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「ごめんね。改めて、私はリゥパ、見ての通り、エルフでムッちゃんのお嫁さんよ。彼女はナジュミネ、魔人族の中でも鬼族の子で彼女もムッちゃんのお嫁さんよ。あと、ユウ様というこれまたムッちゃんのお嫁さんがいるわ」
リゥパが自分も含めて、ムツキのハーレムの紹介をコイハにした。彼女はいずれコイハとメイリも一員になると信じてやまず、仲良くした方が得策だと判断している。
「人族の割に嫁が多いな。さすがは偏屈魔王、魔人族の文化を悪用しているな。っと、俺はコイハだ。獣人族で、白狐族だ。あっちで寝ているのはメイリだ。半獣人族で、黒狸族だ。少し厄介になる」
リゥパとコイハが握手を交わした。リゥパでさえも、この白狐族特有である白銀の毛並みとその美しさに息を呑む。彼女には獣人の美醜は分からないものの、直感的に美しいのだと感じた。
「コイハね。よろしく。まあ、彼女も私もムッちゃんのこと好きだから、どうしても、ムッちゃんが大好きなモフモフしている獣人や半獣人には警戒しちゃうのよね。許してね」
「そうか。まあ、ムツキのモフモフ? への愛は異常そうだからな。ところで、さっきのムツキの言葉、種族によっては刺されるけどな」
コイハはムツキに対して若干身の危険も感じつつ、先ほどの治癒魔法の温かさから酷い人族ではないと判断したようだ。
「まあ、ハーレムの女の子たちがいいならいいんじゃない? あなたはどう?」
「俺か? いや、俺もメイリもハーレムに一員になると決まったわけでは……」
コイハは首を横に振るが、リゥパもまた首を横に振った。
「なるわよ。だって、女神様のお導きなんでしょうからね」
「女神様のお導き?」
コイハには何か分からなかったが、エルフ族は創世神ユースアウィスと繋がりがあると聞いたことがあるため、何かの運命めいたものということなのかと思い始めた。
「ところで、いつまで抱き合っているのよ! もう! 私も抱き着くんだから!」
リゥパがムツキに抱き着き始め、コイハは話し相手がいなくなる。メイリがまだ夢の中にいてあまりにも安らかな寝顔のため、コイハは彼女をそっとしておいた。
「ところで、どうしてそんな大ケガをしていたんだ?」
ムツキはナジュミネとリゥパの2人を抱き締めて、両手に花状態でコイハに話しかける。
「そうだ。あいつ、ここに来るかもしれねぇ!」
「あいつ?」
ムツキが聞き直すと、コイハは闘争心剥き出しの表情で小さな唸り声を上げる。しばらくして、落ち着きを取り戻したのか、表情も声も戻してから話を始める。
「すまねぇ。人族の……勇者だよ。人族のことは分からねぇが、人族の勇者って自分で名乗ってたから覚えてる。名前は忘れた。あいつ、急に攻撃しやがったんだ……ちくしょう……」
「勇者?」
「旦那様。勇者を知らないのか?」
ナジュミネはムツキが首を傾げているように見えて、そう訊ねる。彼は首を小さく横に振る。
「いや、あー、まったく……知らないわけじゃない……。ちょっと、待ってくれ。えーっと、たしか、魔人族の魔王に対抗するために……選ばれた人族のことだろう? えっと、あーっと、そうだ。魔王と同じ10人いるんだっけか」
以前、ムツキが人族の街で買い物をした際に聞いた情報を頭の片隅から引きずり出すようにゆっくりと口から言葉にしていく。
「そのはずだ。妾もそう認識している」
「だが、すまん、それ以上はさっぱりだ。リゥパは分かるか?」
ムツキはそれ以上思い出すことができない。10人の説明を受けた覚えもあるようだが、どうも興味がなかったようで傾聴していなかったようだ。
「私に分かるわけないじゃない? エルフ族というか妖精族はここ最近ほとんど人族と交流ないし、私はそもそも人族に興味もないわ。あ、ムッちゃんは別よ。興味しかないわ」
リゥパはムツキをぎゅっと抱きしめる。ムツキはくすっと笑う。
「大変だ、リゥパに飽きられないようがんばらないとな。ナジュミネ、勇者の中でこういうケガを負わせられるのは分かるか?」
話はナジュミネの方に移る。ナジュミネは目線が上ずる。
「そうだな……妾も仔細を知っているわけではないが、少なくとも4人は刀剣類を持っていたはずだ」
「さすがだ。その中で」
「女性は2人だな」
「その中で」
「1人だと思う。水の勇者、サラフェだ。性格はともかく、当代一の美人との噂だ」
ムツキもナジュミネもまるで示し合わせたかのように話が進む。
「決まりだな……」
「だろうな……」
「話を勝手に進めるなよ……」
「さっきも言ったでしょ? 女神様のお導きだって」
コイハはよく分からないといった様子でムツキとナジュミネのやり取りを見てから、リゥパに再び女神様のお導きと言われ、何が何やらと困惑するしかなかった。
その次の瞬間。家の扉が開いた。ただし、開き方はひどく雑なものであり、扉だけでなく、周りの壁まで細切れに切られて、大穴が開いたのだった。
「な、なんだ?」
「ニャー! 家に大穴が開いたニャ! 誰ニャ! ニャんてことするニャ!」
ムツキは少し驚き、ケットはあまりの状況に珍しく憤慨している。
「扉もその周りの壁も粉々になったな」
「風通しが良くなったわね」
一方のナジュミネとリゥパは割と平然とした様子で粉々になって消え去った壁の方を見つめている。
「いや、もっと驚けよ!」
コイハはツッコミを入れざるを得なかった。しかし、リゥパは手を軽く振る。
「まあ、来ると分かれば、この程度じゃ驚かないわよ。なんたって、ムッちゃんがいるもの」
「ごきげんよう、そして、さよなら、皆さん」
誰かのその短い言葉とともに、津波のような大量の水が部屋へと押し迫って来た。