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『2回の裏、大火熱血高校の攻撃は、4番・ファースト・熱海君』
「うおぉおぉっ! 行くぜぇえええ!!」
4番打者の熱海が打席に入る。
彼女は大きな声で叫び、素振りを行った後に構える。
(ふぅ……。暑苦しい連中だな」
龍之介は内心で愚痴をこぼす。
今日は、11月とは思えないほど気温が高い。
それに加え、対戦相手まで野球熱に侵されている。
否が応でも、体感気温は増していくばかりだった。
『ストライクッ! バッターアウトッ!!』
そんなことを考えているうちに、熱海を三振に仕留めた。
ツーボール・ツーストライクからファウルを挟み、合計で6球を費やした。
(勢いばかりに見せかけて、意外に選球眼も良いんだよな。しかも、粘り強さもあるし……)
龍之介は相手打線をそう評価する。
明らかに、1回戦や2回戦の打線とは異なる。
そもそも、3回戦で当たるには少し早いように感じる打線だ。
龍之介は組み合わせ運の悪さを呪う。
(……まぁいい。頑張って勝ち進んでいけば、春の甲子園に出場できる機会も巡ってくるだろう。そうなれば、冬休みあたりに強化合宿をするなんてのもいいな)
龍之介は前向きに考える。
そして、相手打者に向き直った。
『5番・ライト・灯谷君』
「まだまだぁっ!! 次こそ出塁やるぜぇええ!!」
灯谷がフルスイングする。
5球目を打ったそれは、本来ならばただのライトフライだった。
だが――
「くっ! 野球ロボではギリ追いつけない当たりか。これでワンナウト・ランナー1塁……むっ!?」
ライト方向に上がったフライ性の打球が、ギリギリで右翼手の前に落ちてヒットになった。
それはいい。
しかし、バッターランナーの灯谷はそんな微妙な当たりでも走塁の手を抜かず、2塁に向かっていたのだ。
「アイリ!!」
「任せて!」
龍之介は慌てて、遊撃手のアイリに声をかける。
アイリは右翼手からの送球を受け、滑り込んでくるランナーにタッチプレイを行う。
「だっしゃあああぁあああっ!!!」
『セーフ!!』
灯谷選手が雄叫びを上げながら滑り込む。
アイリの的確なタッチも実らず、彼女は2塁に到達してしまった。
『6番・ピッチャー・不知火君』
次のバッターは不知火。
ピンチである。
龍之介は心の中で悪態をつく。
(やはり野球ロボの穴が大きいな……。まぁ部員不足でも試合ができるのは野球ロボのおかげだし、練習でも役立ってくれているので不満はないのだが……。やはり、選手力という点では野球ロボは人間選手には及ばない。それが露呈してしまった)
龍之介は冷静に、そして客観的に判断を下す。
(だが、嘆いていても仕方がない。今はこのピンチを凌ぐしかない)
龍之介が不知火に向き直る。
不知火は、龍之介の瞳を見据えている。
「っしゃああぁ! まずは1点を返させてもらおうかぁっ!!」
不知火が吠える。
明らかにタイムリーヒットを狙っているように見えた。
龍之介は臆さずに投球するが、彼はある異変に気付く。
(これは……!)
不知火はバットを寝かせて構えた。
明らかに、バントの構えである。
(ここで送りバント? いや、違う!)
龍之介はすぐに考えを改める。
これは送りバントではない。
「セーフティバントか!!」
龍之介の額に汗が滲む。
ワンアウト・ランナー2塁の状況から、6番バッターがセーフティバント。
あまり見ない光景ではあるが、あり得ないほどでもない。
そして実際、それは有効だった。
不知火がバントした打球が1塁方向に転がる。
「ミオ! ボールを拾って俺にトスだ!!」
「はいっ!!」
野球経験の浅い者が多い桃色青春高校ではあるが、龍之介の主導の元で連携プレーは十分に練習している。
だが――
「うおおおぉおっ!! どらあああああぁあああっ!!!」
『セーフ!』
ミオがボールを拾い、すぐに龍之介が待つ1塁に送球した。
しかし、不知火の足の方が速い。
バッターランナーセーフ。
そして、2塁ランナーも3塁に進んでいる。
(しまったな……。いきなり搦め手を使ってくるとは、予想外だった)
龍之介が心の中で舌打ちする。
こうして、桃色青春高校はピンチを迎えることになったのだった。
123456789 計
―――――――――――――――――
桃色青春|30 |3|
大火熱血|0 |0|
―――――――――――――――――
2回裏、大火熱血高校の攻撃中
ワンアウト・ランナー1塁3塁
バッター:7番・セカンド・赤月
【高校野球】2099年東京都秋大会雑談スレ31【ダークホース桃色青春高校】
600:代走名無し@野球大好きオジサン
大火熱血高校、点を返していくチャンスだな
601:代走名無し@野球大好きオジサン
5番の灯谷選手が2塁に行っていたのが大きいよな
あれはファインプレーだった
602:代走名無し@野球大好きオジサン
601
そうか?
普通のチームが相手だったら、ただのライトフライじゃん
603:代走名無し@野球大好きオジサン
アイリ選手のタッチプレイは的確だったし、その後のミオ選手だってセーフティバントの処理は上手かった
大火熱血高校の気迫が一枚上手だったか
アウト性の当たりでも手を抜かないのは感心する
604:代走名無し@野球大好きオジサン
桃色青春高校にとって不幸中の幸いは、これから下位打線だってことだな
何とか無失点……あるいは1失点ぐらいで切り抜けたいところだろう