テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「 活動休止 」
名前伏せ無し
夜の都心。
オフィスビルの一角にあるスタジオフロアの
控え室に、さとみは一人残っていた。
録り終えたばかりの動画素材のファイル名は、「 すとぷり×騎士X×AMPTAK×めておら×すにすて ファミリー生放送 」。
モニター越しの楽しそうな空気、交錯する笑い声。 “ファミリー”という言葉が軽やかに、何度も飛び交っていた。
けれど、その輪の中にいたはずの自分の声が、やけに遠く感じる。 “どこか、違う”。
その感覚が日に日に増していた。
「……もう無理かもな、俺。」
そう独りごちた瞬間、ノックもなくドアが開いた。
「やっぱ、ここやと思ったわ。」
入ってきたのは、ジェルだった。スウェットのフードを雑にかぶり、手にはアイスカフェオレとホットのミルクティー。
「どっちがいいか迷って両方買った。お前、甘いやつ好きやろ。」
無言で手を差し出すと、さとみはミルクティーを受け取る。 ふわっと香る匂いに、なんだか泣きたくなった。
「なぁ、なんで気づくのがそんな早いんだよ、お前は。」
「気づくやろ。ずっと一緒にやってきたんやぞ。」
ジェルは冗談めかして笑ったが、その目は真剣だった。
「……もう、無理だわ。」
そう呟いた声に、ジェルの笑みが消える。
「“方向性の違い”って、建前だけどさ。 正直、俺のやりたいこと、もうここにはねぇんだよな。」
「他グル絡みのこと、気にしてるんか?」
さとみはうつむいたまま、黙って頷いた。
「“ファミリー”って言葉、最近すげぇ使われるけどさ。 俺らが築いてきた“すとぷり”って枠、どんどん曖昧になってく感じがして。 みんなが楽しそうにしてるの、否定する気はねぇけど……俺は、その中で消えてってる気がする。」
ジェルは黙ってさとみの話を聞いていた。
その沈黙が、妙にやさしく感じた。
「今日、るぅとにも、莉犬にも話した。近いうちに活動、休もうって。」
「……そうか。」
静かに返されたその言葉に、さとみは少し肩をすくめた。
「止めないのかよ、お前は。」
「止めへんよ。お前のこと、いちばん近くで見てた俺が、止めてどうする。 それに……休むって決めたお前、ちょっと綺麗に見えた。」
「は?お前、それ、どういう」
「“自分を曲げてまで残ろうとしてるお前”は、正直見ててしんどかった。 でも今の“離れる決意をしたお前”は、なんか、ちゃんと前向いててさ。」
さとみは言葉を失った。
「だからな、さとちゃん。」
ジェルは顔を近づけて、小さく笑う。
「俺、お前のいない“すとぷり”は、ちょっと物足りんくなるけど…… “さとちゃん”そのものは、どこにおっても好きやから。」
「……そういうの、さらっと言うなよ。」
「お前、素直じゃないから言っとかな伝わらんねん。」
沈黙が落ちた。
二人の間の空気が、いつになく静かで、あたたかい。
「休む前に、最後、どっか行くか。海でも、山でも。」
「……なんで、海と山?」
「なんとなく。リフレッシュってそういうもんやろ。」
「バカか、お前。俺、虫苦手だっつーの。」
「……じゃあ俺んち来いよ。掃除して待ってるから。」
「は?」
「お前、ちゃんと寝れてないやろ?泣くなら俺のベッドで泣け。」
「……バカ。」
照れ隠しに笑いながら、さとみは初めて、ほんの少し泣いた。
静かに肩を寄せたジェルのぬくもりが、
“どこへ行っても戻れる場所”があると、やさしく教えてくれた。
エピローグ
数日後、さとちゃんの活動休止が正式に発表された。 SNSはざわついたが、本人のコメントには、どこか晴れやかな決意が感じられた。
「少しだけ、自分を取り戻す時間をもらいます。」
その投稿の裏で、ジェルだけが知っている。
“取り戻す場所”には、ちゃんと帰る先があることを。
それは“すとぷり”であり、 それよりももっと深く、 「ジェル」という、特別なひとりのもとであることを。
ファミリー企画考えてる人が悪いって言いたい訳では無いけど大前提方向性の違いで活動休止いるんやからそんなばんばんファミリー企画しててもなぁ、って感じ