テラーノベル
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Vol.1【見殺し】
私は、数えきれないほどの命を見殺しにしてきた。
助けられたかもしれない。
だが助けなかった。私は、そういう人間だからだ。
「ゲナウって、実はめちゃくちゃ優しいよな!」
「…何だと?」
私の隣で、あいつは眩しい笑顔でそう言った。
私が優しいなど、なんて馬鹿なことを。
顔が引き攣る。何人も死なせた私が、優しいはずがない。
あいつは、私の顔を覗き込んでくる。
正直やめてほしい。
「また、自分がたくさん見殺しにしたとか思ってるだろ?」
「ああ、事実だからだ」
「助けなかった、じゃなくて、助けられなかった…だろ?」
先程の笑顔が嘘のように、あいつは真剣な顔をしている。
…本当に、馬鹿馬鹿しい。
私は助けなかった。その事実を美化されるのは良い気分ではない。
「…お前やっぱり嫌なヤツだよ。捻くれてる!
助けようとしてダメだったことを、見殺しにしたって言うなんてな。
言語能力も壊滅的だ」
「そう思いたいならそう思えばいい」
あいつに何を言っても、いい感じに美化されて捉えられる。
根が明るいやつだからだろう。
そういう者に、魔法使いは向いていない。
そのうち、魔族の言葉に騙されて殺されるだろう。
そんな様子が鮮明に思い浮かべられる。
「ゲナウ、お前は誰も見殺しにしていない。
俺がそう思うから、きっとそうなんだ」
「…意味が分からないな」
本当に、あいつは訳が分からない男だ。
だがその訳の分からなさに、無意識に救われている時がある。
それに気付いたのは、あいつが死んでからだ。
私はいつも遅すぎる。
Vol.2【追悼の】
今まで何人を目の前で死なせた。
今まで何人を看取ってきた。
次第に、私の死に対する考え方というものは簡単なものになっていった。
死ぬというのは、心臓が止まること。ただそれだけだ。
それだけのことに、いちいち悲しんでいてもキリがない。
特に、私のようなたくさん人を死なせるやつは。
魔族を殺して、その度に人を死なせて、
また魔族を殺して、さらに人が死ぬ。
気付けば魔族を殺した数より、人を死なせた数の方が多くなってしまった。
足が不自由で動けず、逃げ遅れた老人も。
まだ物心もついていないような子供も。
…底抜けに明るかった、あの相棒も。
やがて私は、世界一不名誉な二つ名で呼ばれるようになった。
『追悼のゲナウ』
死を悲しみもしないやつに、追悼など。
なんて、なんて皮肉だ。
魔族を殺した数より、人を死なせた数の方が多い私には
ぴったりな二つ名なのかもしれないが。
Vol.3【仏頂面】
「ゲナウって、本当仏頂面だよな」
あいつは、私に対してそう言い放つ。
ああ、間違いではないのだろう。
最近は無理に表情を変えようとすると、表情筋が悲鳴をあげるからだ。
「もっと笑えよー、お前が笑ったら絶対可愛いぞ?」
「悪いが、私に可愛いと言われたい趣味はない」
「そういうわけじゃなくてだな…」
ならどういうわけなのか、私には分からない。
いつもあいつには“また分からないで誤魔化してる”などと文句を言われるが、
本当に分からないのだから仕方がないだろう。
そもそも、男を可愛いと言うなんてどうかしている。
少年だったり、中性的な見た目だったらまだしも
私は普通の成人男性だ。
「お前は猫みたいで可愛いんだよ、無表情でゴロゴロ喉鳴らしてんの」
「鳴らしていない」
「いや絶対鳴らしてる!もっと嬉しそうな顔で鳴らせってんだ」
こいつにそんなことを言われて、その通りにする筋合いなんてない。
その通りにするとして、まず大前提である
嬉しそうな顔というのが作れない。
…この前だって、“笑わせる”と言いながら無表情だったことを
他の一級魔法使いにいじられたのだ。
「仕方ないだろう、私はそんな顔できない」
そう、独り言のように呟いた言葉。
あいつに聞こえているのかは分からない。
Vol.4【ディガドナハト】
あいつが、私の魔法を見た時の第一声はこうだ。
「すっげー!!!!かっけぇ!!!!」
「…かっこいいだけじゃない、攻守共に優れ…」
「自分でもかっこいいって思ってるんじゃないか!実際かっこいいんだけどな!」
この魔法は、ゼーリエ様から特権で頂いたものだ。
私にこんな派手な魔法は似合わない、そう思った。
だがゼーリエ様曰く、“使用者が地味なんだから魔法は派手くらいが丁度いい”
…ということらしい。
一言多い気がしないでもないが、私はそういうことを気にするタイプではない。
「翼生やす時さ、ディガドナハト!って言ったらかっこいいと思うぞ!」
「…」
「あと…手をこう、頭に当ててさ」
「なんだその頭痛のようなポーズは。やらんぞ」
ゲナウのケチ!とあいつが叫ぶ。
魔法はイメージの世界とはいえ、無駄な過程はある程度省くべきだ。
私は今のままでも、十分イメージが出来ている。
そこに新しい要素を入れようとすれば、逆に今まで積み上げてきたものが
無駄になるかもしれない。
新しいことを試すというのは、リスクがあることだからだ。
「じゃあ一回だけ!一回だけ俺にやって見せて!」
子供のように駄々をこねた相棒に、私はため息をついた。
つくづく、私は甘いやつだ。
「…一回だけだ」
最初に翼を生やすイメージから始めると失敗する。
まずは翼がどんな見た目か、どんな硬さか、軽いか重いか。
そういうことをイメージしてから、その翼を自分の背中にくっつけるイメージで。
…そして、あいつに言われた通りの頭痛のようなポーズ。
やってみると、意外と背中に意識が向いてやりやすいかもしれない。
恥ずかしいことに変わりはないが。
「…ディガドナハト……」
そう言いながら、背中から翼を生やす。
これであいつは満足だろうか。
「うーん、かっこいいよ?かっこいいんだけど…」
「なんだ、何が不満だったんだ」
「…声、ちっさ」
言い返せる言葉はない。
村で何百回も“腹から声出せゲナウ”という言葉を浴びせられてきたからだ。
Vol.5【君に手向ける花束はない】
私は、あいつの墓の前でしばらく呆けていた。
何を始めに言うべきなのか、迷ったからだ。
「レヴォルテを討ったよ」
結局、始めに出た言葉はそんなことであった。
きっとそれは、あいつが求めていた言葉では無いのだろうと思う。
墓に供えるものは持ってきていなかった。
一般的に、墓に供えるのは花だと思うが
あいつには絶望的に花が似合わないのだ。
「お前に似合う花を探していたんだが、どうやらそんな花は無いみたいでな」
そう世間話のように言ってみる。
当然、返事は無い。
私は何をしているのだろうか。
こんな石碑に話しかけても、時間を無駄にするだけだ。
…無駄にするだけなのに。
「お前がどんな顔をしていたか、もうハッキリとは思い出せなくなってしまった」
そう言った途端、鼻がつんと痛んだ。
もっと、お前の顔をしっかり見ればよかったのに。
私にも、まだ人並みの感情はあったらしい。
視界がぼやけて、よく見えない。
顔が熱い。耳が熱い。
泣いても何も変わらない。
だから、今まで泣かないように努めてきた。
それなのに、こいつの墓の前で泣くなんて。
「いつも…いつもだ。お前に調子を崩されるのは」
こいつに花なんて手向けるのは癪だ。
せいぜい、死ななければよかったと思わせてやる。
子供を庇ったことを後悔させてやる。
思い知れ、お前の死を悲しむ人間がいるということを。
コメント
2件
あとゲナウさんってファンからおっさんって言われること多いけど 実際どうなんだろう。私は20代半ばくらいかなって思ってたんだけど。
もう人気投票終わるまでにあんま無い気がするので めちゃくちゃ短いですが一応書きました!! もっとゲナウさん人気出ろ!! 追悼のゲナウはなんか厨二病っぽいネーミングになっちゃったけど入れたかった。 ディガドナハトの頭痛ポーズも、相棒に言われてやり始めたとかなら めちゃくちゃエモいなって思って書きました。私って天才?