⚠︎喫煙描写、恋人同士、同棲している設定、シガーキス等を含みます。地雷が含まれる方は回れ右を推奨いたします。
・勿論のこと、ご本人様と一切の関係はございません。あくまで二次創作です。
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寂然に包まれた夜のベランダに、人影ふたつ。シュッと擦過音が鳴れば、ゆっくりと視界が白く包まれていく。いつも後ろから見ている姿のように、夜風にゆらゆら揺れる紫煙に覆われて。ちらりとその発生源を見れば、大好きな横顔がある。物憂げな整った横顔に燻らせる煙草は、あまりにも似合っていて思わず憎まれ口を叩いていた。
「あーあ、私さっきお風呂入ったばっかりなのに。匂いついちゃうじゃないですか」
「…じゃあなんで着いてきたんですか」
「iemonさんが寂しいかなって」
「たった10分くらいなのに、寂しくて死ぬと思われてるんですか?」
心外だ、と呟きながらため息のような白煙を吐き出した。こうして彼が私の前で煙草を隠さず吸うようになったのは、信頼の表れだと捉えても良いのだろうか?私は喫煙者じゃないし、なんなら煙草が苦手だから、吸う人の気持ちはわからない。
めめ村が結成されてから、ずっと一緒に居て。そのうち、いつの間にかお互い別々に離れるなんてことが考えられないようになってて、じゃあもう一緒に住もうよってなって。付き合ってるし、恋人のはずなのに、まるで友達みたいな距離感で、付き合っても恋人らしいことはしていない。友達と恋人の狭間で宙ぶらりんな私達。煙草の煙みたいにゆらゆら揺れて、気づいたらあって、気づいたら無くなってて。そんなあやふやな存在。でも一つだけ、自分の中に確かなことがある。大っ嫌いな煙草の煙に、一緒に包まれてもいいと思うくらいには、iemonさんのことが好きってことだ。
白靄が夜に溶けるのを見送って。iemonさんはずっと、煙草を吸うことを隠してきたんだよな、と振り返る。喫煙者だと初めて知った時は、それはそれはショックを受けたものだ。iemonさんのことは結構なんでも知ってる気になってたから、こんな日常的にやってることすらも知らないんだって愕然とした。
iemonさんは私に喫煙者だとバレないように、本当に色々とやってたらしい。泊まりにくるような時はしばらく間隔をあけたり、薄く香水を振り撒いてたり、カバンの中には消臭効果の高い歯磨きとかが入ってたり。そこまで頑張れるならいっそやめちゃいなよ、とも思うのだが、やめるという発想はないらしい。
「iemonさん、一本貰ってもいいですか?」
「…ダメです」
「え!?なんで!?」
「身体に悪いですよ」
それ、吸ってるiemonさんが言うこと?じゃあやめなよって言うしかないじゃん。やめないのも知ってるけど。
「煙草を人に勧める喫煙者は、喫煙者の風上にも置けないカスですよ」
なんて、ターボ式のライターみたいな火力の高いこと言ってる。ちょっとその理屈は、私にはよくわからない。私が持ってるのは、好きな人のことはなんでも、ほんの少しでもいいから、知りたいなっていうごく普通の可愛い欲望くらいのものだ。
「…あれ、健康のことを言えば副流煙の方が健康に悪いんじゃないでしたっけ?」
「…………バレたか」
「もしかしてちょっと馬鹿にしてます?」
誤魔化すようにふっと煙を吐いた彼がこちらに顔を向ける。目が合う。くすんだ緑色が瞳に浮かんでいる。何を考えているのかわからない眼差し。頭の中を見透かされているような気分になる。
「なんでそんなに吸いたいんですか」
「え?だってiemonさんが吸ってるので」
「それだけ?」
「そうですけど!」
好きな人がやってることを、私もやってみたい。これって、別に変なことじゃないよね?
「はー…わかりましたよ、じゃあ、一本だけ」
「やった!」
渋々といった感じで、ポケットから取り出した白い箱から、一本取り出してくれる。もう見慣れた、金色が入ったちょっと綺麗な箱。銘柄なんだったっけ?と聞けば、ウィンストンホワイトキャスターって言ってた。なんか呪文みたい。
「はい」
「わーい!」
見よう見まねで人差し指と中指で挟んでそれらしく持ってみる。意外なことに、その小さな棒から漂ってくるそれは、煙草というには相応しくない甘ったるいバニラのような匂いを発していた。iemonさんから時折してた甘い匂いって、この煙草だったんだ….。個人的に衝撃の事実の発覚。
「あ、あれやってくださいよ。『お嬢さん、火をどうぞ』みたいなやつ!」
「また唐突な…いいですけど」
ライターを着けたり、消したり。気乗りのしなさそうな表情を浮かべているけど、相変わらずiemonさんの感性はたまにわからない。iemonさんは吸っていた短くなった煙草をベランダに置いてる灰皿に押し付けて、新しいのを一本取り出した。
「どうせならもっと恋人らしいことしません?」
「え…?こ、こい…っ!?」
iemonさんから恋人らしいとか言う単語が聞こえて脳がフリーズした。煙草で恋人らしいことって何…?!
「シガーキスとか言われたりするんですけど…」
「え、えっと」
「とりあえず咥えてください」
とりあえず言われた通り、唇に煙草の咥え口を挟む。なんだろう、シガーキスって。シュッという小気味いい音とともに、ライターから青い炎が飛び出した。それがiemonさんの咥えた煙草の先端に当たると、赤い炎に変わる。その炎は、いつも見てたはずなのに、どこか幻想的で、蠱惑的で、魅力的で。この青と赤の混じった炎に、私自身何を感じてるのかさっぱりわからないけれど、それでもなぜか目が離せなかった。
「煙草の火で煙草に火を点けるんです。ほら、先端を合わせてみてください」
言われたように咥えた煙草の先端を、iemonさんの咥えた煙草の先端に近づけていく。思ったよりも顔が近い。ほんとに、キスしてるみたい。近づいてきた煙草の種火の熱に浮かされて、自分の顔が熱くなっていくのがわかる。先端同士を触れあわせて火が移るのを待つ。チリチリとわずかな音を立てて、iemonさんの方の煙草の先端が紅く燃えていく。
私の煙草には、一向に火がつく気配がない。
「あ、忘れてた。煙草は吸わないと火がつかないんでした」
「ちょっと先に言ってくださいよっ、馬鹿みたいに待ちぼうけしちゃったじゃないですか!」
「はは、すいません」
再び先端を合わせて、今度はすぅっと息を吸い込む。ほんの僅かに私の煙草にも紅い火種が移ったのが見えたと同時に、熱く形のないものが口の中を通り抜けてきた。それはすぐさま喉へと入り込み、異物を追い出そうとする機構に従って、咳という形で放出される。
「げほっ、げほっ…」
「はは、やると思いましたよ」
「なにこれっ!最悪なんですけどっ…」
「ほら、吸うものじゃないでしょ?」
ケラケラ笑いながらこちらを見てくるiemonさんに、謎の反骨心が生まれてくる。煙草ぐらい私だって吸えるんだから。さっきみたいに喉に煙が一気に入らないように、ゆっくりゆっくりと息を吸い込む。吸い込んだ煙を、頬袋に貯めるようにして喉に行くのを防ぎ、ふわっと吐き出した。どうだ、完璧でしょう?若干のドヤ顔でiemonさんを見れば、少し目を少し丸くした後またくつくつと笑い始めた。
「ちょっと。何がおかしいんですかー」
「いや、別に」
「ほんとに〜?」
「ほんとほんと」
ふぅーっと煙を吐き出せば、幾分か落ち着いた気持ちになる、気がする。ベランダから見える狭い夜空にはお互いの煙混じりの息遣いと白煙だけが漂っていた。リョウに倣って、私も恐る恐る煙草の火を進めていく。
気になって吸ってみたけど、やっぱり咳き込むし、なんかクラクラするし。好き好んで吸ってる意味なんてのはさっぱりわからなかったけど。でもまあ、恋人発言とかシガーキスとやらでドキドキできたから許そう。
まだ微妙に長さのある煙草を灰皿の上に放り捨てて、iemonさんの胸に飛び込んだ。おっと、と言いながら余裕の表情で受け止めたりするから。首に腕を回してぎゅっと抱きしめてやった。白煙はとっくに溶けきって、澄んだ空気は薄靄に包まれてた愛おしい顔をはっきりと映した。
「私ね、最近一個、夢ができたんですよ」
「…なんですか、急に」
「なんだと思います?」
「…………….俺と幸せに暮らす、とか…」
「当たらずとも、遠からず」
「じゃあ、何ですか」
少しの沈黙。iemonさんの生きてる音が、私の耳に響く。ちょっとだけ速くなったかな?
「…好きな人よりも、早く死ぬこと?」
それは…。どう反応したらいいか、わからない。
でも、ずっとわからなかった何かが、少し腑に落ちた気がした。煙草を吸いたいと言った時の微妙な反応の意味も、ほんの少しだけ納得した。
「大丈夫、私の方がどう考えても長生きしますよ!」
「…めめさんのこととは言ってませんよ」
「その強がりは流石に通用しませーん」
「………..」
「私は重い女ですからね。iemonさんのこと、簡単に手放したりしませんから」
「そんな女に捕まったんですか、俺は」
「光栄でしょう?」
草臥れたような顔をしたiemonさんに、胸が悲鳴を上げる。グッと抱き寄せて、煙草越しじゃない本当のキスを落とす。
初めてのキスは、ちょっと甘くて苦い、煙草の味がした。
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こちらの文は6月頃に書いたものを少し修正したものです。一応見直しはしたのですが、自分が書いた文章を読むのはやっぱり気恥ずかしくてちゃんと見直しはできていませんので誤字脱字などある可能性があります。ごめんなさい。
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コメント
2件
タバコ、、、めちゃめちゃいいやん、、、 大人っぽいけど結局吸えないめめさん可愛いなぁー、笑 この二人熟年夫婦みたいな余裕もありつつ初々しさもあってめっちゃ好き、、!! 神作なのだぁー!!