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米って素晴らしい。
早朝、高専へと向かうバスでぼんやりと考える。
だって古来から食べられてきた貴重なエネルギー源であり、一つの穂から何粒もの米粒が収穫できる。
それにいろんな食材と合う。梅や昆布はもちろんのこと、いくらなどの海鮮系からイナゴなどの珍味、さらにはカレーや肉料理とも相性抜群である。ちなみに私は納豆とキムチを混ぜたものをご飯のお供としてよく食べている。コク✖️コクは最高なのだ。
品種にもよって違う美味しさがあるからそこもずるい。コシヒカリは王道の美味しさ。全てが最高級。噛んだ時の麦芽糖の甘味が他とは段違いで強い。ひとめぼれは全てのバランスがとても良いし、あきたこまちはややあっさりしているから、カレーによく合う。あ、だめだ。こんな朝っぱらからカレーが食べたくなってきてしまう。自爆しちゃったよ…
さて、この導入から分かる通り、今日の昼定食は米がメインだ。
名付けて『選べるご飯のお供定食』!
考えている間についたバスから降り、足早に厨房へと向かう。 自分のロッカーからエプロン、マスク、巾着を出して装着し、手を念入りに洗う。もちろん消毒も。
本当は米を三種類炊きたかったが、三種類も常備しているはずがないので、水分量を若干変えて三つの炊飯器でゆっくり炊く。
その間に煮物、ひじきの佃煮、焼き鮭、明太ツナを炊き上がる1時間30分までに作る。
煮物はご飯とよく絡むように具材は少し小さめにカットする。にんじん、蓮根、ごぼう、しいたけを圧力鍋に放り込み、水や調味料と一緒に煮込む。根菜は体にもいいし、食感が非常に良いのでいろんな料理に使われている。出汁がしみしみになった大根は、苦味と旨みが一気に口で広がって美味しいのだが、今回は時間がなく、中途半端な染み込みになるのでお役御免。いつかの再登場を約束します……
圧力鍋は扱いが難しいけど美味しくなる。煮物系は圧力鍋が一番だが、意外と炊飯器でも調理できたりもする。これは荒技なのであまりお勧めはしないが。
ひじきは油でさっと炒める。余計な水分が飛んでザ・佃煮!って感じの味が強くなる。
水分が飛んで、パラパラしてきたらみりんと醤油、砂糖、酒を入れてまた余計な水分を飛ばす。佃煮作りは根気なのだ。佃煮は佃島とういう島の漁師めしなのだとか。東京の名産品らしい。ひじきの他に昆布や、イナゴ、キクラゲなど、佃煮沼は意外と多種多様なのだ。
今日は万人受けするひじきにしたが、家にはイナゴの佃煮のストックがある。長野に行った時に自分用のお土産として購入したのだ。食べてみると意外と美味しく、サクサクカリカリで薄いエビのような味がした。野菜炒めとかにもマッチする。
だいたいまとまるようになったら容器に入れて冷蔵庫へ。冷たい佃煮の方がご飯と合う気がする。完全に私の好みだがまあ大丈夫か。
焼き鮭は今回はフライパンで焼く。油を敷いて火をつける前にシャケを置く。高温からだと身が縮こまって固くなっちゃうんだよね。あと魚焼きグリル使うのは面倒。焼いた後の掃除やら手入れやらが私には不向きだ。
フライパンで焼いていると焼き加減がよくわかる。身がジュワジュワと焼けていき、フライパンとの接地面は少し白みがかって美味しそうだ。今日は良いシャケを使っているからか油がとめどなく溢れ出ている。皮はじゅわパリッとしていて焼いても柔らかい身と良いアクセントになっている。
うう、うまそう。すぐにでも食べたい気持ちをグッと堪え、醤油とほんの少し酒を垂らして弱火で蒸し焼き。蓋をしていると、醤油と油が鮭の周りでよく跳ねているのがわかる。
しばらくして蓋を開けると、香ばしい香りが厨房を包む。換気扇を回していても香りは無限に鮭から生み出されている。醤油で少し焦げた身はてりてりと朱色に輝き、銀色の皮は脂をよく吸い、噛むとパリじゅわっと天国が生まれそうだ。
この香りがしたからか、高専寮から生徒が起きてくる気配がし始める。さて、あと一品!
昨日出張に行っていた七海さんから頂いた博多辛子明太子のトレーから一際大きい明太子を取り出す。茜色で綺麗だなあ。実は着色料の入っていない辛子明太子は珍しく、お値段も高いらしい。着色料はあまり気にしないタイプだけど食べるならないほうがなんか良いよね。
ボウルにほぐした明太子とツナ、マヨネーズ、少し七味を加え、卵が潰れないように優しく混ぜる。日本酒のお供や、卵焼きの具としても美味しい。パンに塗ってもうまい。今回はご飯だが。
全てのおかずが用意でき、器にご飯と煮物を盛る。ご飯の器はいつもよりも大きめで余裕を持たせた。猫がモチーフの癒されるお椀だ。余談だが高専内の食事用食器は全て動物がモチーフとなっている。これはこの食堂ができた時に学長がお祝いとしてくれたのだ。私自身も猫好きなので猫の形のお玉やら、ボウルやら、トングやらを集めている。因みに箸置きも猫だ。
閑話休題。作ってまもないうちに、一番早起きの伏黒くんが起きてくる。
彼は食事中あまり話さないタイプだが、感情が顔から滲み出てきている。あまり食べられていない料理を出すと好奇心の目でキラキラと料理を見つめて、いざ口に入れると、これでもかというぐらい顔が綻ぶ。好き嫌いがあまりないのか、何でも美味しそうに食べるもんだから嬉しくなる。
「今日は…選べるご飯のお供定食ですか。」
「うん!どれもご飯に合うよ!量はどうする?」
いつもよりも伏黒くんのオーラが柔らかく感じる。
彼が米好きなのは今までの反応からリサーチ済みなのだ!
「今日は…大盛りで。」
「はーい!…どうぞ!お供はどうする?一応全部選べるけど…」
「全部で。」
「おお!いくね〜…はい!召し上がれー!」
朝から結構ガッツリだなあ。まあ重い食材はあまり使ってないから大丈夫だと思うけど。
お盆に小鉢に入ったいろんな食材を乗せて伏黒くんの定位置である、窓際に座り、待ちきれないというようにご飯と鮭に手をつけ、一気にかき込んでいる。
「んっま…」
鮭をご飯の上に乗せ、落ちないようにそっと口へ運んでいる。
噛んだらほぐれる鮭の身と硬めのご飯が絡まって、美味しいに違いない。鮭の皮も、丁寧に剥がしてこれもまたご飯と一緒に口へ運んでいた。いろんな美味しさを吸った皮、これもまた美味しいに違いない。
食べているうちに体が温まったのか、顔が少し赤くなって汗ばんでいるように見える。お茶が欲しそうだな。
「伏黒くん、お茶冷たいのとあったかいの二つあるけどどっちにする?」
「冷たいので。」
「はぁーい。」
お茶を注ぐとそれを一気に飲み干し、再び箸を進める。
いやー良い食べっぷり。
みているこっちまで美味しく感じてしまうなあ。
「ご馳走さまでした。美味しかったです。」
ご飯のおかわりも挟みつつ、いつもよりも少し遅めに完食し、お盆と空いた食器を持って少し照れくさそうにそう伝えてくれた。
「お粗末さまでした!あ、そこ置いといてー!ありがとね!頑張って!」
「はい。」
返事は質素だがそこには嬉しさや照れが見てとれる。伏黒くんはツンデレなのだ。多分。
「またお昼ねー!」
教室へと向かう彼に後ろからそう呼びかける。すると手をあいさつがわりに振ってくれた。
さて、次のお昼ご飯が楽しみだ。