続きです!
⚠️モブ出てきます。内容が胸糞です。🔞の内容が含まれます。流血シーンあります。
マジで一部胸糞なので、気分が悪くなったらすぐスマホを閉じてください。
「…………なぁ、おい、アレ……」
木々の間に、三人の兵士が潜んでいた。交代で寝ずの番をしていたのだろう、一人は完全に臍を天に向けて寝こけていたが、起きていた一人がもうひとり起きていた男をつついた。突かれた方が顔を上げる。
「んだよ?」
「いや、アレ見てみろよ」
「はぁ?」
そう言って男が前方を指さした。目を凝らした彼は、「何も見えねーじゃ……」と言いかけて、慌てて持っていたライフルを構えると、スコープを覗いた。すぐに、困惑したような声が彼の口から漏れた。
「は?……え?」
ガチャガチャとライフルのサイトを合わせながらスコープを覗き続ける彼に、最初に声をかけた方の男が声をかける。
「見えた?」
「み、見え………た……。あれ、もしかして」
スコープから目を離した彼が、泡を喰ったように叫んだ。
「アレ……ロシア側の祖国様じゃねーかっ⁉︎ 」
「バカお前!声デケェよ!」
バシンと漫才の如くヘルメット越しに頭を叩かれ、「いだッ⁉︎ 」と泣き声を上げた彼だが、一瞬ののちには、殺気立った顔で再びスコープを覗き込んでいた。
「……うん、動きが……止まった。……何してんだ……休んでるのか?」
「アイツ走るのやめたのか?」
「うん………詳細な動きはわからんが、その場所から、移動してはいない……」
微かに頷いた彼は、一瞬だけ天を仰ぐと、ため息をつき、脱力した。射撃をする上での基本的な動作だったが……そもそもこれは射撃なんて可愛いものじゃない、狙撃だ。彼は、再び意を決したようにスコープに目を戻した。
「………弾くれ」
「……は⁉︎ 」
「今なら奴も動きを止めてる。奴を狙撃するなら今しか無い。だったら、今、この場で───殺す」
「いやちょっと待っ……」
「待てねぇ……!」
スコープから目を離さず、その兵士はギリギリと歯を食いしばり、苦渋に満ちた声を漏らした。
「お前も知ってるだろ⁉︎ 俺のお袋は、親父は、ジュリは‼︎ この戦争が起こったから死んだんだぜ⁉︎ 」
「……っ」
どんどん憎悪が膨らんでゆく。一旦吐き出してしまった言葉は、もう彼には止められないようだった。
「あの日!俺らはただ逃げてただけなのに!抵抗しないとも伝えたのに‼︎ それなのにアイツら───クソブタ共は!俺らが背を向けた途端、背後から撃ってきやがったんだ!俺の身体にも、まだ弾がいくつか残ってる……もう取り出せねぇくらい深い所に………っ‼︎ 」
「おい、イリヤッ……」
「黙れ‼︎‼︎ 」
イリヤと呼ばれた兵士は、隣の兵士の手から弾を奪い取るなり装填ラッチを上げ、銃の機構を解放した。
「イリヤ!一旦落ち着け、マジでやるのか⁉︎ 」
「やるに決まってるだろ⁉︎ 邪魔するなドミトリ!俺の家族の仇を取らせてくれよ!」
ギッとイリヤがドミトリを睨んだ。思わず全身に鳥肌が立つような、憎悪のこもった瞳だった。
そのイリヤが、声を怒りに震わせながら言う。
「……お前は知らないだろう……お袋は、背中を穴だらけにされて死んだんだぜ……。最後は赤いコートを着てるのかってくらい、服が真っ赤に染まってた。それだけじゃ無い……アイツらは、死んで動かなくなったお袋を、そのまま───犯したんだ」
「は⁉︎ 」
「お前なら分かるだろ。お袋は死んでなお、……あのクソブタどもの、クソみてぇな性欲を発散するための道具として使われたのさ」
「…………っ⁉︎ 」
言葉を失ったドミトリに構うことなく、イリヤは再びスコープを覗いた。
「……ちょうど良い。今ここで、ロシアの祖国様を、いや、ロシアのクソ野郎を殺せるんなら願ったり叶ったりだ。俺らの祖国様に……、ウクライナ様に貢献できる。これでやっと、俺も家族の仇を取れる。このまま死んだって本望だ」
「イリヤッ……!」
名を叫びかけたドミトリは、そこでふとあることに気づいた。目を凝らす。スコープ無しだったが、辛うじて、立ち止まっているロシアの後ろ姿を視認できた。
(なんで……ロシアは、あの場所から動かねぇんだ……?)
イリヤとの小競り合いを始めてから、すでに数分が経っていた。
「イリヤ。おいイリヤ!」
「んだよ邪魔すんな!」
「違う!なんでロシアは動かねぇんだ⁉︎ それともまさかっ……」
「いや?此方は気づかれてはいないはず。……いやもうなんでも良い。敵に情けをかけるほどバカなこたないぜ。そうしてる間にこっちがやられる。だから俺らは背後から撃たれた。なら今度は此方からやり返すまでだ……それとも」
ジロ、とイリヤはドミトリを睨みつけた。ただただ憎き敵を葬り去りたいという欲望に支配された、完全に常軌を逸したその目が、ドミトリを射抜く。彼は蛇に睨まれた蛙の如く動けなかった。
「それともお前……まさかアイツに、ロシアに肩入れするってのか……?」
「そんなわけねぇだろ⁉︎ 」
「……じゃあなんだ。なんで俺の邪魔ばかりする⁉︎ 」
今にも発砲しそうなイリヤに向かってドミトリが怒鳴った。
「違ぇよ!賢いお前なら分かるだろ⁉︎ ここからだと弾は絶対に届かねぇんだよ!撃っても無駄だ、しかも音で俺らの居場所をバラしちまう危険だって大いにある!だから撃つのをやめるんだ、今すぐ!」
対して、イリヤは鼻で笑っただけだった。
「届かねぇのは理論上の話だろ?………俺のことナメてんのか、ドミトリ。俺なら、弾をとどかせられる。今すぐあのクソ豚野郎の脳みそを撃ち抜いてぶっ殺してやる。だから……黙って見てろ」
「イリヤ、おい待てイリヤッ‼︎ 」
イリヤは聞かなかった。静止の声に耳を一ミリたりとも貸すことなく、なおも数百メートル先で動かないロシアに狙いを定める。小さくため息をつくと、引き金に指をかけた。
「…………死ね、クソ野郎……‼︎ 」
「イリヤァッ‼︎‼︎ 」
ドミトリの声が虚しく響く。
刹那、イリヤのライフルが火を吹いた。
古い塹壕に沿って行けば、交戦中の自軍の兵士に会えるという情報を耳にしたのは、つい数日前だった。そこから確かな確認をとり、ここまで走ってきて今に至る。数日前の情報だから、そこからあまり移動していないだろうと予想をつけたのだが、少しばかり詰めが甘かったのか、未だに合流できていなかった。
まぁ、交戦地点まで行って合流できなかったら、塹壕に沿ってまた一旦引き返せば良い。
これが、この時のロシアの考えだった。伏兵がいるとの情報も無かったから、ロシアはそのまま進み続けた。
それが良くなかったのだろうか……人間万事、塞翁が馬とはよく言ったものだ。いつでも、予想外の出来事とは起こるものである。
「…………おかしい、な……」
塹壕の中をひたすら前進していたロシアは、立ち止まってひとりごちた。周りを押し固められた土の壁に覆われ、背の高いロシアと言えども、薄青い空しか見えなかった。その空を見上げ、だいぶ日が傾いてきたことを悟る。日が完全に暮れる前には自軍に合流するか後方の基地に戻るかしなければならない。北方の夜の寒さを決してなめてはいけないことは、身に染みてわかっていた。加えて、いつ何時、腹を空かせたクマが死体の匂いに釣られてここまでやってくるかもわからないのだ。
「……ここからだと、地上の様子もよく分からねぇ……」
しばし立ち止まり、じっと何か考え込んでいたロシアだったが、一人で小さく頷くと銃を抱え直した。そのまま背を伸ばして塹壕の淵に手をかけると、軽々しく土壁を蹴って登り、あんなに深く掘られていた塹壕の上にあっという間に出てしまった。
「…………」
弱い太陽光をもろに浴び、視界がパッと明るくなる。目を細め、服についていた土を払い落とすと、ロシアは歩き出した。幸い、自分の近くで戦闘は一つも起こっていないようだった。
(…………この後どうすっかな……)
本音としては、可能ならば今すぐにでも自軍に合流したい気分だった。戦場で一人で歩いていることほど心細いことはない。もし仮に、今ここでウクライナ側の兵士に取り囲まれ、一斉攻撃を受けたとしても、多少の怪我さえ容認すれば難なく生き延びられる自信はあるが、それでも心細いことに変わりはなかった。
しかし転機とは急に訪れるものである。
様子見のために塹壕から出て歩きだして数分。塹壕から少し離れた前方に、自分と同じような軍服を着た者が一人、蹲っているのが目についたのはその時だった。
「⁉︎ 」
怪我人だろうか?周りには彼と連れ立っていそうな者は一人もいなかった。
「おいお前!大丈夫か⁉︎ 」
ロシアが立っているところも彼が蹲っているところも、ロシアの軍のテリトリーだった。だからロシアは、考える間もなく、彼が“こちら側”の兵士だろうと判断して声をかけ、あろうことか駆け寄ったのだ。後から考えれば、それがどれだけ危険な行為か、どれだけ浅はかな行動だったかを痛感することとなった。
「………‼︎ 」
はっきりと彼の姿が視認できるところまで来て、ロシアは息を呑んだ。蹲っていた彼は、ロシアが思っている以上に小さく、まだ少年と言っても通じるような体格だったからである。見れば、蹲った彼の下、わずかな血溜まりができていた。ロシアは躊躇うことなく彼の肩に手をかけ、身体ごとこちら側に向かせた。
「しっかりしろ!救護道具なら少しだけ持ってる!だから今すぐ怪我の治療、を……⁉︎ 」
言いかけた刹那、ロシアは声にならない声を上げ、彼の肩から手を離した。ドサッという音と共に地面に再び伏した彼は、苦痛の声を上げて左の太もものあたりを押さえ、丸くなった。しかしロシアは、彼の血で真っ赤に染まった大腿部などには目もくれず、彼の左腕、二の腕あたりに巻かれた腕章に釘付けになっていた。
青色、だった。
晴天をそのまま染み込ませたようなその色が目を射抜く。これが指し示すことはただ一つ。彼が、ウクライナ側の兵だということだ。
「なっ………!」
ロシアは思わず背負ったライフルに手をかけた───が、何を思ったのかライフルから手を離し、ゆっくりと彼の顔を覗き込んだ。数秒の後、ロシアはため息をつくと、負傷した彼を抱き起こそうとした。
しかし、その瞬間だった。パチ、と腕の中の彼が目を開けたのだ。
「………っ⁉︎ 」
「……あ?」
ロシアがそれに気づいて腕の中に目をやると、何が起こっているのか分からない、というような表情をしたその兵士と目が合った。一瞬の後、自分がロシアの兵、それもロシアという祖国自身に抱き抱えられていることに気づいたのか、彼は悲鳴のような声を上げて思い切りロシアを突き飛ばした。突然のことにロシアも対応できず、そのままもんどり打って後ろにひっくり返った。
「いっ………………た……………、あ」
頭を摩りつつ顔を上げる。と、ロシアはギョッとしたように後ずさりかけた。無理もない、鈍く輝く銃口が、すぐ目の前にあったのだから。その兵士はすでに、左太ももを庇いつつ両足で立ち上がり、ライフルをロシアに向かって突きつけていた。
「あー…………」
ため息をついたロシアだったが、肝心のその兵士は、ガクガクと震える手で銃をロシアに向けたまま動かない。彼は、手よりも震えている声で叫んだ。
「おっ………お前っ!お前ロシアの祖国様だな⁉︎ 俺にっ……!俺に、さ、触るなこのクソ野郎!こ、ここでっ!しっ……死んじまえ‼︎ 」
「……」
トリガーにかかった指は、震えてその位置で保てないようだった。指をかけては滑り、かけては滑りを繰り返している。しかしいつ銃が暴発するとも限らない。ロシアは呆れたような目を彼に向けた。
「……危害を加えるつもりはない。殺すつもりももちろん、ない。だから銃口を下げてくれないか?」
「ひっ………‼︎ 」
あちらはロシアがコミュニケーションを図ってくるなど夢にも思わなかったのだろう、ややもすれば過呼吸にさえなりそうな激しい呼吸をしながら、ロシアに照準を合わせようと躍起になっている。このままでは埒が開かない。
ロシアは、無言で素早く立ち上がるなり、彼との間を一瞬で詰めた。銃口を向け直す間も与えなかった。裏拳で彼のライフルを弾き上げる。その勢いのまま無駄のない動きで懐に潜り込むと、手刀で一発、側頭部を一打した。
「ぁ……」
微かにそう呻いたその兵士は、呆気なく気を失い、力無くロシアの腕の中に倒れ込んだ。
「………………ハァ、」
ロシアは何度目かのため息をつき、その兵士の顔を眺めた。固く閉じられた両眼、そのまつ毛の長いこと。血の気の引いた顔はすべらかで白く、美しい顔立ちの人形を抱かされているような心地になってくる。その顔にどこかウクライナを重ねてしまい、ロシアは苦しげに顔を歪めた。
「……ごめんな。絶対、痛くはしないから……」
思いもよらずにまるで、本当にウクライナに話しかけるような口調で言葉を紡いだ自分に心の内で苦笑しながら、ロシアは彼の軽すぎる肢体を抱き上げ、塹壕の中に一旦引き返そうとした。負傷していた彼の太ももを手当てしてやるつもりだった。
しかし、次の瞬間だった。
今まで背を向けていた後方。全く注意を払っていなかった後方。まさかと思った。
伏兵が潜んでいたなんて、そしてまさかその伏兵が、自分の命を狙ってライフルを構えていたなんて、誰が予想できようか。そもそも、味方からの情報からも漏れていたのだ。
塹壕に向かって一歩を踏み出しかけた時、ロシアはたまたま地面の窪みに足を取られて体勢を崩した。……これを神の采配と言わずしてなんと言おうか。
ぐらっとロシアの身体が傾いだ瞬間、今までロシアの頭があった虚空を亜音速の弾丸が突き抜けていった。しかし彼も、完全に避けきれていたわけではない。
ぢゅん、という肉の灼き切れる厭な音と共に、左頬の肉が抉れていった。
「……⁉︎ 」
まるでスローモーションを見ているかのようだった。ロシアは、自分の血にまみれた小さな肉の塊が、吹き飛ばされて宙を舞うのを確かに見た。
コメント
2件
ほんとになんて言えばいいか分からないくらいめっちゃ良かったです!凄かったです!(語彙力)続き楽しみにしてます!!!