文スト 太i宰 と 敦i
BL
R指定△
地雷さん さよなら
「 太 」『 敦 』
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『君の光に溺れる ― 数年後 ―』
ヨコハマの夜は、以前よりも穏やかだった。
街の明かりが強くなり、港には観覧車の光が滲んでいる。
風の匂いも、あの頃とは少し違っていた。
武装探偵社の新しい拠点。
敦は資料の山を前に、ひと息つく。
任務帰りのコートには、夜風の冷たさが残っていた。
――何年経っても、この街は変わらないな。
そんな独り言を胸の中で呟いたとき。
背後から、どこか懐かしい声が響いた。
「相変わらず、働き者だね、敦君。」
ペンを握る手が止まる。
その声を忘れるはずがなかった。
振り返ると、窓の縁に寄りかかる太宰がいた。
少し髪が伸びて、表情は穏やか。
けれど、あの頃の面影は確かにそこにあった。
『 ……太宰さん。 』
「やぁ、久しぶり。」
柔らかい笑顔。
敦の胸が静かに波立つ。
『 どうしてここに? 』
「探偵社の新拠点、見てみたくてね。君に会えるかもしれないと思って。」
軽い口調。
でも、その言葉の奥には、ほんの少しの躊躇が混じっていた。
敦は席を立ち、太宰の方へ歩み寄る。
『 無茶ばっかりしてた頃が、懐かしいですね。 』
「懐かしいなんて言うには、君が成長しすぎたよ。」
太宰は目を細めて笑う。
敦の肩の高さは、もう自分とほとんど変わらない。
「君、ずいぶん頼もしくなった。」
『 太宰さんがいなかったら、ここまで来れませんでした。 』
「ふふ、それは少し光栄だ。」
静かな間。
外の風がカーテンを揺らす。
敦がふと尋ねる。
『 ……太宰さん。今は、探してるんですか? 』
「何を?」
『 死に場所、です。 』
太宰は少しだけ目を伏せた。
そして、ゆっくり首を振る。
「いや。君に会ってからは、あまり真面目に探せなくなった。」
『 ……そうですか。 』
敦の胸の奥がじんわりと熱くなる。
太宰の言葉は、相変わらず飄々としているのに、そこに本音が透けていた。
「私はね、敦君。」
『 はい。 』
「君の隣に立てるような人間じゃないと思ってた。
でも今、君を見てると、少しだけ――許されてる気がするんだ。」
敦は答えずに、ただ微笑んだ。
太宰がそれを見て、ほんの一瞬だけ息を飲む。
「……変わったね、敦君。」
『 太宰さんが変えてくれたんですよ。 』
窓の外、夜風に光る街の明かり。
二人の影が重なり、やがて静かに並んだ。
何も言わなくても、伝わる想いがある。
言葉にしないからこそ、消えない絆がある。
太宰は空を見上げて、小さく笑った。
「やれやれ。君の光は、相変わらず眩しいな。」
『 太宰さんが、それを見上げてくれるなら……それでいいです。 』
沈黙。
けれど、その沈黙の中に、確かな温もりがあった。
夜がゆっくり明けていく。
二人の影は少しずつ薄れ、それでも――
互いの心に残る光は、消えることなくそこにあった。
〜 〜 〜 〜
完結 。







