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会議が終わったという知らせを受けたのは日が沈みメリーがうとうとし始めた頃だった。
文字の勉強をしながら待っていた私はすぐに自室を出てリューの執務室へと向かった。
と、その途中。
(あっ)
廊下の先にカネラ王子の姿があった。セレストさんも一緒だ。
向こうも私に気付いたようで足を止めこちらに恭しく頭を下げた。
「これは聖女様。……いえ、もう竜帝妃殿下とお呼びした方がよいでしょうか」
その丁寧な言葉遣いと微笑みに、どうしても違和感を覚えてしまいながらこちらも笑みを作る。
「どちらでも。今日はこの城に泊まっていかれるんですか?」
「はい。竜帝陛下のお心遣いに甘えさせていただき、明朝発つ予定でおります」
「そうですか」
『砂漠の国』の状況など訊きたいことはたくさんあったけれど、セレストさんもいるこの場で下手な話は出来ない。
「王様と王妃様はお元気でいらっしゃいますか?」
7年前にお会いした砂漠の国の王様と王妃様を思い浮かべながら訊ねる。
王様は王子と同じ金髪で恰幅が良く豪快に笑う方で、王妃様は上品でとても綺麗な方だった。
「はい、お蔭様で」
「それは良かったです」
「聖女様がこちらの世界に戻られたと聞き、またお会いしたいと申しておりました」
「そ、そうですか」
私もまたお会いしたいです。そう答えたかったけれど。
――コハルがそちらの国に赴くことはない。
先ほどのリューの言葉を思い出して曖昧に微笑むことしかできなかった。――と。
「コハル様、陛下が執務室でお待ちでございます」
セレストさんが助け船を出してくれたのだとわかった。
「あ、はい。カネラ王子、今夜はゆっくり身体を休めてくださいね」
「はい、そうさせていただきます」
そうして私はその場を離れた。
(やっぱり、なんか調子狂うんだよなぁ……)
元々調子を狂わされる人ではあったけれど、違和感が拭えなかった。
執務室の扉をノックして私ですと声を掛けると、入れとすぐに返事があった。
扉を開けると中ではリューがぐったりとした様子で椅子の背にもたれていて思わず苦笑してしまう。
「お疲れ様です。長かったですね」
「あぁ。会議でこんなに疲れたのは久しぶりだ……」
そんな彼に申し訳ないと思いつつも机の前に進み出て訊ねる。
「砂漠の国の件、どうなりました?」
「竜騎士団の一部隊を送ることになった。あくまで先ずは調査という名目だがな」
「竜騎士団?」
ゲームか何かで耳にしたことはある気がするけれど、この世界では初めて聞く言葉に目を瞬いているとリューは身体を起こした。
「あぁ、そうか。コハルは知らなかったな。竜騎士団はこの『竜の帝国』を守護する者たちのことだ。7年前、魔王に操られていた父上が一度解散させてしまったんだが、それを再結成してな。今はこの国の要所の護りについてくれている」
確かに7年前この国でそれらしい人たちは全く見かけなかった。
もしその人たちが一緒に戦ってくれていたら、きっととても心強かっただろう。……今更言っても仕方ないけれど。
そして、私は魔王というワードが上がったのを機に訊いてみることにした。
「今回の件、もし本当に魔族の人たちが関わっているとしたら、その目的はやっぱり魔王の復活なんでしょうか」
リューがその瞳を大きくした。
「さっきメリーから前に魔王を復活させたのは魔族だったと聞いて……私、魔王が復活した経緯については何も知らないんです。魔王はどうやって復活したんですか? ……どうやって復活させるんですか?」
するとリューは一度息を吐いて、低く潜めた声で答えてくれた。
「魔王の復活に必要なのは、多くの血と、怒り悲しみ恨みといった負の感情だ」
「! それって」
「あぁ。戦が一番手っ取り早い方法ではある」
多くの血……。
想像するだけで胃がムカムカとしてくる。
「まぁ、調べてみないことにはわからないが、もしそれが事実ならば何としても阻止しなければならない」
私は頷く。
魔物が溢れ、恐怖に満ち溢れた世界。
もうあんな惨状は二度と目にしたくない。
「……私にも、何か出来ることはないでしょうか」
「何もない。コハルはこの城にいればいい」
きっぱりと強い口調で返され思わずムっとしてしまう。
「でも」
「わざわざあの王子を使者によこすくらいだ。『砂漠の国』の連中はこの俺にではなく、聖女であるコハルに助けを求めに来たんだろう」
「! なら私」
「だが、コハルを『砂漠の国』へ行かせるつもりはない」
「……っ」
またもぴしゃりと強く言われてぐっと拳を握り締める。
……ついこの間も『花の王国』には行かせないと言われたばかりだ。
そんな私を見て、リューが椅子から立ち上がりこちらにやって来る。
困ったように見下ろされ、それをじっと見返す。……若干、睨むようになってしまったかもしれない。
「そんな顔をしないでくれ。コハルの力を信じていないわけじゃない。ただ、心配なんだ。もしコハルに何かあったらと思うと、俺は……」
そうして、そっと抱きしめられる。
「だから、俺から離れていかないでくれ」
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