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「ねえ、リーダー。なんか遠くない?」
「こんなもんじゃないのか?」
俺たちとG・クトゥルフとの距離は20メートルほど開いている。
バトル開始直後、でかい岩をぶん投げられると困るので、少し距離をとったのだ。
G・クトゥルフは余裕そうな顔で首をゴリゴリ鳴らしている。
こうして相手の様子をうかがえるから、この距離感は丁度いい。
「妖怪っぽいその格好、オメエにドハマリしてるし」
ヤンキー座りをして俺を見上げるシスターが、ボソリと言いながら親指を立てた。
「なんでリーダーは服を着てるんだい?」
魔術師がゲテモノでも見るような顔をしている。
「俺の趣味だ。パンチラでもしたろか? ノーパンだがな」
「オマエのそれは呪いだろし。アッシも呪いを受けてんけどな! どんな呪いだか知らねえけど」
シスターがスマホで俺の写真を撮りはじめた。「横チンがハミ出てんぞ!」とつぶやきながら、嬉しそうにシャッターを切っている。
オマエは変態ですか?
「ボクも魔法の呪文を覚えられないっていう呪いをうけてるんだよね。それにしても、ミニスカートって……」
「少しギャルっぽくしてみただけだ。気にするな」
「リーダーのキモ可愛くない格好のせいでバトルに集中できそうにないよ……」
口に手をあて、いまにも吐きそうな面持ちで返答する魔術師。
下半身むきだしのオマエに言われたくない。
「よだれかけを搭載した超絶カワイイベビー服を着て、バブぅ~! とか言ってやろうか?」
「もういい。それ以上言わないで……」
魔術師は、俺のギャル風の格好が気に入らないらしい。
どれほど酷いものかと、スマホの画面に映った自分の姿を俺は確認する。
ぱっつんとした前髪に、三つ編みというヘアスタイル。
服装は……。
正直スマンかった。
やはり身長3メートルの俺がする格好ではなかった。
テレビなら放送禁止レベルの姿かもしれない。
「今まで黙っていたが、オマエのタンクトップも微妙だろ。なんだよ、栗と栗鼠とか、ありえんだろ。突飛すぎる。オマエを見たコンビニの女性店員が真っ赤な顔してたぞ。今日からオマエのあだ名を“タンクトッピ”にするぞ」
「へえ~。そうやって読むんだね。文字が逆さまで読めないけど」
魔術師は折れそうなほど首を曲げ、自身の着ているシャツの胸元を見ている。
「そんなシャツは漢字の読めない外国人が勢いで買うやつだ」
大人が普通にかわす会話をしながら、俺たちはバトル開始の合図を待っていた。
俺たちとG・クトゥルフの間あたりの上空に『テストバトルスタート』の文字が浮ぶ。
直後、ノリノリのアメリカンロックがBGMとして流れてきた。
ホイッスルが鳴り響くと同時、ヤンキー座りの体勢からシスターが勢いよく走り出す。
魔導書を抱えているせいか、手をまったく振らないという独特の走法でG・クトゥルフに向かう。
足場が悪いながら、シスターは巨乳を三次元的に揺らしつつスピードに乗った。
G・クトゥルフは動かず、シスターの様子を窺っている。
5メートル。
3メートル……。
G・クトゥルフに近づくにつれ、走るシスターの勢いが増す。
ヤツの手前50センチあたりで、
「聖なる頭突きを喰らうがいいし! ズハハハ!」
シスターが頭を垂れる。
「何するのかと思えば、頭突きって……」
魔術師が残念そうにぼやく。
オマエは何を期待していたんだ?
シスターの頭がG・クトゥルフのみぞおちを正確に捉えた。
ボフンという音を発すると巨体が宙を舞う。
油断していたのだろう。
ブッと屁をかましながら、そのまま上昇を続け、いまだに宙に浮いている『テストバトルスタート』の文字にブチ当たった。
すぐさま固い地面に顔面から落ちた。
ゴリっと地面に跳ね返され、また宙に浮く。
2度目の顔面着地を決め込んだG・クトゥルフは、体をピクピクさせている。
「起きろし! これでも喰らって失笑を買うがいいし! ホーリータブ!」
シスターが微妙な呪文を唱えた。
コイツがホーリーなんとかと言うと、なぜだか威力がありそうに思えてくる。
飛来した金属製と思しきオシャレな盥が、G・クトゥルフの後頭部にヒットする。
思ったとおり、軽快な音が響いた。
G・クトゥルフは、まだ気絶している模様。
「これでも喰らうがいいし! 週刊ネクロノミコソ!」
シスターは、振り上げた“偽物の魔導書”でG・クトゥルフの後頭部を殴打した。
ダウンしているヤツにえげつねえ。
よりによって、本のカドで殴りやがった……。
後頭部の衝撃でG・クトゥルフが目を覚ます。
すかさずシスターがG・クトゥルフの背後に回り込み、呪文詠唱。
「あの世でゆっくり眠るがいいし! ホーリースリープ!」
叫んだ瞬間、眠りに落ちた。シスターが。
その場に倒れ込み、シスターは大股をひらいて寝息をたてる。
え? 何してんのコイツ……。
「おいぃ!」
魔術師がシスターの救出へと向かう。
俺は笑いをこらえながら魔術師の後を追った。
G・クトゥルフにあっさり捕まる魔術師。
ガッチリとホールドされ、2メートルの大男が必至にもがくも脱出できない。
え? オマエも何してんの?
俺の仕事を増やさないでほしいのだが。
「おい、魔術師。そういえば、オマエの源氏名を聞いていなかったな」
「それ、いま聞く? 見てのとおりボクは忙しいから、あとにして!」
「わかった。で、誕生日はいつだ?」
「今日が命日になりそうだから、あとにしてくれる? 忙しいんで。骨と心が折れそうなんで……」
背骨を折られそうになっている魔術師を、俺は至近距離で見物していた。
バカだが、魔術師のことを俺は気に入っている。
ここでコイツを失うのは、正直ツライ。
はい。ここで、一句!
バカだけど。助けてやるか。 バカだけど。
「背中から変な音が聞こえるが、大丈夫か? 魔法を使ったらどうだ?」
「だから、呪文を覚えてないんだってば! 魔力も殆ど残ってないし。ねえ、リーダー。はやく助けてよ……」
「少し待ってろ」
俺は爆睡しているシスターを担ぎ、安全そうな場所まで運ぶ。
思い切り落としてみるが、シスターが目を覚ます気配はない。
すぐにひらいてしまうシスターの大股をとじる。
壊れた自動ドアみたいに、股ひらいた。
むすんでひらいて、みたいな歌を口ずさみながらシスターの股をクローズしてみる。
股ひらいて。
って、キリがない……。
魔術師が壊れた座椅子みたいになっている。
そろそろヤツも限界か。
シウマイ弁当に付属する“ひょうたん型の箸置き”を、G・クトゥルフに向けて飛ばすが、大きく右に逸れた。
大きな岩を粉砕し、箸置きは遥か彼方に飛び去った。
現世では調子が出ない。
武器も使えないし、シスターを装備するか。
眠っているせいだろう。
シスターの体がフニャリとして持ちにくいこと極まりない。
手に持ったシスターをかるく素振ってみる。
今度はフルスイング。
頭を掴んでいたせいで、シスターのホッパンが脱げて吹き飛んだ。
露になった純白パンツに視線を落とす。
コイツもパンツに名前を書くタイプらしい。
だが、字が汚くて読めない。
シスターを持ち直し、G・クトゥルフにむかって俺はダッシュする。
ヤツの前で立ち止まり、わざと土煙をたて視界をうばう。
「0・001パーセントだけ能力を解放」
シスターを持ったほうの右腕に力を集中させると、シスターが銀色に変化した。
シスターの顔面をG・クトゥルフの額に叩きこむ。
と思ったが、間違えて魔術師の後頭部に攻撃してしまった。
魔術師の頭がすげえ邪魔なんですけど……。
「ご主人さま、バトル中すいませ~ん。オカネを払えば、モノホンのクトゥルフさんの住所教えますよっ! 今ならもれなく別荘の住所も教えますよっ!」
「おい、サキュブス! ヤツの個人情報だろ? 勝手に教えると訴えられるぞオマエ。いまは忙しい。あとにしろ!」
サキュバスめ……。
それどころではない。
魔術師の顔色が変わってきている。
俺の攻撃を喰らったせいかもしれないが。
まだ覚醒しない聖剣シスターは、フニャリとして持ちにくい。
シスターより身長の高い精霊に変えるとしよう。
火属性っぽく見える水属性の精霊を装備し、いまだに魔術師と戯れるクトゥルフに向かって俺は走り出す。
少しジャンプして、大きく振り上げた『聖剣クロエモン』をG・クトゥルフにポチッと叩きこんだ。
2メートルほど退いたG・クトゥルフが、額を押さえようと魔術師を抱えていた手を放す。
魔術師が解放され、顔から地面に落下する。
魔術師は頑丈なようだ。
しれっとスクワットを始めた。魔力汁を溜めているのだろう。
ほどなくして、G・クトゥルフがヒザから崩れ落ちる。
BGMの終了と同時にG・クトゥルフが土煙の舞う地面に沈んだ。
気が付くと、クロエモンが半笑いで白目を剥いて倒れていた。
お疲れさん!
「バックファイヤー・エクスプローーーージョンぬ!」
突然、魔術師が例の開放系魔法を繰り出した。
ワザの名前を変えたようだ。
炎は前から出てますけど?
魔術師の股間が閃光を放ち、キ〇タマが爆ぜた。
なぜ今? バトルは終わったぞ?
爆音が合図だったかのように、タイミング良く『テストバトル終了』の文字が上空に浮かんだ。
バリアが解放され、湿った空気が俺のカラダを撫でていく。
意識を取り戻したG・クトゥルフが、
「呪いは全て解いたからな! ひとつ言っておく。おまえの巨大化は、オレ様がかけた呪いではない。剣とパンツはそこにある。ではな! ばーか! 頭ばーか!」
と言い残し、姿を消した。
なぜ邪神どもは頭の悪そうなセリフを吐いて消えていくのだろうか……。
ヤツが置いていった聖剣とパンツを手に取り、マジックで書かれた名前を検(あらた)める。
ひろし。
俺のじゃねえ……。
俺の本名は『トーマス・エンジン』。
旧神ノーデンスの力を右腕に宿す者。
異世界から現世に帰還した俺は、地元ではこう呼ばれている__
帰還者トーマス(笑)と。