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「 活動休止 」

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「 活動休止 」

1 - 「 活動休止 」

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2025年08月05日

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「 活動休止 」



名前伏せ無し
























夜の都心。

オフィスビルの一角にあるスタジオフロアの

控え室に、さとみは一人残っていた。


録り終えたばかりの動画素材のファイル名は、「 すとぷり×騎士X×AMPTAK×めておら×すにすて ファミリー生放送 」。


モニター越しの楽しそうな空気、交錯する笑い声。 “ファミリー”という言葉が軽やかに、何度も飛び交っていた。


けれど、その輪の中にいたはずの自分の声が、やけに遠く感じる。 “どこか、違う”。

その感覚が日に日に増していた。


「……もう無理かもな、俺。」


そう独りごちた瞬間、ノックもなくドアが開いた。


「やっぱ、ここやと思ったわ。」


入ってきたのは、ジェルだった。スウェットのフードを雑にかぶり、手にはアイスカフェオレとホットのミルクティー。


「どっちがいいか迷って両方買った。お前、甘いやつ好きやろ。」


無言で手を差し出すと、さとみはミルクティーを受け取る。 ふわっと香る匂いに、なんだか泣きたくなった。


「なぁ、なんで気づくのがそんな早いんだよ、お前は。」


「気づくやろ。ずっと一緒にやってきたんやぞ。」


ジェルは冗談めかして笑ったが、その目は真剣だった。


「……もう、無理だわ。」


そう呟いた声に、ジェルの笑みが消える。


「“方向性の違い”って、建前だけどさ。 正直、俺のやりたいこと、もうここにはねぇんだよな。」


「他グル絡みのこと、気にしてるんか?」


さとみはうつむいたまま、黙って頷いた。


「“ファミリー”って言葉、最近すげぇ使われるけどさ。 俺らが築いてきた“すとぷり”って枠、どんどん曖昧になってく感じがして。 みんなが楽しそうにしてるの、否定する気はねぇけど……俺は、その中で消えてってる気がする。」


ジェルは黙ってさとみの話を聞いていた。

その沈黙が、妙にやさしく感じた。


「今日、るぅとにも、莉犬にも話した。近いうちに活動、休もうって。」


「……そうか。」


静かに返されたその言葉に、さとみは少し肩をすくめた。


「止めないのかよ、お前は。」


「止めへんよ。お前のこと、いちばん近くで見てた俺が、止めてどうする。 それに……休むって決めたお前、ちょっと綺麗に見えた。」


「は?お前、それ、どういう」


「“自分を曲げてまで残ろうとしてるお前”は、正直見ててしんどかった。 でも今の“離れる決意をしたお前”は、なんか、ちゃんと前向いててさ。」


さとみは言葉を失った。


「だからな、さとちゃん。」


ジェルは顔を近づけて、小さく笑う。


「俺、お前のいない“すとぷり”は、ちょっと物足りんくなるけど…… “さとちゃん”そのものは、どこにおっても好きやから。」


「……そういうの、さらっと言うなよ。」


「お前、素直じゃないから言っとかな伝わらんねん。」


沈黙が落ちた。


二人の間の空気が、いつになく静かで、あたたかい。


「休む前に、最後、どっか行くか。海でも、山でも。」


「……なんで、海と山?」


「なんとなく。リフレッシュってそういうもんやろ。」


「バカか、お前。俺、虫苦手だっつーの。」


「……じゃあ俺んち来いよ。掃除して待ってるから。」


「は?」


「お前、ちゃんと寝れてないやろ?泣くなら俺のベッドで泣け。」


「……バカ。」


照れ隠しに笑いながら、さとみは初めて、ほんの少し泣いた。


静かに肩を寄せたジェルのぬくもりが、

“どこへ行っても戻れる場所”があると、やさしく教えてくれた。





数日後、さとちゃんの活動休止が正式に発表された。 SNSはざわついたが、本人のコメントには、どこか晴れやかな決意が感じられた。


「少しだけ、自分を取り戻す時間をもらいます。」


その投稿の裏で、ジェルだけが知っている。

“取り戻す場所”には、ちゃんと帰る先があることを。


それは“すとぷり”であり、 それよりももっと深く、 「ジェル」という、特別なひとりのもとであることを。









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