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手首に付けた、命よりも大切なミサンガ。
大好きな人との、切れないおまじない。
孤独から背を向けられるのは貴方のおかげ
〖第一章 音の無い音楽室に。〗
周りの大人からたくさん罵られた、大好きだった名前。
いつしか、ただのコンプレックスになっていた。
名前を名乗るのが嫌になって、段々人と関わらなくなった。だから教室ではいつも浮いている一匹狼。
名前とは正反対の黒髪だけが唯一の自慢。
黒い星なんて、絶対に無いから。
六時間目のチャイムがなる頃に私は眠った振りをする。
当たり前に私に話しかけてくれる人なんていない。その状態のまま、教室の騒がしさが去るのをただただ夕焼けに染まった光を帯びた瞼を閉じて待っている。
静かになった教室は、妙な余韻だけを残している。それが私は好きだった。
廊下にまだ残っている生徒を見つけては、避けるように裏廊下を歩いた。
二階にある第二音楽室。
三年の教室がある三階中央の階段を降りてすぐ右にある第二音楽室。 いつもあまり通らない所。
ただ今日はとても綺麗なピアノの音色が聞こえてきたので、ドアの前まで来てしまった。
誰が弾いているのだろう、どんな気持ちで弾いているのだろう、と人がトラウマの私がつい考え込んでしまうほどの見事な演奏。心なしがこの演奏を聞いていると自然と安心してしまう様な、懐かしい様な、そんな感じがした。
演奏に聞き入っていると、前から先生と生徒が三人ほど歩いてきているのが見え、咄嗟に扉を開けてしまった。
ほっとしたのも束の間、私の気はあの美しい音色に奪われた。
「綺麗……!」
つい、そう口に出てしまった。
ピアノの前に座っていたのは、何だか見覚えのある男子だった。
呆気にとられていると、その男子は何か私に話しかけていた。
「え?う、うん…」
私は焦りと安堵と不安でいっぱいになっていたからか、曖昧な返事をしてしまった。
「どうしたの?こんな所に」
そう彼に言われたとき、頭をフル回転させて言い訳を考えた。
「えっと、そこの廊下を通った時に物凄く綺麗な音が聞こえたから、誰が弾いてるんだろうって思って…!」
半分嘘で半分真実。これが一番安牌な返し方だと思う。
すると彼は柔らかく笑った。その笑みには、警戒心も混ざっていた。
だけど私はその笑みが懐かしくて、この人を知りたいと思って、明日もここで弾いてくれないかと言ってしまった。彼はいつも弾いているから、と優しく言い放った。
「あ!そうだ!ねえ名前なんて言うの?」
「名前?僕の名前は────。君は?」
「──君か……。私は────」
懐かしい名前。 伝えたいことがある人と同じ名前。
まさか……ね。
私は帰らなきゃ、と言って自分も彼も誤魔化すように音楽室から足早に出ていった。