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⚠️夢小説、実在する文豪、捏造⚠️
壁一面の硝子から光が部屋の中に差し込む。部屋の中に居る3人の影が床に落ちている。
1人は机に座り扉の方を見ている男、その隣には座り込んだ金髪の少女が床でクレヨンを使って絵を描いている。
扉の前には金髪の少女よりも少し大きな少女が男の方を見ながら何かを話している。
「以上が今回の事件の真相でした。報告は以上です。」
扉の前に立った少女が軽く会釈をして部屋から去ろうとした時座っていた男が少女を呼び止めた。
「待ちたまえ高見君、まず今回の任務ご苦労さま。今回の事件は重要な取引先との今後にとても関わっていた事件でね、たまには労いのために贈呈品でもしようと思ったんだが、何か欲しいものはあるかね?」
男は微笑みながら少女に問いかけた。
少女は振り返り男の方を見た後右斜め下に視線を向けたまま無言で佇んでいた。
「なんでも良いんだよ、もちろん無理なものもあるけどね」
少女が悩んでいると男は笑顔のままそう声をかけた。
少女は少しの間無言のまま俯いていたが、やがて男の方を向き笑顔でこう云った。
「高価なものは要りません。ただ…手紙と”アレ”をください。貴方なら簡単でしょう?」
少女は楽しそうに、だが男を嘲笑うかのように無邪気に笑いながら云った。
「…………覚えていたのか」
男は少し困ったように微笑んだ。
「分かったよ。ただ考えておくだけだ。絶対では無いからそこだけは把握しておいてくれ。」
少女は笑顔のままもう一度軽く会釈をし、部屋を出ていった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
少女は廊下をイラついたようにずんずんと歩いている。
「渡すつもりなんかないくせに」
Code:1 唯の青年と少女
灯りのない廊下である男の足音だけが響く。
黒く細長いかばんを肩に掛け口と耳にピアスをつけて右側の前髪だけ三つ編みをしているその男は白い箱を持ち、長く暗い廊下を歩いていた。
男は廊下の突き当たりにある扉の前で立ち止まった。
扉の両脇には2人のポートマフィアの構成員が立っている。一応護衛だ。この構成員は2人とも耳が聞こえない。この扉の奥に隠されている重要機密について知ることが無いようどんな話だろうと聞くことがないように彼らが選ばれたのだ。
2人の構成員に軽く会釈をしてから扉を叩いた。
「どうぞ」
扉を叩いて5秒もしないうちに中から返事が聞こえる。
男は勢いよく扉を開けた。
「やっほ〜糞餓鬼〜今日も元気に糞餓鬼やってるか〜?」
「煩い」
その部屋は子供部屋だった。
部屋の中には床に座って使う机、子供1人が寝るには十分すぎるベット、本が斑に置いてある大きめな本棚だけが置かれ、真ん中の机で一人の少女が座っていた。
少女は入ってきた男に見向きもせず返事だけ返して手に持っている人形眺めている。
「その人形って森医師に貰った物だろ?眺めてるだけで楽しいのか?」
「楽しくないけど遊び方が分からないの」
少女は変わらず人形を眺めながら無愛想に返事をし、そのまま人形を自分の傍らに投げ捨てた。
「ふ~んまぁいいけどさ」
「今日は何しに来たの?」
少女は男の顔を一瞬だけ見てまたすぐ顔を逸らした。
「世話係が様子を見に来るのに理由がいるのか?」
「いる」
「いらないだろ」
中野重治、25歳、ポートマフィアの構成員で少女のお世話係を押し付けられた男。中野自体は子供好きであり、特にめんどくさがることもなく少女のお世話をしている。
高見順、7歳、母親に捨てられポートマフィアに預けられた少女で、強力な異能力者な為世話係兼監視役として中野重治が選ばれ、毎日順の部屋に様子を見に来ている。
「まぁ用がないってのは嘘で、ケーキといつもの薬持ってきた。薬はケーキ食べた後に飲め」
そう言いながら肩に掛けたかばんを床に置いて順の向かいに座り、手に持っていた白い箱の中からプラスチックのフォークとチョコケーキを2つ、そして青いカプセル型の薬を一つ取り出した。
順は少しだけ目を輝かせ何も言わずにケーキ食べ始めた。
重治は自分の分のケーキをつまみながら少し眉を顰めて言った。
「薬。飲みたくなかったら言えよ、無理して飲む必要は無いからな」
少し虚しそうに自分を見つめる重治をよそに順ははっきりと言った。
「大丈夫。飲まなきゃいけないものだし、怖くもない」
そう言ってまた黙々とケーキを食べ始めた順を見てまた重治は虚しそうな顔をした後すぐにいつもの調子に戻った。
「お前ほんとに7歳か?肝据わり過ぎだっての!」
そう言ってものすごい勢いでケーキを食べだした重治をみた順は一瞬不機嫌そうに何か言いたげな顔をしたがすぐに真顔に戻りケーキを平らげ、薬を飲んだ。
ケーキを食べ終えた2人が他愛もない話をしていると子供部屋の扉が叩かれた。
「お、もう森医師が来る時間だ。今開けまーす!」
そう言って重治が元気よく扉を開けると、外には優しそうな笑みを浮かべた白衣の男が立っていた。
「こんにちは。重治くん高見くん御機嫌いかがかね?」
森医師と呼ばれているその白衣の男が部屋に入ったのを確認すると重治は外に出ながら白衣の男に笑顔を向けた。
「じゃあ後はお願いします!俺は廊下で煙草吸っているので何かあったら呼んでください」
そう言って順にちゃんと言うこと聞けよとでも言いたげな顔で指を差した後廊下に出て扉を閉めた。
重治は廊下に出た後煙草を吸いながらずっと独り言を呟いていた。
「首領への報告どうしよっかな〜」
重治は順の世話係兼監視役という立場な為、順が日々何をして過ごしているのか報告する義務があるのだ。
だが重治が世話係に選ばれた理由は単に重治が子供好きだからという理由ではない。
重治は首領に嫌われているのだ。だからいつ死ぬか分からない監視役に選ばれた。
しかし重治も首領が嫌いなため重治は喜んで監視役を請け負ったが毎日の報告だけが憂鬱だったのだ。
普段は忙しいふりをして森医師や他の構成員に代わりに報告をしてもらっているがいつまでも報告に行かないと呼び出されてしまう可能性もある。
中野が廊下で悩んでいると順の部屋の扉が開き、森医師が出てきた。
「大分悩んでいるようだね重治くん。高見くんの健康診断は終わったよ、今回も特に異常は無いよ。あと…」
その後少し間を開けて森医師が笑顔のまま言った。
「実験の方も順調だよ、むしろ順調すぎるくらいさ」
重治はその言葉を聞き心底安心した顔をした。
実験とはあのカプセル型の薬のことである。あの薬は化学者が作った異能力者専用の薬であり、飲んだものは異能力と身体能力が強くなるという薬である。その効果は持続的な物だが幾つも飲んでいると異能力が暴走する危険があるためあまり多用してはいけないのだ。その薬の効果を少し薄めた物を毎食後飲み、異能力が暴走せずに強くなれるかどうかの実験を順で行っているのである。この実験は失敗すれば順の異能力が暴走し、大量の人が死ぬだけでなく下手すれば順自身も命を落とす可能性がある危険なものなのだ。
「異能力が暴走しそうな感じもしないので大丈夫だと思いますよ。では」
そう言いながら笑顔で廊下を歩いていく森医師に重治は少し会釈をし部屋に戻った。
「おうおう健康優良児ちゃんよ〜元気そうしゃねぇかぁ〜」
勢いをつけて自分に肩を組んできた重治に順は心底嫌そうな顔をした。
「ねぇ邪魔!ってか臭い!いつまでここに居んの?暇なの!?」
一瞬で順に剥がされた重治はしょんぼりしながら床に置いてあったかばんを取り扉の前に歩いていった。
「俺はもう帰るけどいいか!?なんかあったら絶対俺に電話!何があっても異能力は使わない!これ絶対だからな!?」
「はいはいそれ毎日言ってるじゃん、わかってるよじゃあね」
重治の方をちらりと見た後ぷいっと反対側を向いて無愛想に言った。
重治は少し寂しそうにしながら順に手を振りながら部屋を後にした。
重治は順の監視役だが普通の仕事もある。そのため順がある程度育った今は定期的に見に行く程度で、残りの時間は仕事に費やしている。しかし仕事と言っても中野は下っ端の為、幹部や他の構成員に仕事の知らせに行ったり、資料を運んだりする程度である。
今日の仕事は渡された密輸業者についての資料を資料室にしまいに行けば後は指示を待つだけである。
重治は資料室までの道のりをなにも考えずにただ歩いていた。その時、反対側から歩いてきた男に肩がぶつかり資料を落としてしまった。
「あ!すみません!」
「いえ、こちらこそ」
重治が深く頭を下げるとやけに厚着をしている男は軽く会釈を返し、落とした資料を拾い始めた。
慌てて重治も資料を拾い始めたが一つ気になるファイルを発見した。
「これ………」
重治がその資料を手に持ったまま暫く固まっていると、資料を拾い終えた厚着の男が心配そうに重治を見ていた。
「君…大丈夫か、怪我とかはないかね…」
「……あ!いえいえお気になさらず!こちらこそ資料を拾って頂いてありがとうございます!それでは!」
厚着の男に声をかけられ我に還った重治は慌ててお礼を言いながら資料室まで走っていった。
大きな音を立てて資料室に駆け込んだ重治は室内に誰もいないことを確認すると扉の目の前で座り込んだ。
重治は震える手で資料の山の中から一つのファイルを取り出した。
そのファイルに書かれているのは順の実験と重治の異能力についてだった。
順はなぜかポートマフィアに保護されているのを悟られないよう隔離されて生活しているため、実験どころか順について知っているのは世話係の自分と首領と健康診断に来る森医師と数名の幹部のみだった。そんな組織の重要機密をまとめてあるファイルがこんな下っ端も入るような資料室に置かれるのはおかしいのだ。
そして問題はもう一つあった。
“重治は異能力者では無いのだ”
自覚が無いだけの可能性はあるが、自覚が無いということは異能力が発動したことが無いということだ。
それなのに何故重治の異能力についての資料があるのか。
重治は好奇心を抑えられなかった。
恐る恐るファイルを開き、資料を読み始めた。
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高見順の実験について
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高見順
7歳 1月30日生まれ
身長122.7cm 体重22.1kg
異能力 「故旧忘れ得べき」
髪を自由に伸ばし操る。伸ばせる限界は10km。
髪を硬くすることが可能で最大でコンクート並
実験内容
・試験薬を毎食後飲み異能力に変化が起こるか
観察
・身体的変化が起こるか観察
・万が一暴走した場合直ちに処分する
経過
破壊力増加
素早さ増加
限界値上昇
身体的変化
多少の筋力増加
時々吐き気を催す→成長するに連れ減ると思わ
れる
身体の成長が促されている可能性あり
────────────────────
中野重治の異能力について
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中野重治
25歳 1月25日生まれ
身長155.3cm 体重64.7kg
異能力「梨の花」
中野重治の血を摂取すると異能力の性能が上昇。あまりにも摂取する量が多い場合拒絶反応を起こし異能力が暴走する可能性がある。
摂取した中野重治の血液を使用し薬を開発。しかし本来の異能力と同じデメリットが確認された為改良した試験薬を新たに開発。高見順を使用し実験を行い安全性が確認された場合販売を開始。
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ファイルにある程度目を通した重治はファイルをそっと閉じ、絶句した。
自分の異能力など知らない。しかもこんなにも危険な。
そのうえ順を危険に晒している原因が自分だったのだ。
自分の妹のように可愛がっている子が自分のせいで危険な目に遭っている原因が自分だと知った時冷静でいられる人などいるのだろうか。
重治は口に手を当てたまま座り込んでいた。
• ───── ♦︎ ───── •
男の名前は森鴎外。どんな患者も治療すると噂の闇医者でポートマフィアの首領の依頼で首領の病気を診るのと、組織の重要機密である高見順の健康診断等の仕事を任されている。
中野重治や高見順からは森医師とよばれ親しまれている。
森が扉を叩いた。
部屋から返事が聞こえたため失礼します、と一声かけてから部屋に入った。
「高見順と中野重治について報告に参りました。」
森は手に持った手記を見たまま話し始めた。
部屋には灯りがほとんど無く、大きなベットには老人が横たわっていた。
「森医師か、経過は順調か」
「はい、むしろ順調過ぎるほどです」
「そうか」
老人は森の姿を見たまま不穏な笑みをこぼした。
「異能力の方は順調です。しかしながら彼女では”生物兵器”までは至らないかと。」
その言葉を聞いた瞬間老人は少し起き上がろうとしたものの、耐えきれずまたベットに横たわった。
「なぜじゃ、なぜ…」
老人は怒りを露わにして少し怒鳴るように云った。森は顔色一つ変えずに答えた
「彼女と今まで話した内容から考えると、闘いを望んでいる訳ではなさそうです。もちろんポートマフィアで暮らしているので人が死ぬことや死自体にそこまで嫌悪感は無いようですが、如何せんあの性格では成長しても言うことを聞かない可能性の方が高いです。」
老人は勢いよく立ち上がろうとしたがすぐ力が抜け床に倒れ、勢いよく咳き込んだ。
病気でもう殆ど力も入らない癖に部屋の外にすら護衛を置かない傲慢な人間、ただ破壊の限りを尽くしていたかつての姿はもう見る影もない。横浜の裏社会を牛耳るポートマフィアの首領とは思えぬその情けない姿を森はただ見ていた。
少しして首領の咳が落ち着いてから森は何事も無かったかのように先程の話の続きを話し始めた。
「あの部屋に居るのは生物兵器ではなく唯の青年と少女です」
話を終えた森は一礼してから部屋を出た。
不敵な笑みを浮かべたまま。