続きです!なんかイラスト投稿したら創作意欲が湧いてしまって…まさかの一時間強くらいで書き上げてしまいました…
⚠️旧国注意・グロシーン、若干(本当に若干)🔞シーン?のようなものあり、苦手な人は読まないでください。
「………なぁソ連」
本を読み耽っていたナチスが、静かにソ連の名を呼んだ。窓際の机に着いていたソ連は、読んでいた小説から顔を上げるとナチスを振り返った。
そこには、部屋の奥に置かれたソファに身を沈め、本を読んでいたナチスがいた。すぐ近くのカーペットの上には沢山の本に埋もれるようにして小説を読み漁っていた日帝がおり、ソ連同様、ナチスを見上げている。
「……ん?」
「………」
「どうした、ナチ?」
「……あ、あのさ……」
何かを言おうとしては迷い、言い渋っているナチスにソ連は優しく問いかけた。それでもナチスは言いにくそうに目線を漂わせ、口を開いては閉じを繰り返している。見かねた日帝がナチスをつついた。
「ナチ?言わなきゃ分からないぞ」
「……いや……」
なおも言い淀んでいるナチスを見ながら、ソ連は、部屋の中がいつの間にか暗くなっていることに気づいた。辛うじて本の文字が識別できるくらいだ。ソ連は席を立ち、天井から吊り下げられたランプに火を灯してやろうとした。その時だった。
「ソ連……」
ナチスがやっと口を開いた。ソ連はナチスを見た。
「気を悪くさせちまったらすまない。でも、一つだけどうしても気になっててな……」
「………言ってくれ、ナチ」
「………その」
意を決したようにナチスが顔を上げた。
「……お前のとこの、子どもたちは……ロシアと、ウクライナは」
「………っ‼︎ 」
「大丈夫、なの、か………?」
ソ連が顔を強張らせた。
脳裏に彼らの顔が浮かぶ。記憶の中の彼らは、幼い時のまま成長していなかった。小さな手、大きな、何の汚れも知らぬ純粋な瞳。笑った顔の何とも可愛らしいこと。自分の中では、自分が死んだ時のまま、彼らもストップしているのだ。しかし当然、彼らは生き、成長し、歳を経ているわけで。
自分が“こちら”にきてから十数年が経った。そしてその間に───。
「もう、何年経った?なんで、あんなことが起こっちまったんだ……?」
躊躇いがちにそう言ったナチスの言葉は、ソ連の心を抉っていった。
ロシアがウクライナに───兄が弟に、侵攻を開始してから。もう、どのくらい経ったのだろう。
一番仲の良い二人だった。これからも彼らは、自分がいなくても、ずっと助け合って生きていくのだろうと思っていた。
でも、違った。
「……何で…………なんだろうな」
ソ連が乾いた声でつぶやいた。日帝がソ連の代わりに立ち上がり、ランプに火を入れた。部屋の中がぼうっと明るくなる。
ランプの光に照らされ俯いたソ連の目元、ウシャンカが濃い影を作りだす。
「なんでか……俺にも、分からない。何が間違っていて、いや……どんな選択をすれば良かったのか、何が正しかったのか……分からないんだ。でも……ただ、一つだけ分かっていることがある………」
「………何だ?」
ナチスがソ連の顔を覗き込む。やはり、その目元は見えない。でもソ連がどんな表情をしているか、ナチスには手に取るように分かった。
きっと、その顔は苦しそうに歪んでいる。
「もし、このまま……戦争が続いたら」
「………うん」
「きっと、どっちかは……助からない」
「…………ぇ」
それって、と言いかけたナチスを遮り、ソ連は首を振った。それから両手で顔を覆った。ソ連の口許から、喘鳴のような吐息が漏れた。
「……ウクライナが、先に…………………斃れる、だろうと、俺は……考えてた。それなのにどうだ。どちらもまだ……」
「…………」
「……どちらもまだ、……戦っている」
ソ連は、ああ、とも、おお、ともつかない声を漏らした。
「……二人には、絶対に……死んで欲しくなんかない。こちら側になんて、来て欲しく……ない。でもこのままだと……どちらかは、確実に…………………っ、ゔっ」
ソ連が突如、かがみ込んで口許を覆った。ナチスが音を立てて立ち上がったが、それより早く近くにいた日帝がその背をさすってやった。
「ソ連。無理に、喋らなくて良い。だから……」
しかしソ連は、フルフルと首を横に振ると、ゆっくりと口から手を離した。声を震わせながら続きを言う。
「……相打ちだ。力が拮抗し過ぎている。下手したら……ロシアも、ウクライナも、両方が……相打ちになって斃れてしまう」
ソ連が一瞬でも喋るのをやめると、部屋の中はドッと静寂が満ちた。
「……どっちも正しいんだ。俺には分かる。そして……どっちも、間違ってる。だから……終わらない。どちらも、自分なりの正義を貫こうと躍起になってる」
「………」
「なぁ、俺はさ…………」
ナチスはソ連の顔を見上げた。蝋人形のように血の気の引いた顔をしたソ連の、その頬が痙攣している。まるで、笑いたいのに笑えない、本物の、蝋人形のように───。
「俺、どこで……間違っちまったんだろう……?」
ソ連はそれだけ言うと、深く俯いた。目元に再び濃い影が落ちた。
やがて、ソ連の手が彼の顔を完全に覆い隠した。まるで、悲しさに泣く幼子のようだった。
「俺……最低、だな……あの子たちには、絶対にこっちに来て欲しくないなんて……言っておきながら、今は……会いたい。ロシアに、ウクライナに……会いたい……」
「………なぜそう思うんだ?」
ナチスが、声を穏やかにそう問うた。ソ連が肩を振るわせる。そして一言。
「……会って、……抱きしめてやりたい……」
日帝がソ連の背をさすった。ソ連は微動だにしない。
湿った、感傷的な空気が漂う中、日帝はソ連の背をさすり続けた。ナチスはソ連の肩を何度か叩いてやった。
誰もが、死に別れた自分の子たちのことを、思っていた───
「……ハァッ、ハッ……はっ、ハッ……っ‼︎ 」
……とにかく、走る。腕をむちゃくちゃに振り、可能な限り大股で地面を蹴って走る。激しい呼吸のし過ぎで肺が痛んだが、このくらい、どうってことない。訓練時の苦しさから比べたら可愛いものだ。ただ唯一の気掛かりといえば、先ほどからガチャガチャと耳障りな音を立てている背負った銃くらいか。
(クソッ………)
抱えたら抱えたで走る速度は落ちる。となるとやはり背負っているのが理にかなっているし、合理的だ。今は、銃の頑丈さに賭けるしかない。AK12───壊れにくく扱いやすいことで有名なカラシニコフの優れものだが、ここまで杜撰に扱って良いものか。
いや。
(………考えるな)
今はただ、目標に向かって進めば良い。
お目当ては自軍のトラックだった。兵士輸送のための一台だ。なぜトラック如きにこんなに必死になって駆けているかというと……理由は簡単。そこから先が、前線入りだからだ。
乾いた、背の低い草がまばらに生える道を走る。両脇には、枯れ木と、冬に向けて葉を落とし続ける辛うじて生きている木々とが不気味に乱立する森。戦車によってつけられた轍に足を取られそうになりながらも、その戦車が一台通るのが精一杯であろう道をただ走り抜ける。
「………っ‼︎ 」
そこから走って数分、急に道がひらけた。そこにあったのは、探し求めていたトラックだった。安堵がドッと押し寄せる。おそらく中には自軍の兵士がいるはずである。小走りに近づくと、中を覗き込み、声を張り上げた。
「待たせたな!来てすぐで悪いが、前線基地に行くに、は………」
方角を聞こうとしたが、目に飛び込んできた光景に、言葉を失った。
中は凄惨な状態だった。兵士は確かにいた。しかし、「置かれている」と言った方が正しかったかもしれない。何せ、生きている者は一人も居なかったのだから。
「………ッ‼︎ あっ………‼︎ 」
運転席と助手席に、座ったままの二人の死体。どちらも、迷彩柄の服はその上半身部分が赤茶色に染まり、そのシミの上に埃が微かに積もっている。そして、運転席側に座った兵士は、肝心の首から上が無くなっていた。いや、顎や白い歯らしきものは残っている。ぐちゃぐちゃに腐った肉の断面のようなものを晒して、彼は息絶えていた。そして、その隣、助手席に座ったままの男。彼は俯き、目をカッと見開いたまま死んでいた。どろりと白く濁った瞳が虚空を睨んでいる。彼の首元には、乾いた血に塗れた大きなガラス片が刺さっていた。死因はそれだろう。見れば、トラックのフロントガラスが粉々に割れていた。
「…………ぁ」
そこで、気づいた。こんなことが可能なのはあの忌まわしい機械しかない。加えて、周りには戦闘の跡はなかった。だとしたら、やはり。
「自爆式……無人ドローン……」
彼らの皮膚は腐り落ち、もはや緑色がかっていた。死後何日も経過していることの証だ。
「……クソッ………んで、こんな………」
身を翻すと、すぐさま前線基地の方向に向かってあたりをつけて駆け出した。
冬が刻一刻と近づいてくる。まだ午後になったばかりだというのに、太陽はすでに傾き始めていた。その空の色は薄い青色で、吹けば霧散しそうなほどの雲がまばらに浮かんでいる。真夏のようなケバケバしい強い輝きはどこにもなかった。時折吹く風が冷たかった。
そんな寒空の下を駆け抜けながら、思う。
話をせねば、と。
脳裏に弟の顔が浮かぶ。彼は笑っていた。
なぁ。
何かの手違いなんだろう?いっときの気の迷い、なんだろう?
話せば、分かってくれるよな?
俺が、絶対にお前のこと、守ってやるから。
だから。
戻ってきてくれよ。俺の………元に。
なぁ………
「………ウクライナ」
肺が潰れそうになるくらい激しい呼吸をしている中、掠れた声で弟の名を呼んだ。それに答えるものは誰も、いない。一陣の風が吹き抜けていくのみだった。
「………前線入りしたそうです」
暗い室内に静かな声が響いた。事実のみを伝えようとする、淡々とした、事務的で機械的な声。それが続く。
「……確かな情報として確立されたのがさっきです。だから、おそらく一日二日は経っているものと。その数日間の間に何があったかはまだ分かりません。大きな動きをすればこちら側にも噂の一つくらい入ってくるものですが、それらはまだ何も、無い。だから前線入りしたってだけで、……、………聞いてます?」
「…………」
問いに対して、誰も何も答えない。声の主はだんだんと苛立ってきたようだ。
「ねぇ、聞いてます?情報を持ってこいって言ったのはあなたでしょう。ねぇ聞いて………聞いてるかって聞いてんだけど??」
「………聞いてるよ」
ついに敬語さえ使わなくなった相手に対し、静かな声が答えた。
「前線入りしたのは……」
「他でもない。ロシアに決まってるでしょ?」
「………」
深いため息を吐いた声の主は、机上の地図やら名簿やら、何かの数字がびっちりと書かれた数多の書類から目を上げ、相手の顔を見た。
「前線入りしたってのは、確かな情報なんだね?」
声をかけられた方は、やっと自分を見てくれた、とでも言わんばかりにすごく満足そうな顔になった。
「そうだよ。ねね、どうする?次は誰を前線に出す?海軍も、こないだ任務が終わったっていう空軍もいるよ?」
対して、席についたままの彼は首を振って静かに答えた。
「いや───モレも、ネボも使わない。今回は………」
「………?」
「ゼム。今回は、陸軍である君に頼みたい」
ゼムと呼ばれた彼は、一瞬目を見開いた後、まるで欲しいものが手に入った子どものように、本当に嬉しそうに笑った。
「………‼︎ 喜んで。祖国様の頼みとあれば」
「だから……!祖国様って呼ぶのはやめろって、あれほど───!敬語だって使ってほしく無い、の、に………」
ゼムは最後まで言わせなかった。ヴィノクのリボンを掻き上げられた、と思った刹那、瞬く間に接吻され、口を塞がれていた。一瞬であったが、激昂しかけた彼の気勢を削ぐには十分すぎる一撃だった。
「ん、ぐぅっ……!っは、お前っ!突然、何すッ………」
怒鳴りかけた彼に被せるようにして、ゼムのおちゃらけたような声が響く。
「うーるーさーい!もう!黙って!僕がいるお陰で成り立ってることもあるんだから!それを忘れないでよ!」
「……っ、……」
キッと睨みつけてやったが、ゼムは怯むどころか嬉しそうに目元をさらに緩ませた。
「じゃ!僕は準備してくるから!ついでにモレとネボも呼んでくるね。すぐ帰ってくるから!」
「ん………分かった」
「あっ……と、その前に」
ゼムがツカツカとこちらに寄ってくる。そのまま隣まで来ると、息が掛かるほどの距離までぐっと顔を近づけ……座ったままの彼の耳元で、それまでと打って変わって、低い声で囁いた。
「……出てくるんじゃねぇぞお前………。出てきたら、俺らでテメェのことぶっ殺してやるからな……ロマン」
覚えとけよ、という声を最後にゼムは身を引いた。元の声に戻って、彼は言った。
「んじゃそういうことで!気をつけてね、もし何かあったら遠慮なく僕らを呼ぶんだよ?」
「……う、ん」
「素直でよろし!」
部屋を出て行きざま、ゼムは振り返って手を振った。
「じゃーね、祖国様!あ、いや……」
「……」
「……じゃあね、ウクライナ」
含みのある目元で微笑んだ彼は、そのまま部屋を出ていった。後には、ウクライナだけが部屋の中に取り残された。
コメント
4件
ちょっとちょっとソ連ちゃんの絶望感っていうかなんと言いますかもう性癖ぶっ刺さりで……(尊死)おにての優しく背中さすってるとことか想像できすぎて物凄く好きです‼️最期のほうの少し不穏なとこも好みすぎて……🥹ナレーションも神です😇✨💕
このクオリティで一時間…?? 3つの視点が使い分けられてて好きです。しかも読みやすい。 ゼㇺが思ったより可愛い性格してて救いです。ありがとうございます