テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
kzlr
_________________________________________
「… … …煽ったおれも悪いけどさぁ」
「お、目が覚めたか」
意識を飛ばしていたローレンは覚醒すると掠れた声でけほっ、と咳き込んだ。新品のペットボトルを渡すとローレンはその蓋を開けることが出来なかった。相当無理させた自覚はある。
ひょい、とローレンからペットボトルを奪い蓋を開け口に水を含み、それをローレンの唇に重ねて飲ませればローレンは抵抗することなく受け入れる。
こくん、とローレンの喉が鳴り大きな溜息が漏れる。まだ情事の余韻を残すローレンに煽られるものの、これ以上無理をさせれば暫く逃げられかねない。なんとか自分を律してローレンの横に寝転んで頬杖をついた。
「俺の愛をちゃんと感じたか?」
「うーん… …」
とろんとした目はどこかまだ夢見心地だ。
「ちなみに俺、まだイけるけど」
「冗談でしょ!? 感じたって! むりむりむりむり!」
そんな夢見心地気分から一気に目覚めたように声を張るローレンに笑いを漏らせばもうっ、と可愛らしい悪態を吐く。ちなみに。本当にまだイけるのだが見逃してやろう。
ローレンは俺に目を合わせると少しだけ口を尖らせて事に至る前に話していた内容を掘り返す。
「でもさぁ。くっさん結局競り落としてくれなかったし」
「そりゃあ五億も持ってないからな」
「じゃあ、全財産が五億だったら競り落としてくれる?」
至極真面目な顔で発せられた言葉に堪えきれずにふはっ、と吹き出してしまう。
「おまえ可愛いなぁ」
「な、なにいきなり」
どうやらローレンはどうあっても俺に競り落としてほしいようだ。いじらしい一面もあったものだ。また好きなところが一つ増えてしまった。
笑われたことが恥ずかしいのか、可愛いと言われたことを照れているのか。眉を顰めるローレンの頬に手を添えれば存外、悪くなさそうにその手に頬をすり寄せてくる。煽り上手め。
「つーか、全財産が五億でも無一文でも答えは同じなんだよ」
俺の言葉にローレンが不思議そうに首を傾げた。全く。もう少し自覚を持ってほしいものだ。
ローレンは勘違いしている。
何が不安なのかは知らないが、ローレンが思っている以上に俺はローレンに執着しているし誰にもやるつもりはない。
金が手元にあろうとなかろうと、やることは変わらない。
「どんな手使ってでもおまえを手に入れる。そんだけ」
澱みなく言い切ればローレンは目を大きく開いて、少ししてそれを嬉しそうに細める。
「… … …会場の人、みんな殺しちゃうとか?」
「そうだな。俺を大量殺人犯にしたくなかったらオークションにかけられんなよ、五億様?」
物騒な話をしているというのにローレンは満更でもなさそうに小首を傾げた。
「…ま、悪くないかな。確かにくっさんが五億も出せるわけないしね」
「はっ。持ってたら悩まず出してやるよ」
どうやら俺の返答に満足したらしいローレンはもぞもぞと隣で寝転んでいる俺に距離を詰めてくる。ん、と言って腕を差し出せばローレンは迷う事なくその腕に自分の頭を乗せた。
ローレンがここまで素直に甘えてくることは珍しい。恥ずかしがったり、甘え下手なところがあるのは知っている。そんなローレンが時々見せる甘えたに俺は弱い。どこまでも甘やかしたくなってしまう。
このまま眠ってしまってもいいかもしれないと思ったその時。ふと、当然といえば当然の疑問が浮かんだ。
「つーか、おまえはどうなんだ?」
「え?」
「俺が五億でオークションにかけられたら、競り落とすのか?」
俺の答えは一択であったがローレンの答えはどうなのか。出来れば競り落としてほしいと思う。ローレンもこのような気持ちで尋ねていたのかと考えるとムキになっていたのも分からなくはない。
ローレンは綺麗な目を緩めると迷う事なく俺の問いかけに答えた。
「おれも、どんな手を使ってでも手に入れるかな」
自分と同じ答えを導き出したローレンに笑いが漏れる。これは確かに嬉しいものだ。
「だろ?」
「やだなぁ。おれたち大量殺人予備軍ってこと?」
やだ、と言っている割に楽しそうなローレンの額に自分の額をこつりとくっつける。ふふっ、と可愛らしく笑う声が聞こえた。
「おまえのためなら世界でも敵に回してやるよ」
まるで漫画の台詞のような言葉を吐けばローレンは綺麗な目を大きく見開く。その目には今も未来も、多くのものを映すようだが俺には関係ない。ただ、その目が。綺麗な目を宿している主が好きなだけだ。
少しして、ローレンはこれ以上にないくらい破顔して笑い出した。
「ふっはは! 恥ずかしい台詞だなぁ〜!」
「こういうの好きだろ?」
目に涙を浮かべながら笑っていたローレンは、それをふわりと柔らかいものにする。
「はーーっ… …そうだね。じゃ、お互い落札ってことで」
そう言ってローレンは俺にキスをした。まるでお互いを落札した証だと言わんばかりに。
_________________________________________
読んでくださりありがとうございました
お疲れ様でした