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自室に戻り、机の上に手紙を置く。
『マリアンヌから罰』『内容は、手紙に書いてあるはずだから』、という旦那様の声が耳から離れず、なかなか封を開けることができなかった。
貰った時は、すぐにでも開けて読みたかったのに。そう、マリアンヌが目の前にいても。
「でも、大事なことが書かれているかもしれないし」
例えば、あいつがいて言えなかったこととか、最近絵を描いているって聞いたから、僕の絵……とか。
そう思うと、急に読みたくなって手を伸ばした。
◆◇◆
親愛なるリュカへ
ごめんなさい。何度もリュカに謝るようなことをしてしまって。従者のことも、エリアスのことも。そんなにリュカが気にするとは思ってもみなかったの。
よくよく考えてみれば、分かることなのに。本当にごめんなさい。
でも、あの時の私は、お母様を亡くしたばっかりで、リュカのことを考える余裕がなかったの。そんな中、私の誘拐騒動が起こってしまって……。
だから、お父様は私に護衛が必要だと考えて、エリアスがなったの。従者兼護衛という形で。
これで、リュカが傷つく原因を作ったのは、私って分かるよね。
私さえ気をつけていれば、誘拐されることはなかったし、エリアスが屋敷に来る必要もなかった。リュカがエリアスを傷つけることだって。
つまり何が言いたいかと言うとね。エリアスと仲良くしてほしいの。もう無理かもしれないし、リュカも嫌がると思うけど。
それでも私は、リュカとエリアスとも仲良くしたいの。これを機に、仲直りしたいんだけど、ダメかな。
返事、待ってるね。
追伸。
返事の手紙はエリアスに渡してください。私の手紙も、エリアスが届けるようにするので。直接は受け取りません。悪しからず。
マリアンヌ・カルヴェ
◆◇◆
「えっ!」
追伸を読んで、僕は思わず声を上げた。
「あいつに渡すの!?」
しかも、エリアスを通さないと、マリアンヌの手紙も貰えないことになっている。
「僕の手紙なんか、途中で捨てるって思わないのかな」
思わないか。マリアンヌは優しいから、エリアスを疑ったりしない。
「でも、返事を待ってるって書いてあるから、僕の手紙が届かなかったら、真っ先に疑われるのはあいつだ。向こうだってマリアンヌに嫌われたくないから、捨てることはしない、か」
そっか。これが、旦那様が言っていた、マリアンヌからの罰。僕とエリアスに対しての。お互い、マリアンヌに嫌われたくないから、嫌でもやるに違いない。
「まぁ、僕はマリアンヌと文通ができるからいいけど、あいつは……」
逆の立場を考えたら、少しだけ嬉しくなった。マリアンヌはエリアスよりも、僕を選んでくれている。そう思えるから。
傍にいられなくても、こっちの方がより近くにいられるような気がした。
返事を書こうと、引き出しから紙を取り出そうと手を伸ばした瞬間、狙ったかのように扉がノックされた。
もしかして、エリアスか? 僕に文句を言いに……いや、マリアンヌから返事をもらってくるように言われたとか。
仲良くしたいって書いてあったから、その可能性はあるかも。
僕は疑いもせずに扉を引いた。
「僕の都合を考えろよ。そんなすぐに来たって用意できるわけがないだろう」
「それは悪かった」
「あ、あなたはっ! す、すみませんでした。てっきりエリアスだと思ってしまいまして」
僕は慌てて謝罪をして、部屋に招き入れた。まさか、この人が僕の部屋にやってくるなんて、誰が思うだろうか。
「あぁ、そうだったね。私の方こそ悪かった」
「そんな滅相もございません」
さっきまで僕が座っていた椅子を、相手に勧めた。それしか部屋に椅子がないから、仕方がないんだけど。相手は気にした様子がなかったため、僕は安堵した。
「少しだけ話をしたいんだが、いいかな」
「はい」
この人が僕に改まって話なんてなんだろう、と思いながら、僕はベッドに腰かけた。