短い話置き場

「誕生日の話」

🟦🏺

5億回ネタかぶりしてる予感しかしないんですが書きたかったので…！

お誕生日おめでとうございます🎂

今日は青井の誕生日だった。

例にもれず署員はもちろん、救急隊や白市民、そして犯罪者までもが本署に押しかけてもみくちゃに誕生日を祝いに来た。

感謝と感謝の交換は心が温まるものだ。物質的なプレゼントと同時に受け取ったたくさんの温かい感情は、青井の足を強くしてやまない。

ただその人々の中に、想い人の姿がなかった。

日付が変われば年に一度の特別な日は終わる。朗らかな余韻を胸に残したまま青井は警察署の裏口にポツンとあるGPSのサインへ向かう。

案の定、南国を切り取ったような服の青年が殺風景な道端であーでもないこーでもないと頭を抱えていた。その首を傾げたりなにか言い出そうとして諦めたりしてしている姿をしばらく見ていてもよかったが、声をかけた。

「あ、いたいた〜」

青井の声に気づいたときにはつぼ浦はすでに赤面していた。

「お、おはようございます」

「もう日付変わってるけどね」

「その、誕生日だったじゃないっすか。おめでとうございました」

目は泳いだまま、前に立つ青井に向けて簡素に言った。

何かを隠しているし、何かを迷っているし、舌先から生まれてきているのに言葉が出てこない。実直さが売りの後輩の困惑するさまが面白く、青井は悪戯っぽく笑う。

「見かけなかったけど起きてたんだ」

「ハイ」

「さっきまでみんなからプレゼントもらってたんだよ」

「あ～大人気でしたね」

「ありがたいことにねぇ。つぼ浦はどこにいたの？」

「どこって、いやまあ……」

「つぼ浦くんからはなんかあるの〜？」

ずっと迷っている顔をこれ見よがしに下から覗き込む。つぼ浦は目を閉じて唸ってから覚悟を決めて青井を見た。

「目、閉じててください」

「うん」

「……ホントに閉じてるか？」

鬼面越しに疑われたので面を脱いでこれ見よがしに顔を手で覆う。この照れ屋で可愛い恋人が何を用意したのかドキドキしながら暗闇の時間を待つ。

ゴソゴソ何かを準備している音と、逡巡とも覚悟ともつかないため息。

「いいっすよ、目開けて」

やっと声がかかった。青井はゆっくり目を開ける。

目の前には服を着替えたつぼ浦がいた。ピンとした高級そうな灰色のジャケットにスラックス、そしてワインレッドのタートルネックを着ていた。

金色のフレームのメガネの向こうに目尻の下がった琥珀色の目がある。いつもよりずっと大人びて落ち着いた雰囲気なのは肌をほとんど見せていないせいもあるだろう。だがそれが逆に扇情的で、服だけでは隠しきれないギラつく生気を滲み出させる。

頭の上からつま先まで見回したあと、赤面するつぼ浦の顔を見たまま青井は黙ってしまった。

「ど……どうっすか」

「ｯｽｳ〜〜〜〜………………」

青井は息を吸うと天を仰ぐ。様々な感情が去来するがとりあえずおもむろにスマホを取り出してカメラを向ける。反射的に両手でピースを作るつぼ浦。カシャカシャと乾いたシャッター音が何度か響くにつれてつぼ浦の顔が怪訝さを増していく。

「あの……どう、なんすかね？」

「ごめん、ちょっと最高すぎて利確してた」

「利確」

「心のカメラだけじゃキャパが足りん」

「命拾いしましたね、もし笑われたらこの場で諸共に行く覚悟だったんで」

「諸共って」

つぼ浦は左手に握られていたグレネードを青井の眼前に見せてからしまう。特殊刑事課らしいケジメの付け方で思わず笑ってしまう。

「自分で選んだの？」

「ハイ、だからその、どう、なのかって」

「最ッッッ高、本当最高、つぼ浦大好きありがとう」

首に手を回すと服にシワが寄らないように軽く抱きしめた。

好きなものと好きなものを掛け算したら嫌いなわけがない。更にファッションが趣味というわけでもない恋人が自分のために選んだのだということが、溢れるほどに嬉しくて顔が緩んで仕方ない。

ずっと不安をこびりつかせていたつぼ浦は、抱きついたまま「最高…」とこぼしている青井を見てやっと安心する。

「本当にタートルネック好きなんすね」

「お前が着ると思わなかったから心臓がヤバい」

「言われたことないから、俺はアオセンのヘキ的に違うんだと思ってた」

「肌出してないとなんか色々発散できなくて死ぬのかと思って」

「そっすよ、だから今キツいっすよ」

つぼ浦は冗談っぽく笑う。それがどこまで本気かはわからないが、わざわざ得意ではないことをしてくれたのは確かだ。その献身が青井の胸を強く打つ。

「お持ち帰りしていいってこと？」

「そ、そのために服作ってきたんっすよ」

「そのためなんだね」

「いや、まあ、その、まぁ……ハイ」

四方八方に目を彷徨わせたあとに小声で肯定する仕草が可愛くて青井はケラケラ笑うとその髪を撫でる。

「今度お礼に金髪吸血鬼のコスプレしてあげるよ」

「あ、いや〜、アオセンはちょっと……」

「あぁ？」

「素材の味がいいんで」

「そっかぁ」

デッドボールしそうになった会話をつぼ浦はうまい具合に誤魔化す。好きなものに好きなものを掛けるのが必ずしも最適解でないこともある。

日付が変わってからも犯罪の通知は来ず、署員たちも静かな街でチルタイムを楽しんでいる。こんな日に2人くらい抜けてもいいだろう。つぼ浦は思い切って青井を見る。

「じゃあ、どうします？家……行きます？」

「いや、もうちょっと堪能させて」

そういいながらつぼ浦を抱きしめる腕を離す。予想外のことを言われて目を丸くする顔に青井は続ける。

「どっかご飯でも食べに行こう」

「そ、そっすか？」

「だって、家行ったら脱がすだけじゃない」

斜め上から来たが、心から納得する言葉だったのでつぼ浦は二の句が継げず口をパクパクさせている。何度言っても毎度毎度真っ赤になる顔が可愛くて、青井は声を出して笑った。

「……誰かに見られるの考えてなかったぜ」

「俺もデート服に着替えるからおあいこってことで」

「あ〜あの。あれマフラーしてたらもっと好きっすよ」

「今日は冷えるし一緒に買いに行こうか」

「いいっすね、アオセンのセンス期待してますよ」

「お～ん？後悔しても知らないぞ」

軽口を叩きながら駐車場に向けて歩き出す。だが「あっ」と言ってつぼ浦が立ち止まった。

「どしたの？」

「改めて、誕生日おめでとうございます」

緊張に震える手が頬に添えられ、赤面する顔が近づく。青井もニッコリと笑ってその唇にちゅっと口づけた。