1章 スマホがしゃべった(と思った)
会社の昼休み、僕・田中シンは財布の中身より軽い自尊心を抱えて、いつもの公園でスマホをいじっていた。
その瞬間――
ツルッッッ!
スマホが手から滑って宙を舞い、地面に落ちる…前に、横から黒い影がサッと飛びついた。
「えっ!?」
拾ったのは、近所の謎のワンコ・ポチ丸(雑種・表情豊か)。
そのまま僕のスマホをくわえて猛ダッシュ!
「返してぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
全力で追いかける僕。
しかしポチ丸は振り返りもせず、爆走しながら僕のスマホをペロペロ触り、画面を勝手に操作している。
「待ってポチ丸!Face IDはお前の顔認証しないから!!」
と思ったら、なぜかロック解除された。
(後で知るけど、寝ぼけてた今朝の自分の顔とポチ丸の顔がソックリだったらしい。)
2章 まさかの“犬バズり”スタート
家に帰り、ようやくスマホを取り返した僕は通知の量に驚愕する。
通知:+987件
「なにこれ!? スパム?ウイルス?犯罪に巻き込まれた!?」
と思って開くと――
TikTok:ポチ丸の動画がバズっています!再生数:180万
コメント:この犬、編集うますぎwww
コメント:人類より才能ありそう
コメント:この犬に飼われたい
「いや、編集したのお前かい!!!」
どうやらポチ丸は僕のスマホで『顔交換スタンプ』を連打し、自分の顔が宇宙飛行士になったりアイドルになったり、ひたすらシュールな映像を撮りまくっていたらしい。
しかもなぜか全部、絶妙に面白い。
いや、犬の才能どうなってんの!?
3章 ポチ丸、会社の上司に勝つ
翌日、会社に行くと上司のゴリ山部長がニヤニヤしながら言った。
「田中〜、お前昨日バズってたな?」
うわ、見られてる……
死んだほうがマシってこういう気持ちか。
するとゴリ山部長が続けた。
「ところでだ。ウチの広報部からぜひうちの公式SNSでポチ丸を起用したいとだな――」
「犬、スカウトされてる!!!?」
まさかの企業案件。
なぜ僕じゃなくて犬なんだ。
でも本人(犬)はすっかりその気で、会社のロビーで撮影しながら尾をブンブン振り回している。
ついでに上司の顔を勝手にスタンプでデカ鼻に加工し、20万いいねを叩き出した。
上司にも勝ってしまった。
最終章 そして、犬は世界へ…
数週間後――
ポチ丸のフォロワー数は100万人を突破。
海外メディアからも取材依頼が来る。
僕?
僕はただのマネージャー扱い。
散歩係兼スケジュール管理係。
もはや“飼われている側”だ。
ある日、ポチ丸が僕のスマホでまた勝手に動画を撮っていた。
画面には文字が表示されている。
「次の夢:ハリウッド進出」
おい、犬よ。
どこまで行く気なんだ。
いや、でもちょっと楽しそうだな。
「よし、ポチ丸。世界に行くぞ!」
ポチ丸は「ワンッ!」と吠え、今日もスマホをくわえて走り出す。
またまたバズりの予感しかしなかった。







