テラーノベル
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最強の男、逆神六駆。
彼に敵う者は未だ現れず。
貯金もいつしか1千万を超えて、夢の隠居生活へと着実に歩みを進めていた。
全てが順風満帆に思える彼は、一度戦いの地から離れる。
戦士にも休息は必要である。
血生臭い毎日よさらば。あるべき日常へおかえりなさい。
「逆神。あのな、先生だってお前をいじめたくて言っている訳じゃないんだぞ? お前の家が複雑な家庭なのも分かる。家計を支えるために探索員やってるお前は立派だ。先生は本当にお前の担任で誇らしいよ」
こちらは御滝中央高校の生徒指導室。
六駆の担任である石井先生は、最強の男との対話に挑んでいた。
「だからな、勉強する時間が確保できないってのも先生、分かるんだ。学校も休みがちだしな? うん、試験の内容はちょっと逆神には難しかったかもしれないな」
六駆の前には7枚の試験用紙がある。
既に採点済みであり、本日のメインディッシュである。
「逆神? 先生ね、怒ってるわけじゃないんだぞ? いいか、左端の数学から確認していくぞ。0点。0点。2点。0点。2点。2点。0点。……野球のスコアじゃないぞ? 逆神の期末試験の点数だ。合計で6点しかないな? 六駆と言う名前に愛着があっても、点数まで寄せなくてもいいだろう?」
逆神六駆、彼はついにやらかしたのだった。
期末試験の前の勉強はもちろんさせようとした。
チーム莉子が総出で頑張った。
それを『瞬動・三重』と『幻想身・三重』で全て躱したのがこの男。
それでも試験日はやって来る。
六駆は考えた。
「全部同じ番号選べば、最低でも4分の1で当たるよ!」と。
彼は油断していた。
最強の男にあるまじき失態と言い換えてもいい。
試験開始を担当教諭が告げ、答案用紙を見て六駆は絶望した。
そもそも4択問題ではなかったのだ。大半が記述式の問題だった。
直前に会話した相手が父の大吾だったのも悪かった。
大吾は言った。
「4択なら当てずっぽうでも25パーセントで当たるんだぜ? 25パーセントって分かるか? パチンコだったらもう、それ当たってるのと同じだからな?」
何を言っているのか分からない諸君は正常。
ちょっとでも分かりみが深い場合は、速やかにしかるべき施設へ電話しよう。
大丈夫。まだ間に合う。
さらに大吾は続けた。
4択問題には必勝法があると。
ライアーゲームだったら2コマで退場しそうなギャンブル依存症が、賢し気に言った。
「困った時はライフラインを使う。これ、父さんの世代なら常識な。テレフォン、オーディエンス。これは早めに使ってもいい。それで、終盤に使いたいのがフィフティ・フィフティだ。これヤベーぞ? なんと、問題が2択になる」
六駆は彼の体感時間で実に30年ぶりに父を尊敬したと言う。
それでは、悲劇のプレイバックと参ろうではないか、諸君。覚悟は良いか。
◆◇◆◇◆◇◆◇
試験当日。
1時間目の数学の答案用紙を見て、六駆は4択ではない旨を悟り、手を挙げた。
「先生! この問題、ちょっとおかしいですよ! ねえ、みんな!!」
早速ライフラインの1つであるオーディエンスを発動。
彼の呼びかけに反応したオーディエンスは莉子だけだった。
「六駆くんってば! とにかく頑張って答えを埋めようっ! もしかしたら奇跡が起きるかもだよっ!!」
「そうか! 戦う前から諦めちゃダメだよね!!」
六駆は考えた。
相手が複数の属性を保持している場合、こちらは下手に手数を増やさずに同じ属性で攻撃し続けるのがベターであると。
その結果、数学のテストは全て「7」で答案用紙が埋め尽くされた。
彼曰く、「7はラッキー属性」だそうで、全部で30問もあればいつかは当たるだろうと言う判断だったらしい。
どんな判断だ。
全てをミスった六駆は、最初の方にあった簡単な掛け算のいわゆる「ウェルカム問題」すら間違えた。
11×8すら間違えた。
こうなると、狂った歯車は悲鳴を上げる。
次の現代文の試験も当然のように記述式であり、彼は手を挙げた。
「すみません! 電話を一本だけかけさせてください!!」
「いや、ダメだぞ? アメリカのスパイドラマみたいな事言い出すんじゃない」
ライフラインのテレフォン、不発に終わる。
代わりに対応したのは莉子だった。
「六駆くん! とにかく思った事を書いてみて! もしかしたら、万が一の確率で当たるかもだよっ!!」
「そうか! 戦場で棒立ちになるのは愚策! ありがとう、莉子! 目が覚めたよ!!」
結果、六駆は全ての解答欄を「おっしゃっている意味は分かりかねます」で埋めた。
ちょっとだけ丁寧語になっているところにインテリジェンスを感じた国語の植松先生は、温情で2点ほど加点してくれたと言う。
転がり始めた悲劇は加速度的にスピードを増していく。
3時間目。4時間目とことごとくアレな結果で終わった六駆は、昼ご飯を食べてカロリーが脳に回ったのか、5時間目が勝負と打って出た。
「先生! フィフティ・フィフティでお願いします!!」
「留年か退学だよ」
とりあえず2択にはなった。ただそれだけだった。
こうして逆神六駆は激闘を終え、翌日の採点日を自宅でゆるりと過ごし、本日意気揚々と登校して来たのだった。
時系列は再び現在へ戻る。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「逆神? 家の人を呼ぶように言ったよな? お父さんはどうした?」
「どうしても外せない用事があると言って、朝9時に出かけて行きました」
「そうか。お仕事かな?」
「はい。パチンコです」
「逆神? パチンコは仕事じゃないぞ?」
「えっ!?」
石井先生は大学時代、アメフト部のラインバックで鳴らした粘り強さで六駆と向き合っていた。
「どうして逆神がこうなる前に手を打たなかったのだろう」と後悔すらしていた。
六駆の担任にしておくには惜しい聖職者である。
と、ここでついに本物のライフラインが到着する。
「失礼します! 私、日本探索員協会で監察官をしております! 南雲修一と申します! 逆神くんの上官です! 小坂くんから連絡を受けて飛んでまいりました! 先生、お話は私が! あとこちら、どうぞ! 羊羹です!!」
南雲修一がやって来た。
彼は六駆に命の危機を救われた事がある。
ならば、六駆の危機に救いの手を差し伸べないでどうするのか。
「南雲さんですか。保護者の代理の方と言う事でよろしいですか?」
「はい。おじい様から委任状を受け取って参りました。この度はとんだご迷惑をおかけしまして。私の監督責任でございます。どうか、追試の機会を頂けないでしょうか。私ども、全力をもって逆神くんをサポートいたします!!」
南雲の情熱は、石井先生に届いた。
六駆は1週間後に追試を受けることが決定。
そこで各教科30点以上を取れば留年は三学期の試験まで判断を見送ると話は纏まった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
苦渋の決断である。
正義と良心を旨とする南雲修一にとって、身を切る思いだった。
だが、自分の信念を曲げて恩人が助かるのならば、彼は修羅になる。
「山根くん。小型サーベイランスの感度は?」
「上々っす」
「では、ナビを開始しろ」
「うーっす。逆神くん。1番の答えからいくっすよ。98。次の答えはXイコール4っすけど、途中の式がないと怪しいんで、映像送るっす。メガネ型のモニターに出てるっすか? それじゃ、そのまま模写してくださいっす。適当に間違えとくっすから」
組織ぐるみのカンニング行為に打って出た南雲監察官室。
南雲監察官室の大発明、サーベイランス。
その逸品が最もしょうもない使われ方をしたのがこの1件だったと、南雲は後年語る事になる。
なお、六駆はカンニングのおかげで追試をクリアした。
世の中は不条理に満ちていると声を大にして叫ぶ時は今かもしれない。
コメント
1件
いやもう、笑った笑った。最強のダンジョン探索員がまさか期末試験でボロボロになるとは思わなかったです(笑)。「おっしゃっている意味は分かりかねます」で全問埋める発想とか、フィフティ・フィフティで「留年か退学」の2択になる流れとか、逆神くんのバカっぽさが最高でした。そして南雲さんがまさかの組織ぐるみカンニングに手を染めるとは…! 世界の不条理を感じるラストも含めて、とても楽しかったです。続きも楽しみにしてますね。
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