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「この子、誰?」
程小時の問いかけに、陸光は静かに眉をひそめた。
写真は、古びた喫茶店の前で撮られたスナップ。
依頼人は、「ある女の子の失踪」に関する真実を知りたいとだけ言ってきた。
写真は10年前のもので、映っているのは当時の依頼人とその数人の友人。
のはずだった。
だが、中央に立つ少女は、依頼人の記憶にも記録にも存在しない。
「画像加工の痕跡もない。構造的にも自然に映り込んでる。……けど、誰だ?」
「いや、だからそれを俺が聞いてるんだけど?」
小時が写真を持ち上げる。少女は笑っていた。
風になびく黒髪、薄いピンクのワンピース、
誰とも視線を合わせていない、けれど存在感のある目。
そして何より、その瞳が小時の心を射抜いた。
「行くぞ。過去に。」
陸光が片手を上げて、目を閉じる。
小時の意識が、写真の向こう側へと沈んでいった。
時は10年前。陽射しはやさしく、風は冷たい春の匂いがした。
「……あ。」
彼女は、そこにいた。
喫茶店の前、花壇のそばにしゃがみ込んで
咲きかけた小さな花にそっと触れている。
「ねえ、君……」
小時が声をかけると、少女は驚いたように顔を上げた。
「……見えるの?」
「え?」
「ふつう、誰も気づかないのに。君、なんで私が見えるの?」
まるで、最初から「見えていない」のが当然だと言わんばかりの口ぶり。
「君、名前は?」
「……覚えてるうちに聞いてくれる?」
少女は微笑んだ。それは、何かを諦めきった人の笑顔だった。
「どうだった?」
意識を戻した小時に、陸光が問う。
「……変だ。あの子、喋ってた。俺に。ちゃんと俺のこと、見てたんだ」
「……その子、映ってなかった。今、確認した」
「は?」
「俺が見た写真には、その子はいなかった。お前が持って行った原本にも、もういない」
「……何言ってんだよ……!」
だが、小時の手に握られていたのは、ひとつのメモ。
白紙のはずの紙には、細い文字でこう書かれていた。
「今度は忘れないでね。」
写っていないはずの少女は、確かにそこにいた。
でも、誰の記憶にも残っていない。
……小時を除いては。