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翌日、ナイトレイブンカレッジは朝から妙にざわついていた。
「聞いたか? 昨夜、実験棟の結界が壊れたらしい」
「魔力の暴走だってさ」
ユウは嫌な予感を覚えながら、教室へ向かっていた。
その途中、廊下の角でエースに呼び止められる。
「ユウ、ちょっと待て」
いつもの軽い調子じゃない。
眉を寄せた、真剣な表情だった。
「今日、なるべく一人で動くな。
オンボロ寮生が巻き込まれる可能性、高い」
「どういうこと?」
「壊れた結界、原因不明。
でも“魔力のない存在”が引き金になった可能性があるって話が出てる」
――それって。
ユウが言葉を失う前に、エースは低い声で続けた。
「まだ噂レベルだ。
でも、変なのに目ぇつけられる前に俺の近くにいろ」
その言葉に、胸がきゅっと締めつけられた。
「……ありがとう」
「礼はいらねーよ」
そう言って歩き出すエースの背中が、やけに頼もしく見えた。
昼過ぎ、問題は現実になる。
実験棟付近で、魔法薬の保管庫が暴走。
封印されていた魔力が廊下へ溢れ出し、
通りかかった生徒たちが次々と足止めを食らった。
「ユウ、下がれ!」
エースの叫び声と同時に、床が歪む。
逃げ遅れたユウの足が、黒い魔力に絡め取られた。
「っ……!」
視界が揺れ、体が持ち上がる。
「ユウ!」
エースが無理やり魔法を放つが、押し返される。
「くそ……!」
その瞬間、ユウは思った。
――また、迷惑をかける。
でも次の瞬間、エースは迷いなく前に出た。
「離れろ!!」
自分の限界を超えた魔力で、暴走をねじ伏せる。
衝撃で床に倒れ込んだエースのもとへ、ユウは駆け寄った。
「エース! 大丈夫!?」
「……最悪。
ヒーロー役って柄じゃねーのに」
そう言いながらも、手はユウを離さなかった。
騒動のあと、保健室。
ベッドの横で、ユウは俯いていた。
「私のせいで……」
「ちげーよ」
エースの声は、はっきりしていた。
「お前の存在を理由に何か起きるなら、
それを守るのが仲間だろ」
ユウは顔を上げる。
「……どうして、そこまで」
エースは少し黙ってから、視線を逸らした。
「理由、言わせんなって」
沈黙のあと、ぽつりと零す。
「失いたくねーんだよ。
オンボロ寮で、笑ってるお前」
その言葉が、胸に深く落ちた。
ユウはそっと、エースの手を握る。
「私も……エースがいなくなるの、嫌」
指先が絡み、二人の距離が近づく。
キスまではいかない。
でも、確かに“恋”だと分かる温度だった。
その日以降、学園ではユウを巡る視線が変わった。
危険な存在ではなく、
“守られるべき大切な存在”として。
そしてエースは、以前よりも堂々とユウの隣に立つ。
「なあ、ユウ」
帰り道、ふいに言う。
「次に何か起きても、
俺から離れんなよ」
ユウは微笑んで、答えた。
「うん。一緒に帰ろう、オンボロ寮へ」
夜の学園に、二人分の足音が重なっていった。