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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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秋元コーポレーション。


3つの建設会社。

1つのディーラー。

1つの事務機販売。

2つの書店。

1つのガス会社、2つのガソリン会社。

保育園、デパート。



12の企業からなるグループの頂点、秋元正和は、私の父だった。


小さいころから教育熱心だった母とは裏腹に、父は自由主義の人だった。


学習塾やピアノ教室の合間に、父は私を海へ山へと頻繁に連れ出してくれた。


さらには予備校や塾の送り迎えと言う名目で、私を高級クラブや風俗街にも連れて行ってくれた。


「いいか、葉子。女は頭脳や知識じゃない」


父は高級クラブのVIPルームにある白い皮シートに背中を沈め、金色のシャンパンを飲みながら、言った。


「俺の計算では、女性が男性と同じように社会進出を果たし、男尊女卑が悪となり、男女雇用が名実ともに平等になるまで10年。

その時代に納得できずに燻ぶった男たちが、才ある女性の昇進を妬み邪魔する時代が、その後30年は続く。

お前はその頃何歳だ」



「40年後だから……57歳?」


言い終わる前に父は肩を竦めながら首を横に振った。


「そのとき、お前の女性としての価値はもう残っていない」


「じゃあどうすれば―――」


父は私の肩を抱いていった。


「いいか。女に必要なのは、愛嬌と濃艶だ」


「愛嬌?」


「笑ってろ。男は美人の笑顔に弱い」

父は私の頬を撫でた。


「農園って?バラでも育てるの?」


ふざけて笑うと彼は頬を撫でていた手を私の首筋に滑らせた。


「んっ」

小さな息が漏れる。


彼はそのままセーラー服の上に手を滑らせて、私の乳房を触った。


「こっちの濃艶だよ。艶っぽく美しくあれ、ということだ」


制服の上から乳房を揉みしだかれた。


「んん……」


初めて自分以外の人間から触られた快感で、思わず父の襟元に顔を埋めると、彼はその手で優しく顎を固定し、唇を合わせた。


「ふっ……」


息が漏れる。

唾液が垂れる。


乳房を揉んでいた父の指が的確に乳首を捉える。

ブラジャーの上から引っ掻かれ、強くつねられ、私は短く悲鳴を上げながら、腰を浮かせた。


「ああ……!」


思わず大きな声を上げた私の口を塞ぎながら、父は楽しそうに覗き込んだ。


「いい反応だ。さては自分で弄ったことがあるな?」


「……………」


羞恥心に頬を染めると、父は深いほうれい線を浮かび上がらせがら笑った。


「お仕置きが必要だ」


その日―――。


父と初めてセックスをした。



不思議なほどに抵抗はなかった。


それどころか、いつかこうなるだろうとさえ思っていた。


父は、幼いころから一度も、私を娘として見ていなかった。


海に行って水着をきたときも、山に行って大岩を跨いだ時も、


彼は私を女としか見ていなかった。



『―――ああ。美しいよ、葉子。君は世界で一番、綺麗だ』


母の目を盗んで身体を重ねながら、父は譫言のようにそう繰り返した。


「あ……んん……ぁああ……は……」


父が腰を打ち付けるたびに、何かが突き上げられていくのを感じた。



『ーーー忘れるなよ、葉子』


今日も来る。

真っ赤に燃える海が。


『聡明さなんていらない。女に必要なのは―――』


迫ってくる。

白く泡立った波が。


「ーーー女に必要なのは、セックスだけだ」


◇◇◇


父に彼を紹介されたのは、それから十年後の27歳の時だった。


それまで父やその親戚が持ってきた縁談と言う縁談を全て断っていた私は、彼を見た瞬間、心臓を矢で射抜かれたほどの衝撃を覚えた。


『私の狩猟仲間なんだ』


父は嬉しそうに彼を紹介した。


『会計事務所に勤めていてね。今回秋元グループの横領事件では一役買ってもらったんだよ』


横領事件があったなんて初耳だったが、そんなことはどうでもよかった。

私は彼の爽やかで優しそうな笑顔に一目惚れした。


聞けば奥さんと娘が一人いるという。


しかしそんなことでさえ、どうでもよかった。


ーーー私は、彼が欲しかった。





そのことを父に相談すると、彼は二つ返事で了承してくれた。


『お前が彼に惚れるだろうことはわかっていた。だから彼をお前に会わせたんだ』


父はそう言った。


『でも、奥さんと子供までいるわ』


言うと彼は鼻で笑った。


『大丈夫だ。あれは妻とはうまくやっていない。少しつつけばすぐに離婚する』


『そうなの?』


『離婚してお前と一緒になればいい。そうすれば彼を次期社長に推してやる。

彼にとっても小さな会計事務所で他人の粗探しをしながら朽ちていくよりは、いくつもの会社を股にかけた人生を歩んでみたいはずだ』


『そうかしら……』


『狩猟本能とはそういうもんだよ』


彼は笑い、そして私を抱き寄せた。



『―――あとはどうやるか、わかるな?』




今思えば、全て父の計画通りだったのかもしれない。


秋元家には、私しか子供ができなかった。


そしてその私も、女経営者になるほどの度量と頭脳を持ち合わせてはいなかった。


そう判断した父は早々に舵を切り返し、私を『優秀な男を掴むための穴』として育て上げた。


そして私が熟したところで、目下一番優秀な男をあてがった。


その妻と子供は置き去りにして――――。




こうして私は父に狩猟の旅行に呼ばれ、彼と再会した。


「疲れた」と早々に休んだ父の代わりに、別荘のコテージで遅くまで暖炉の火を見ながら彼とワインを飲んだ。


そしていつしか二人の身体は一糸まとわぬ姿になって、炎の光の中で揺れていた。




離婚した元妻と娘には、一生働かなくても困らないほどの多大な慰謝料が秋元グループから支払われた。


晴れて私は彼と結婚した。



その1年後ーーー父はあっけなく死んだ。


大腸癌だった。


死ぬ数年前から、ステージ4で苦しんでいたと医師は言った。



それを聞いても―――。



何かを感じることはなかった。

パリスの審判 ~監禁する女神たち~

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