこそこにヴァレリウスがフリードに問うた。
「ああ、戦った。最初は故郷の村でな。次で三度めだ。お前は?」
「一度戦って一人……一人と数えていいのかよく分からないが、倒したよ」
「じゃあ、感じたか?不思議な力を、今まで感じたことの無い力で一時的に強くなったことを」
ヴァレリウスは無言で頷いた。
「あの力は一体……」
「さあな。おそらく竜王を倒したことと何か関係あるんだろうな。それは間違いない。そしてそれは何故か天使と戦う時だけ発揮されるらしい」
「天使とドラゴンは戦い、滅ぼし合うことが運命づけられているようだ。ならば竜殺しである私たちが成すべきことは……」
「ふん、決まっている。ドラゴンも天使も両方倒せばいい。それだけだ」
フリードは斬りつけるように言った。思考を単純にすることが強さとなると信じているフリードはことあるごとに考えに沈み込み、ともすれば行動が遅れがちになるヴァレリウスに苛立ちを感じることが多い。
当然、思慮深いことを自認するヴァレリウスはフリードを思慮の浅い男だと軽蔑していることだろう。まさに水と油である。
だがいざ戦いとなれば正反対の個性を持つ二人が互いの欠点を補い、不思議と息の合った攻撃を繰り広げて無類の戦果を残すのである。
「いたぞ!」
地方最大の湖であるサイアム湖にてその戦いは行われていた。
「あれはグレータードラゴンだな」
ファ―ルス村で天使と戦ったレッドドラゴンと同種である。その青い鱗のドラゴンは風を操る能力を持つのだろう、突風を起こし、風を刃に変えて天使を攻撃していた。
戦いが始まって数時間は経過しているだろう、ブルードラゴンは相当に傷ついており、天使の数は六体程である。
ここまでブルードラゴンを追い詰めるのにどれ程の犠牲を払ったのか。
「もうすぐ決着が着くだろう。天使の勝ちは確実だ。これ以上数は減るまい。まあ、これだけの戦力があれば六体でも倒すことは出来るか……」
ヴァレリウスは同僚である金羊騎士団とフリードが引き連れた一行を見ながら言った。
「私の仲間は皆腕が立つものばかりだ。君が連れてきている者達はどうなんだ?君が選んだのだからおそらく大丈夫だとは思うが……」
ヴァレリウスが問いかけたが、フリードの耳には入っていないようであった。その琥珀色の瞳は天使たちを凝視している。
「おい、あの天使共……。今までの奴らと少し違わないか?」
フリードが呟いた。
「何だって?」
言葉の意味を理解出来なかったヴァレリウスはその鮮やかな緑玉の如き瞳を天空に向けた。
戦いはいまだ繰り広げられていた。天使達が纏い、また掌から発せられる光、その飛行する速度、エルダードラゴンに浴びせる斬撃。
「確かに……。私が前に戦った天使よりも明らかに強い!それに心なしか翼が大きいし、その纏い放たれる光もより鮮やかで威力があるような気がする」
「ふん、ドラゴンにも位があるからな。ドラゴンロードを頂点に、エルダードラゴン、ノーブルドラゴン、グレータードラゴンにレッサードラゴン。学者によればさらにもっと細かく分類されるようだが、まあ、それはどうでもいい。ドラゴンも生まれや生きた年月によって強さが分かれるように、天使共にも上位の存在と下位の存在があるってことかもな」
「じゃあ、もしかしたら、天使にも竜王のような最上位の存在がいるかもしれないってことか。それは一体どれ程の強さを持ち、どれ程の数が存在するのか……」
「そんなの知るか。考えても無駄なことだ。奴らに関しては何も分からないし、戦い続けたらいずれ分かる時がくるだろう。まあ、まずは……」
フリードが獰猛な笑みを浮かべながら大剣を鞘から抜き、正眼に構えた。
「今まで現れた中で最も強いだろうあいつらを倒すことに集中しようぜ」
ヴァレリウスが視線を戻すと、エルダードラゴンはその巨体を湖に沈めようとしていた。
そしてその姿を最後まで見届けると、残り六体となった天使は休息を取る様子も無く真直ぐにフリード達目掛けて飛んできた。
「戦闘準備!」
ヴァレリウスが烈々たる声で号令を発し、剣と盾を構えた。
その声に鞭打たれたように同僚の金羊騎士団のみならず冒険者や傭兵たちまでもがそれぞれ武器を構え、闘志を露わにした。