最近、葛葉の使う単語に「死」という言葉がよく上がる
「これやべぇ美味ぇな!、これ食った直後だったら死ねる」
「このキャラのスキル名…安楽死ぃ?!いーなぁ〜俺も楽して死にテェ〜」
「叶、何歳までに死にたい?俺は生まれたくねぇ、あ…でもそしたら美味い飯が…」
明るい笑い話に時々挟まる”死ねる”だの”死にたい”だの、葛葉の会話デッキの通常が悪口なせいか、最初はあまり重要なこととして捉えてはいないが
少し回数が多いな程度には思っていた
以前
「葛葉病んでるの?笑」
と冗談混じり半笑いの声のトーンで探りを入れたところ
「はぁ?病んでねぇよ!」
と、あちらも半笑い話と捉え、返事は即座に返される
他人は、完全に自分が思っているような他人ではない
思ったことを口に出さない、隠し事がある、嘘をついている
それに別に良し悪しはない、ただ、そういうことがあるということ
あるいつもの晴れた日
今、高校2年生となる叶は、クソほどつまらない授業中に中学から一緒だった葛葉のことを頭の中で考えていた
出会った場所は中学校の教室
長く、そして長い入学式を終え、担任という人間と生徒という人間で教室へ向かう
桜が舞い、窓から暖かい日光がさす素敵な建物も、1週間すればめんどくさいことをする建物になってしまう、もちろん建物に罪は無い
中学1年生、人との関わりも薄く、することもあまりない
この時期の叶は、とにかく暇を持て余しまくっていた
そうだ、暇を潰せる奴を探そう
そんな時、クラスが同じだった葛葉に目が止まる、丁度中学生が始まって1ヶ月ちょっとくらいの時
友達になりたい+暇を潰したいという、至って純粋な動機で声をかけた
最初は目を合わせないどころか、会話が成立しないこともあったが
どういう理由なら学校から許可が出るのか不思議な、けれど目が離れないほど綺麗な白髪と赤眼、そしてそれに全く違和感を持たせないような整った顔立ち、確固たる喋りの少なさ
当然叶は、葛葉という人物の全てが「?」で埋め尽くされていた
今思えば、葛葉にはストレスだった思う
しかし
全てが「?」だからこそ、己から湧き出て来る好奇心は凄まじいものであった
叶はもう、葛葉と仲良くなってみせると心に誓っており
勇気を出して自分から近づいては近づいた
そうしたら、瞬く間に距離は1㎝、1㎝と縮まって、さらにそれが暇を潰した
今でも覚えている
中1の冬、教室で葛葉が僕をからかって暴言を吐いた
精神年齢を小学校に置いてきたのかってくらいにアホな言葉でしょうもなかったけど、自分でも訳がわからない程それが信じられないくらいに嬉しかった
成長はそれだけじゃない
前まで敬語だった喋りがタメ口になり、静かだったテンションが高くなり、ついには暴言を使って挑発を始めた
明日きっと、いや絶対地球がなんかで終わるのだろうけれど
その時の叶は、終わろうがどうでも良かった、常に先を考えている自身にしては珍しいことである
まるで拾ってきた弱々しい子犬が、元気になって遊べるようになるまでの逞しい成長を飼い主として見ているかのようで
葛葉のふざけた暴言は、仲が深まったりしない限り出てこない
むしろ、仲良しになってしまえば優勢さは人並み以上と言っていいだろう
それがおそらく彼の自由な姿であり、叶はそれでいいのである
それからは順調に、距離が極端に縮むこともなく極端に遠のくことも無い
いわば気の合う親友になった
登校してお昼ご飯を食べて下校して
その時大体全ての視界に葛葉が入る
そして最近は耳に「死」という言葉も
自分では、葛葉の使う「死」をさほど気に留めていないと思っていたが、自分が思ったより気に留めていて、常に脳の端にこの違和感があることを感じた
「………..」
( 葛葉が死んだら、僕は悲しい
でももし死にたい人が生きることを願われたら、僕だったら不自由になった気分になるかな….たぶん… )
生や死に関わる問題や事というのは、極めて難しいことである
善悪は無し、人間の感情というものが死を起こすのか、その人間の感情はどういう環境で作られたのか、元からあるのか?
そこにやれ来世やら天国地獄やらの話が入ることも
いつしか死は誰もが体験する、だが、その体験に浸る時間や、誰かに話す時間はもう来ない
究極の体験、最後の体験
…..とでもいうのだろうか
叶はそんなことを、ぼーっと、しかし一周回って真剣に考えていた
次の日
今日も葛葉と話す為だけに高校へ向かう
暖かく降り注ぐ日光に雲1つ無く晴れた空、肌に触れる涼しい風、そしてその風が道路の両脇に生えている自然を揺らす、このセットは主に叶と、人間の心を落ち着かせる
声という雑音が騒がしい教室に入り、珍しく早くに来てゲームをしている葛葉の机にわざとらしく両手をつく
「おはよ〜葛葉ぁ」
「んー、はよ」
「返事弱いねくーちゃ「やめろ」
葛葉は横画面のスマホに目を向けたまま、やや短めの返事を返す
葛葉の前である自分の席へ深く腰をかけ座り、荷物を整理して再び葛葉のゲーム画面を見る
その持ち前のエイムで敵を華麗に倒し、回復も、移動距離も、ゲームをやってる身として悔しながら全くと言っていいほど無駄が無かった
「俺….っ….え.うっまぁ…?」
操作本人も鋭く尖る八重歯が目立つ口を開けて驚いている
しかし残念ながら、この退屈で永遠に続いてほしい空間は、”授業前の支度”という時間としてすぐに終わり、また明日やって来ることになる
叶はもちろん終わってほしく無いと願っていた、願っているのに授業を受けれる、なんという抵抗力の無さなのだろうかと己の身体ながらに思う
ゲーム、いつしかの思い出、ノートへの落書き、叶はいつも授業中、暇を潰すのに必死であった、聞かなくてもいい(聞きたくない)授業が多すぎて困っている、つまらなすぎて、もはや生きている意味すら無くしてしまいそうだ
もういっそ暇潰しを理由に、何か問題行動でも軽く起こしてやろうか
一つ、頭に物騒な考えがF1程の速度でよぎる
しかし実際やる勇気もキャラも無いのでやりはしないが、チャイムすら耳障りに感じるこの人生、どこかでストレスは発散したい
間の休み時間は息抜きに最高だが、息抜きができるせいで気力を回復して次の授業が受けれるのではないか….?
自分の世界であれやこれやと意見を出していると、上から声からもっと気だるそうな、それでいてもっと授業を聞いて無さそうな奴の声が降りかかってくる
「飯ぃ〜….あ”〜疲れたァン…」
「あ、お昼の時間か」
それぞれがそれぞれの支度を済ませ向かい合う
プラスチック袋を開け、相変わらず栄養価が低い菓子パンやジュースで空腹を満たす葛葉に、どうなのだろうかと思いつつも
食べたいならいいかと言う言葉が頭の中で混ざる、心の中で少々の苦笑いをし自分のおかずを箸で摘んだ
「あーうめぇ!これうめぇ〜!いやもうこの菓子パン食って死にてェ」
「…….!!」
でた
この文に、自分の知らぬ間につけていたセンサーが反応する
葛葉の語彙力は豊富である、故に
“死んでもいいくらい〇〇”という過大評価は、もう回数的に使いすぎなのではないか
身近にいる叶は、経験や思い出の中から真っ先にそう思考した
(でも…)
もし葛葉が
本当に死ぬとしたら
もしいなくなるとしたら
悲しい、と思う…その後どうしていいかわからない
でも
悲しいけど「死ぬな」
なんて言えない……むしろ、むしろ…─
「叶?」
「ぉわぁあ…っ」
先に違和感を抱いた葛葉が、目の前で長白い手をふらふらと左右に動かす
気づけば噛んでいた食材の味もしなくなっており、これでは自分が先に逝ってしまいそうだと思ったが、先ずは笑顔とテンションを作る
「あはは…笑、ごめぇ〜ん考え事」
考え事
間違いでは無いが、その考え事は決して笑えるようなことではない
幸い葛葉にはバレてないようで、手の震えも鼓動の乱れも無く、嘘が特技のような自分に、叶は慣れ切った感覚の絶望する
再び箸の動きを再開すると、その日は探りを入れられることなくすぐに終わってしまった
ここは…..
「赤い…..?」
今
視界に広がる空間は、不気味と静寂そのもの
建物では無く空間、色は赤黒く、見渡す限り物や人影は居ない様子である
叶は、小学生の頃赤い下敷きを目線まで持ち上げて見える、赤い世界を思い出した
地面には1㎜程度の水があり、足踏みをするとぴちゃぴちゃという水音が空間に響きわたる
ふと地面からは真逆にある天井に目をやると、ヒビが入ったようなところから赤黒い液体が一滴、一滴と溢れ落ちてきていることに気づく
しかしそれ以外にわかることが何一つ無いので、恐る恐るただ正面に進むだけしかできなかった
むしろ、まだ進める勇気がある心なのだと、叶は比べ自分に落ち着つく
ぴちゃん…ぴちゃん…─
赤い影で染まった、本来クリーム色のニットベストの下端を握り、不安で仕方ない空間を彷徨い歩く
終わりのない、もしくはわからないものというのは、人間の生きる気力を失わせる
(葛葉ぁ…..)
心の中で、真っ先に助けを求めた
だがこの絶望の中、声に出して叫ぼうが心の中で叫ぼうが、届きはしない
すると叶の額に、ヒビの割れ目から出る先程の赤黒いの液体が一滴
「わっ….」
液体に集中が向くと、上から降って来る水音が先程より大きくなっていることに気づく
嫌な予感がした
少しでもひび割れが進んだり水滴が増えたり、“状況が進むと何か嫌なことがある”と、叶いつか見たホラーゲームで学んだ
一刻も早くここから出れないのだろうか
入口も出口も見えないような、人間の不安をじわじわ増加させる空間
第一は自身の心が不安に奪われないこと
深呼吸をし、叶は叶に冷静でいるように心の中で言い聞かせた
ぴちゃんぴちゃん─
何十分歩いただろうか、強気に頑張っていたはずの精神は追い詰められているのか、少々息が荒い
かつて葛葉にやって見せ
「はぁ?1㎜も変わってない」
と言われた前髪を整える行為を、半不安飛ばしに行う、ふざけた記憶が少しの救いになった様な気がする
ぴちゃん、..ぴちゃん…─
足が冷たい
足元を見ると
先程まではふくらはぎのところ程度だった液体が、膝下まで来ていることに思わず片足を上げる
(時間が無い…..)
この頃になると、緊張に咳が出たり
どうなってしまうのだろうかと、迷子の子供になったような、”死”が見えた
このままでは溺れてしまうと、遠くを見つめ、冷たさで感覚と体力を奪われていく足を一生懸命に動かす
「はぁ…..はぁ….」
叶の心は、もう不安に奪われかけていた
それは本人も分かりきっていることで、絶望に絶望が重なり、眉間に皺をよせて涙を流す
自分は終わる、終わってしまう
予想もしないような後悔まみれの終わりに、やり残したことが脳内で無数に溢れかえる
しかし、それは突然のこと
「叶」
「…..え….?」
その時、叶はわかった
“あれは確かに葛葉だ”
でもどうしてこんなところに
自身と同じ、黒い色違いのニットベストを着て、こちらを向いていた
腰まで増水していた液体が、不思議と無くなっていくことに、なんだか救いを感じ
安心したのか、震えの止まった声で親友の名前を呼ぶ
「葛h…「なぁ叶」
呼んだ声をわざと遮るようにした葛葉の声に、今度叶は、妙な恐怖感を感じてしまう
2m程離れた葛葉がこちらに目を向けると、その恐怖は確信へと変わってしまった
体は生きているのに、精神が死んでいる
葛葉だけど葛葉じゃない、そんな場合じゃないが、今まで見たことのない親友の姿に驚く
一瞬にして張り詰めた空気、急すぎる異常事態によるダメージを受け、叶は軽いパニックへと突き落とされる
一方、葛葉といえば
そんなことはお構いなしに、棒のような足でゆっくりゆっくり追いかける
それがこれ以上に無いくらいに、この空間の不気味さを遥かに越えたものとなる
そして、ゆっくりと自身の背後から
一本の包丁を取り出し、再び歩き出した
こんなことが起きるのは初めてである叶は、本能が感じる危険信号に従い、彼がいる反対方向へ腰を抜かしそうになりながら走る、
こういう異常事態が1回目だろうが2回目だろうが、ゆっくり考えている時間などは最初から用意されていない
すると
どうしてこんな時に、こんな時だからか
無くなったと思っていた赤黒い液体が、くるぶし、膝、と次々に上がってきた
それだけではない
下に気を取られていた叶は
ドンッ…、
突然目の前にぶつかる
ついに空間の一番端に来たかと、そう思ったが、もはやなんでもありの世界
その現実は
“壁が自身を彼の方へ押し返している”
なんとも理解し難い出来事に叶は、へ…. という吐息混じりの声を漏らした
下から迫る液体、目の前から迫る壁、後から迫る彼
嫌だ…嫌だ………─
しかし体は、どうしようもなく液体に浸かり、壁に押されて、後ろの彼に近づくしかなかった
「…….ッ…..あ…」
後ろに存在が当たる
胸下程度まで浸かり、通常より下がった体温なのか、重なった体はお互いが生ぬるく心地悪い
そして普段くっつかない、くっつかせてくれない彼の、服の上からでもわかる骨張った体に、何故だか心臓が跳ねる
この間体感約3秒
彼は叶を動かないよう後ろから手を回し、もう一本の腕に握られていた刃物を心臓へ突き刺す
痛い….ッ….痛い痛い痛い…
….痛い…….?
もう既に感覚は消えかけていたため、あまり痛みは無く、意識は朦朧とし、体は暖かくなっていく
かなり珍しい場所と状況でだが
( 死ぬってこんな感じかぁ…、)
死ぬことに対しての感想を呟く
「ー….〜……“…ー」
(な..にか…言っ…て、る….)
意識が絶えそうになる最中、彼は確かに耳元で何かを囁いていた
ここで1つ、叶は課題を抱える
これは葛葉という親友を、”包丁持っているから”といい、自身の危険信号をとった行動の末に起きた事態
希望など無かったのかもしれないが
もし
もしあの時、僕が落ち着いて、葛葉として接してあげていれば─
「……ッわあぁ…!!…あ、ぁ」
バサッ、という勢いの良いシーツの擦れる音と同時に気の抜けた声、そして今まで倒していた上半身を起こす
数秒、何が起きたのか分からなかったが
涙を流した後、汗もかいている
だが、赤黒い空間ではないし、液体により濡れてはいない
しかも、なによりここは自分の部屋
つまりは─
「……….夢….?」
↓絵
読んで頂きありがとうございます
絵は、途中に出てくる赤い世界を再現しました、上手く空間という立体を表せなくて、大変満足していないのですが、大体色や世界観はこんな感じの空間です。
確かにこんなところにいたら精神がおかしくなりそうですね。怖いです。
しかし、想像ではもう少し景色が透き通っており(こんな霧がかってない)、天井はもっと高く、終わりのない立体型空間という感じでした
正方形の物に収めようとするとどうも難しい、もっと描きます…。
小説の方の反省としては、基礎から下手で納得いかないんですけど、同じ言葉や同じ物語の繋げ方が少し多いこと、まだ第三者視点の語り口調に慣れてないこと、とかですかね、なんかアドバイスあればどうぞ。
ちなみにこの話はもう少し書くつもりです、次回も見てくれたら嬉しい。
コメント
1件
本出せますよ、、?今まで見た小説の中で一番の神作品です。キャラがキャラすぎて本家が作った作品かと思いました😭好きです😭