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💡の夢見の悪さと兄のような👻 🔪の話。西シェアハウス捏造。同じような話を書いたかと思いますが、完全に私の好みの短編集になりますのでご了承ください。
ご本人様とは関係ありません。
伊波は基本的に夢見が悪い。それはヒーローを始めてから、というわけではなく夢を見る時、小さい頃からそれは大体が悪夢であった。それがヒーローになってから増えていったのだ。
今日だって、目が覚めた時背中にびっしょりとかいた冷や汗と自分の涙が、とてもとても不快で気持ち悪くて。それが最近は酷く、少し寝不足になっているほどだ。日中のメカニックの仕事や大学の講義にも集中出来ず、眠気ばかりが募っていった。
ヒーロー任務が終わり早めに帰宅した小柳はリビングで居眠りする伊波を見た。見てしまったと言うべきか。酷く魘され、涙を流しながら目を閉ざしている伊波の姿を。普段の明るい様子からは想像が出来ないほど苦しそうな顔をしている。
肩から落ちていたブランケットをかけ直し、沢山溢れる涙を指でなぞる。すると伊波は驚いたように体をびくりと震わせ目を開けた。
「…こやなぎ」
「うん、おはよ」
「おはよぉ…」
伊波は溢れる大粒の涙を拭って立ち上がり、ごめんと一言残して部屋に戻って行った。小柳は何も聞かなかった。隠したがるのは伊波の癖、ということを分かっているから。自分から切り出すまでは待つ、というのは伊波のためであった。長寿であり、伊波より歳が上である小柳は無意識に伊波を弟のように見てしまっている部分があるのは自覚しているのだろうか。
伊波ははっと飛び起きる。最近の悪夢を見る頻度は酷く、睡眠時間がどんどんと削られている。そして今日の夢は一段と伊波のトラウマを刺激するようなものだった。いつもなら既に止まっている涙もまだぽろぽろと瞳からこぼれ続け、心臓の鼓動は部屋中に響き渡るほど大きく感じる。もう深夜。静かな空にただ伊波の嗚咽だけが広がる。夢だけでここまで泣いてしまう自分を情けなく思いながらも、その涙を止めることは出来ない。なんでか良い夢は思い出せないのに悪い夢は鮮明に思い出せる。
「もうやだ…、ゆるして……」
震えた小さな声は耳の良い白狼には聞こえてしまったらしく、小さく走る足音と扉が開く音がした。
「…大丈夫大丈夫。ライ、深呼吸」
少し息を切らした小柳は不器用なりに捻り出した言葉を伊波に投げかける。
落ち着いた伊波はもう悪夢を思い出さないように目は閉じない。ただ落ち着いた伊波を安心が滲み出た表情で見つめる小柳と、ぽつりぽつりと会話する。
「ありがと、ロウ。ちょっと夢見ちゃっただけだからさ。気にしないで!」
「…どんな夢だったの」
悪夢を見た、と話した伊波はそう質問された時、落胆してしまった。聞いてほしくなかった。思い出したくなかった。それでも仲間が心配そうに見つめるのに答えないわけにはいかなかった。
「…今まで助けられなかった人たちが、オレをずっと責めるの。最後はお前も来い、って」
正義感が強い故に責任感も強い。そんな伊波は他のDyticaの面子と違い、今まで助けられなかった人たちを少しも忘れられていないのだ。自分の目の前で助けられず死んでいった彼らはきっと己を責め続ける。そう積み重なった思想が無意識にトラウマとなって夢を見せていたのだ。
そうか、怖いんだ。
また自身の弱さのせいで人を救えない事が。
「ライ、こっち向いて」
小柳の方を向いた伊波はいきなり目を覆われる。何か呪文のようなものを唱えた白狼はすぐにそれを終え、覆っていた手をどける。伊波はそういう類のものに疎い。霊的なものは機械と相性が悪いのだ。
「オレなんか憑いてた?」
「うん、まあでも大したものじゃないよ。でもこれでちゃんと寝れると思う」
「そうなんだ」
「でもこれ長い間憑いてたわ。悪い夢見てたのって最近だけじゃないだろ」
「…うん、小さい頃から時々ね」
夢見が悪い、なんて子供らしい悩みは誰かに話せたものでは無かった。だから今まで誰にも話したことがなかったこの事実。どうやら伊波は何かに憑かれた影響で悪夢を見ていたらしい。それならこれで悪夢から解放されるのだろう。
「ありがと…」
「いいよ。今日はもう寝れそう?」
「う、ん。寝れる」
「嘘つけ」
「あー…たぶん無理…?」
珍しく正直な伊波に小柳は笑う。少し照れくさいのか伊波はそっぽを向いてしまったが。
「じゃあ一緒にゲームしよーぜ」
「お、いいよ!負けたからって泣くなよ?」
「言うねぇ?」
ゲームをしにリビングへ向かう背中はまるで兄弟のようだった。