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昼下がりの部屋。
悠は窓辺に座って、ぼーっとスマホをいじっていた。
ソファに座る伊織が、ふとその顔を覗き込む。
「なあ、悠」
「……ん?」
「……キス、していい?」
その言葉に、悠の眉がぴくりと動く。
「は? ダメに決まってるでしょ」
「……理由は?」
「……は? 理由? ……キスは、恋人同士でするもんだからーー」
しれっと言い放った自分の言葉に、自分で戸惑う。
伊織は一瞬黙って、それからゆっくりと笑った。
「──じゃあさ」
悠が顔を上げた瞬間、
伊織が目をまっすぐ見据えたまま言った。
「恋人、なろうよ」
「……は?」
「付き合お。悠が好きだから」
「……ちょ、急に……っ、なに言って……」
心臓が、どくんと跳ねる。
キスはダメ。恋人じゃないから。
──そう言ってきたのに、自分が言った言葉が、そのまま返ってきた。
「俺さ、お前のそういうとこ、全部好き」
「……俺、好きとか よくわかんないし」
「わかんなくていい。けど、俺とキスはしたくない?」
──したくない?
そう聞かれて、一瞬で脳裏をよぎったのは、
伊織が自分に触れるときの手のあたたかさ。
えっちのあとに、髪を撫でてくれる指。
体調悪いときに、そばにいてくれた顔。
「……したい」
ぼそっと呟くと、伊織の目がふわりとほどける。
「じゃあ、俺の恋人になって」
「……っ、……うん」
伊織がゆっくりと手を伸ばし、
今度こそ、悠の唇を優しく塞いだ。
触れるだけのキス。
甘くて、熱くて、ずっと求めていた感覚。
──恋人のキス。
目を閉じたまま、悠は小さく囁く。
「……ばか。やっと、したね」
「こっからは毎日すんぞ」
「……はぁ? ばかじゃないの……」
でもその顔は、少しだけ赤くて、
なぜか幸せそうに見えた。