龍之介が率いる【桃色青春高校】と夏の王者【スターライト学園】の試合が始まろうとしていた。
先攻は【桃色青春高校】。
マウンドに立つのは、【スターライト学園】のエースナンバーを背負ったハルカ。
彼女が投球練習を行う。
(へぇ……。相変わらず、コントロールが良いな……)
龍之介が感心しながら彼女のピッチングを見る。
ストレートの伸びも悪くない。
龍之介とハルカがチームメイトであった中学3年生時代と比べても、順調にレベルアップしているように見える。
『プレイボール!』
審判ロボが宣言し、試合が始まる。
人間の野球選手を尊重するため、野球ロボの性能は抑えられている。
だが、審判については性能の制限がない。
2099年になった今、限りなく正確なジャッジができるようになっていた。
『1番、ライト、ロボ1号』
アナウンスロボの声に応じ、先頭打者がバッターボックスに入る。
そして、初球。
『ストライク!』
まずはワンバンのスローカーブ。
ボール球だ。
しかし性能を抑えられたロボ1号では見極められず、振ってしまう。
「うーん……変化球も成長しているな……」
龍之介は感心する。
続いて、2球目。
『ストライーク!』
今度はシンカーだった。
これもロボ1号のバットはかすらない。
『ストライクー! バッターアウッ!!』
最後はド真ん中へのストレート。
それを見逃してしまい、ロボ1号はあっという間にアウトになってしまった。
続く2番バッターのロボ3号も、同じく三球三振。
「うーん……。やっぱり、ロボでは甲子園の優勝投手は打てないか。――ん?」
『ボールフォア!!』
「なにっ!?」
3番のロボ0号が四球で出塁した。
予想外の出来事に、龍之介が驚く。
続く4番打者としてバッターボックスに入った彼は、ニヤリと笑う。
「くっくっく。2者連続の三振はさすがだと思ったが……。コントロールが乱れているんじゃないか? ハルカ」
「…………」
「黙っているということは図星か。やはり、この試合は俺の――うっ!?」
『ストライークッ!!!』
龍之介の横を通り過ぎていく白球。
彼は、その球速に驚いた。
「な、なんだ今のスピードは……。150kmは出ていたんじゃ……。それに、このキレ……。今までとはものが違う」
「当たり前じゃない。ウォーミングアップとかロボット相手とかに、全力投球なんてしないわよ」
「くっ……!」
動揺する龍之介に対して、ハルカが冷静な口調で言う。
彼女は投球動作に入りながら、彼に話しかける。
「龍之介。あなたはどうして野球を辞めたの? 高校でも一緒に野球ができるって思っていたのに……。なんで突然いなくなったのよ?」
「そんなこと、お前には関係ない。――くっ!!」
2人の思い出話をしながら、ハルカはボールを投げた。
――ズバーン!!
150km超えのフォーシームがキャッチャーミットに収まる。
ハルカだけでなく龍之介も、中学野球の優勝メンバーだった。
だが、煩悩不足により衰えた今の龍之介ではかすらせることもできない。
「別の高校で野球部に入るのかと思ったら、1年以上もフラフラしていただけなんて……! 才能の無駄遣いじゃない!!」
「うるさい……! お前に言われる筋合いは――」
『ストライッ! バッターアウト!!』
4番の龍之介までもが三球三振に倒れ、1回の表が終わる。
次は、【スターライト学園】の攻撃だ。
甲子園優勝校の強力打線を、龍之介は抑えることができるのか?
――現実はそう甘くなかった。
『ボール! フォア!!』
龍之介が3番バッターに四球を与えてしまう。
1番・2番の連打に続く四球。
これで満塁となってしまった。
「はぁ……、はぁ……。くそ……。こんなはずじゃ……」
「どうしたの? もう限界? 球威もコントロールもカス同然……。中学野球の優勝投手も、落ちぶれたものね」
「うるせぇ……! まだ、試合は始まったばかりだ!!」
ハルカの暴言を受け、龍之介はなんとか自分を奮い立たせようとする。
しかし、彼の体は正直だった。
次の打者である4番ハルカに対しても、まともに投げることができない。
『ボールスリィー!!』
(チッ! まともにストライクが入らねぇ……! エロパワーがない俺は、ここまで下手くそだったのか……!! それになぜか、中学の頃よりもハルカが大きく見えやがる……!!)
龍之介が悔しさで歯ぎしりする。
そして、彼が4球目に選んだコース。
押し出し四球を恐れた甘い球。
それをハルカは見逃さなかった。
「これが……今のあんたの球なのね……」
カキーン!!
快音とともに、打球がレフト線へと飛んでいく。
外野を守るロボが走るが、到底追いつけない。
その間に、白球はどんどん遠ざかっていった。
「龍之介……。あんたの才能は、もう終わったわ。自分のバカな選択を呪いなさい……」
ハルカは失望の表情と共に、ダイヤモンドを回る。
これで【スターライト学園】が4点を先制。
なおもノーアウトのまま。
――その後も龍之介はしこたま打たれ続けた。
性能を抑えられている野球ロボも足を引っ張った。
ならば反撃しろと言われるかもしれないが、そちらもハルカの球威と多彩な変化球の前に押されっぱなし。
結局、試合は3回裏の【スターライト学園】攻撃中に龍之介がギブアップを申し入れた。
【桃色青春高校】0-30【スターライト学園】 3回途中ギブアップ
龍之介が率いる【桃色青春高校】の初陣は、凄まじい程の大敗で終わったのであった。