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「ぐうっ……ここは樹海の外か。我の毒も効かぬとは……お前は一体何者だ」
何度も地面に叩きつけられて既にボロボロになったヤクルスは、目の前に立つ優男ムツキに向かって、恐怖交じりの声色で問う。
それもそのはずだ。ヤクルスの牙にはどんなものでも一瞬で動けなくするはずの神経毒が付いていて、それによほどの自信を持っていた。少なくとも、人族や魔人族など一たまりもないような毒である。それが効いていないのだから、自信が瓦解し、恐怖を覚えるのも無理はない。
「いろいろと呼ばれているな。世界樹や樹海の管理者だったり、守り人だったり、最近では偏屈魔王と言う2つ名もあることを知ったよ。そうだな、後は、モフモフ好きだから、モフモフ好きのムツキさん、とか呼ばれたい」
ムツキはワイシャツの乱れを正しながら、ヤクルスの問いに答える。
「最後は願望になっていますよ、マイロード……」
「……貴様の願望なぞは知らん」
急なムツキのボケに、アルもヤクルスも反応に困ってしまう。
「なんか冷たいな……。変温動物だから温かくしておいた方がいいぞ? 話せる相手は貴重だからな。優しくしておいて損はない。大人しく捕まると言うなら、俺の保護下に置いてやろう。そのクリクリっとした目は魅力的だぞ?」
ムツキはついに爬虫類にまで興味を覚えたようである。
「マイロード……。先ほどミセスがあんなに震えていたのに、どこで飼うおつもりですか、この蛇を。ミセスへの嫌がらせでもなさるおつもりですか? そもそも、あなたにはお世話できないでしょう? 誰に任せるおつもりですか?」
アルはムツキの言い放った言葉に即座に釘を刺す。それはまるで何でも拾ってきてしまう子どもに諭すかのような少しきつめの言い方だが、ムツキはその言い方にさして気にした様子もなく、言葉の内容だけを聞き取って、ポリポリと頬を掻き始める。
「あー、それもそうだな……。自分の世話もロクにできないのに、無理だよな。それに、ナジュには代えられないな。すまん、この話はなかったことにしてくれ」
ムツキが勝手に盛り上がっているので、ヤクルスはわなわなと震え始める。
「抜かせ!」
ヤクルスはムツキを目掛けて跳躍するも、彼には一切の攻撃が効かないため、彼の近くに訳も分からず不時着する。そして、巻き付こうにも不思議な力によって巻き付けないと知り、それも諦める。最後に、効かなかった毒をダメ元で飛ばしてみるも、そもそもすべてが彼を避けてしまう。
ヤクルスはムツキの理不尽ともいえる無敵さをまざまざと見せつけられ、樹海から離れるように少しずつ下がっていく。
「1つ教えてやろう。敵意のある攻撃や害のある攻撃はすべて、俺に触れられない。俺から触りに行かない限りな」
「なんだ、その僕の考えた最強設定みたいなのは。いろいろとふざけおって……」
ムツキは人差し指を立てながら、説明口調でヤクルスに話しかける。諦めろと言外に伝えているようだが、それで諦めるヤクルスではない。警戒を強め、何か方法はないかと模索している。
「相変わらず、マイロードはお強いですね」
アルはすることがないからか、ご自慢の黒いツノを磨き始める。ヤクルスはその黄色いウサギに注目し、襲い掛かった。
「そうか。では、そちらのウサギはどうかな!」
その瞬間、ムツキとアルはにやりと笑う。ヤクルスが大きく口を開けてアルを飲み込もうとしたとき、アルはなんと自らその口の中に飛び込んだ。
「んぐっ……ぐあああああっ! がああああああっ! なんだこれは。身体が熱い、溶ける、溶ける……」
ヤクルスはアルを飲み込んだ後、すぐに叫び声を上げる。身体が溶けると表現しており、実際にヤクルスの身体は、まるで溶けているかのように徐々に小さくなっていく。
「なんで俺がアルも呼んだのか、無敵の俺一人じゃダメなのか、それが分かってもないのに無闇に攻撃するのは良くないと思うぞ」
「我の力が抜けていく。我の溜め込んだ負の魔力が消えていく!」
溶けているのは、負の魔力とそれによって構成されていたヤクルスの身体だった。
「そりゃ、そうさ。アルは負の魔力を浄化するエキスパートだからな。だから、樹海の調査の総隊長だし、常日頃から樹海の警備に当たっているんだ」
やがて、ヤクルスは小さくなりすぎて、彼の中からアルが突き破って出てきた。身体が多少べとべとだったが、あまり気にしていないのか、すぐに拭く様子もなかった。
「お褒めに与り、至極光栄に思います」
アルはただ恭しくお辞儀をした。