テラーノベル
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きっかけは些細なものだった。
でも1度意識してしまうと、そのまま沼とやらに嵌って抜け出せなくなるタイプだから。
あの瞬間に僕は恋に落ちた。
◇◇◇
「そういえば、もうすぐ誕生日じゃん」
MV撮影の合間、休憩中に元貴が眠たげにそう呟いた。主語がなくても分かる。言葉を向けられたのは僕だ。続けて若井が、
「あぁ、そうだね。誕プレ今年は何にしようか。涼ちゃん欲しい物ある?」
とこちらを見てきた。毎年のくだりで、5月に入れば2人から聞かれるので、いつもは考えておくのだが。今年は例年より忙しくすっかり忘れていた。
「えー、んー…。どうしようかなあ」
悩むの珍しいね、今無いの?と言われるが、正直物より思い出が欲しい。だがそんな時間は直近で無く、当日すら仕事で埋まっている。ここは無難にアクセサリーとかにしておこう。
「いやあるにはあるんだよね。ネックレスが欲しいんだけど…」
口にした後、後悔する。気になっている物は、1部店舗限定の数が限られているやつだったのを思い出したのだ。
「おー、どんな?」
スマホを手に持っていたので、見せろと言う意味でイスを引き隣に座られる。迷惑を掛けてしまう自信しかないが、とりあえず検索する。
「これなんだよね」
シルバーの、三角形の飾りがひとつ付いたあまり光沢感がないシンプルなもの。ブランド自体はさほど高く無いが見つけれないと思うからゲームで、と一応言っておいた。期待をするまでもなかった。
2週間程経ち、誕生日がみんなにおめでとうといわれる位のもので過ぎ去って言ったが、僕達はちゃんと全員分の誕生日会を開く。今日は6日遅れの会を個室がある良さげなお店で行っていた。
「「涼ちゃん誕生日おめでとう〜!」」
乾杯のために高く挙げられたグラスをぶつけ、2人からお祝いの言葉を貰う。2人ともありがとう。今年で何歳になったの?12歳かな。12歳だね。ちょっとまだその設定続いてたの?設定って何?ねえ若井。ほんとだよな、といつものノリで会話が弾んでいく。
暫く食事をしながら談笑していたが、おもむろに元貴が、
「そうだ、プレゼント渡してねーじゃん」
と言い出した。楽しくて忘れていたがそういえばそうだった。まずは俺からね、と少し大きめの包み紙を袋から取りだした。開けていい?と了承を得ると、中身は上着だった。しかも、僕の愛用しているブランドの新作。気になっていたやつで、やっぱり元貴はセンスがいい。ありがとうと微笑むと照れ臭そうにはい、良かったですと顔を顰めて言う。
次は俺ねと若井が鞄から小さめの箱を取り出す。ラッピングされていて、中身が分からないが、欲しいと伝えたゲームでは無さそうだ。こちらも開けてみる。
この瞬間からだった。
中身は、あの例のネックレス。混乱した。だって、オープン前から並んでも買える物ではない。転売対策がバッチリでネットでも売ってないから、信じれなかった。固まっていると、
「あ、ごめん。この前の話ばっかり意識して選んじゃった、もしかしてもう欲しく無かった…?」
と不安そうに尋ねてくる。慌てて首を振って、
「そんなわけない!ちょっと信じられなくて、どうやって手に入れたの…?」
ほっとして君は説明を始めてくれた。あの時の会話以来、ネットや近場の店舗で見てみたがどこにも無かったそうで。じゃあちょっと遠くまで行ってみようと冒険をして、何件か回ってやっと店長がこれ?と奥から持ってきてくれたそうだ。簡単に言っていたけど、ものすごく時間がかかっているじゃないか。それに自分の誕生日すら言われないと気づかないほどここ最近激務だったのに、その間を縫って探してくれたのか。色々と込み上げてくるものがあり、目頭が熱くなる。遠くで涼ちゃん泣いてる!?という2人の声が聞こえる。
それに、忘れているかもしれないけど。このブランドは出会ってすぐに君がおすすめしてくれたんだよ。
こんな簡単なことで、なのかもしれない。でも僕は不覚にもこの時久しぶりにキュンとなったのを覚えている。
◇◇◇
読んでくださりありがとうございます!
涼ちゃんのバースデー企画、りょつぱ編を書こうと思ったのですがこちらと被ると思い一旦保留にさせて貰います。個人的に涼ちゃんは思い出を大切にするタイプだと思っていて、そこがきっかけでときめいてしまうというのをイメージしました。皆さんはミセスの御三方はどんなタイプだと思いますか?
次もぜひ読んで頂けると嬉しいです。
コメント
2件
みたらし団子さんの作品、3人の愛、3人への愛が詰まっていて、大好きです.... お話の優しさに心がきゅっと暖かくなりました、ありがとうございます…