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――お兄様とロザリエがやってくるからといって、身構えたりするなんて失礼ですよね。


もしかしたら、私と仲良くするために計画されたものかもしれませんし……

そう思って、なるべく前向きに考えようとしていた。


「シルヴィエ様。薬草の本を借りて参りました」

「ありがとう」

「勉強ばかりでは、大変でしょう?」

「いいえ。元々、興味があった分野ですから、楽しく学ばせてもらってます」


秋からは、医療院に付属している学院へ通うことになっていた。

本格的に勉強し、薬草師を目指す。

そして、最終的にはレネの毒に勝てるような解毒薬を調合してみせる!

ちらっとレネを見た。

レネは私の最強の味方にして、最大のライバルなのである。


「私にお友達ができるといいのですけど」

「シルヴィエ様なら、きっと人気者になりますよ!」

「そうですか? 感動の胴上げとか、肩を組んでの語り合いとか、そんな青春が私にも送れますか!?」

「えっ!? う、うーん。シルヴィエ様は熱い青春をお望みなんですね」


侍女の反応を見る限りでは、ちょっと難しそうだった。

しょんぼりしながら、本を開く。

出遅れているから、少しでも知識を身に付けておこうと、毎日、薬草学の勉強をしていた。

そして、王宮の薬草師たちから調合を学んでいる。

忙しい薬草師たちから、じかに教えてもらえるのは、申し訳ない気がしていたけれど、薬草師たちは毒の神の化身であるレネを一目見ようと、先を争って訪れていた。


「この間なんて、医療院の院長が、風の宮に来ていましたからね……」


レネは用意されたお茶を飲み、ご機嫌の様子。

日差しのあまり強くない場所で、こっそり昼寝をするくらいには、人に慣れてきた。


「シルヴィエ様。その茶色の瓶に入った薬は、なにか特別な薬ですか?」


私が鍵付きの戸棚に大事にしまったのを見た侍女たちが、なんの薬だろうと興味津々に聞いてきた。


「ええ。医療院の院長にお願いして、特別にいただいのです」


これは、ロザリエのために用意した薬だった。

貴重な薬で、なかなか手に入らない。

私はロザリエの毒をなんとかできる薬はないか、アレシュ様に相談したのだった。

その薬がこの茶色の瓶の中に入っている。


「受け取ってもらえたらいいのですけど……」


結婚した私の様子をうかがうためという名目で、二人はやってくる。

表向きの理由が、友好的な理由だったのもあり、つい私は、ロザリエがやってきた時のことを想像してしまう。


『あの時は素直になれなくてごめんなさい。お姉様! 本当はお姉様が大好きです』


――なんていう展開の可能性はないでしょうか?


結婚して、私も国を離れたわけですから、もしかしたら、ロザリエは私に対する態度も変わっているかもしれません!

そんな期待に満ちあふれていた。


「シルヴィエ様! ロザリエ様から手紙が届きましたよ」

「手紙ですか!? 本当にロザリエから?」


侍女はにこにこと笑って、届いた手紙を渡してくれた。

帝国の紋章入りの封筒で、間違いなく本物。

なにが書いてあるか気になって、慌てて封筒を開いた。


「えっと……。親愛なるお姉様って書いてありますっ!」


すでに一行目部分(本文ではない)で、感動している私に、侍女たちはにこにこと微笑んでいた。


「私のわがままを聞いてくれて嬉しいですって……。ロザリエは大人になりましたね」


感動しながら、手紙を読み進めているうちに、私が疑い深くて、悪い人間に思えてきた。

手紙を読む限り、ロザリエに嫌なところはなかった。


「ドルトルージェ王国の令嬢たちとも親交を深め、お互いを理解し、仲良くしたい。ですから、交流の場を設けていただきたいと、ロザリエから言ってくるなんて……」


皇位継承者として指名されたからか、こちらの令嬢たちと仲良くしたいと思ったのかもしれない。


「ふふふっ。この手紙をアレシュ様にも見ていただきましょう」

「手紙? 誰からの?」

「アレシュ様! いつの間にお戻りになられたんですか?」

「レグヴラーナ帝国から怪しげな手紙が届いたというから、俺も一緒に来たんだが」

「怪しくありませんでしたよ」


ものすごく疑っているけれど、中身を読んだら、きっとそんな気持ちもなくなるはずだ。

アレシュ様は腕のヴァルトルを窓から放ち、手甲を外す。

今日の仕事はこれで終わったらしく、侍女たちはお湯や着替えを用意する。

よく見ると、アレシュ様は王宮の外に出掛けていたのか、草や砂が衣服に残っていた。


「ロザリエからの手紙です。ぜひ、アレシュ様もご覧になってください」


あまりに嬉しくて、得意顔で手紙を差し出した。

アレシュ様は受け取り、さっと手紙に目を通したかと思うと、すぐに苦笑を浮かべた。

なぜ、そんな顔をしたのか、私にはわからなかった。


「それで、この手紙を額にいれて、飾っておきたいのですが……」

「シルヴィエ」

「はい?」

「俺はお前を傷つける者は許さない。だからこそ、隠さずに言う」


アレシュ様は侍女が持ってきたお湯で、手を洗い、砂を落とす。


「ヴァルトルの目を使い、帝国との国境ギリギリまで飛ばした。越えてもよかったが、そうする必要がなかった」


最近、アレシュ様が忙しそうにしていたのは、偵察のためなのだとわかった。

今もヴァルトルを飛ばしたのは、帝国からやってくる兵士たちを警戒しているから。

もちろん、ドルトルージェ王国にとって、レグヴラーナ帝国は信用できない国だと、わかっているけれど――


「国境に大勢の兵士がいるのを確認した」

「お兄様とロザリエを守るためではないのですか?」

「どうだろうな……」


アレシュ様は私が傷つくと思ったのか、それ以上、詳しく言わなかった。


「そ、そうですよね! 私もおかしいと思ったんです。でも、ロザリエが私に手紙を書いてくれたことは、喜んでいいですよね?」

「ああ……」

「生まれて初めて手紙をもらったので、深く考えず、浮かれてしまいました」


なんて、お恥ずかしい……

幽閉時代の自分が、時々出てしまい、王太子妃としての振る舞いではなかったと反省した。

額に飾るのは諦めて、戸棚の中に仕舞った。


――浮かれてないで、もっと深刻に考えなければなりません。国境にいる兵が動き、帝国が攻めて込んできたら、ドルトルージェ王国での私の立場は悪くなり、民は私を憎むでしょう。


なんのための妻なのかと、言われてもおかしくない。

ようやく信頼してもらえた矢先に、帝国は国境に兵を置いた。


「心配しなくていい。シルヴィエはもうドルトルージェの人間だ」

「はい……」


この手紙は形だけのもの。

私を油断させるための道具として、手紙をつかったのだ。

それでも、私は心の隅では、まだ期待している自分がいる。


「便箋と封筒を持ってきてくれ」


アレシュ様が侍女に頼んだのは、手紙を書く道具だった。


「アレシュ様? お仕事が終わったのでは、ありませんか?」

「シルヴィエに手紙を送る。受け取ってくれるか?」

「もちろん大歓迎です! では、私もアレシュ様にお返事を書きますね!」


アレシュ様は侍女から、便箋を受け取る。

しばし待つこと、小一時間……

私が刺繍を終えても、手紙はまだ書き終わらないようで、悪戦苦闘していた。

それを眺めていた侍女たちが、くすくすと笑った。


「アレシュ様は手紙が苦手なんですよ」

「手紙を送るより、自分で言葉を伝えるほうが得意ですからね。口で言うほうが早いと言って、王宮からよく抜け出して、手紙を送る相手の元へ遊びに行ってたんですよ」

「おい、ばらすな」


前髪をぐしゃぐしゃにして、手でかきあげ、アレシュ様はうなる。


「アレシュ様にも苦手なことがあるとわかったので、安心しました」

「ぐ……。待ってろ。今、すごい手紙を書いているからな!」

「はい。楽しみにしております」


侍女たちがちらちらと私を見てきた。


「あのぅ、恐れながら、私たちもシルヴィエ様に手紙を書いてもよろしいですか?」

「まあ! 私に手紙をいただけるのですか? とっても嬉しいです。ぜひ、お返事させてください!」


わあっと歓声が起きる。

この国で、まだ友人も知り合いもいない私にとって、侍女たちが教えてくれるドルトルージェ王国の日常は、興味深く面白い。

家族のこと、犬のこと、ドルトルージェ王国の四季のについて――どれも楽しくて、目新しいものばかり。


「私は幸せ者ですね……」


一生懸命書いているアレシュ様と侍女たちの姿を眺め、しみじみ心から、そう思った。


「シルヴィエ様。この便箋をお使いください。レース模様が可愛くて、おすすめです」

「こちらの便箋も可愛らしいですよ。犬の絵が描いてあります」

「ありがとう」


アレシュ様は書いた手紙のインクを乾かし、封筒へ仕舞う。


「よし! 完成した!」


アレシュ様は丁寧に王家の紋章が入った封かんまでされ、私に手紙を差し出す。

わくわくしながら、中身を取り出した。


『最愛の我が妻へ』

『早朝、剣の稽古をした後、部屋に戻る。寝起きの妻はぼんやりしがち。それが可愛らしいと思う』

『レネに話しかけ、一人語っていたが、返事がなくしょんぼりしていた。会話ができないのだと教えたが、毎日挑戦しているようだ』


これは、延々と続く私の観察日記……

私の仕草から、美味しかったと言ったものまで、しっかり覚えていた。


「内容が詳しすぎです!」

「ん? なにが?」

「い、いえ……。ありがとうございます」


アレシュ様はうまく書けたと思ったらしく、得意顔だった。

そして、ロザリエの手紙を手にする。


「さて、帝国側の客人たちをもてなす方法を考えるか」


アレシュ様はロザリエの手紙を眺め、目を細めた。


「俺の妻を傷つけるのであれば、手加減はしない」


ヴァルトルが獲物を狩る時と同じ空気を漂わせ、にやりと笑った。

レネはインク瓶の影に隠れ、私と同じように、好戦的なアレシュ様を見上げていた――

呪われた皇女の結婚~敵国に嫁がせていただきありがとうございます!~

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