スタジオに夕陽が差し込む。
練習を終えた空気に、まだギターとピアノの余韻が漂っていた。
「ここの弾き方、もっと柔らかくしてみたら?」
滉斗の声に、涼架が笑う。
いつも優しくアドバイスをくれる彼に涼架は心から信頼していた。
そんな彼のアドバイス通りもう一度そこを弾いてみる。
「うん、たしかに。ありがとう、滉斗」
その光景を見て、元貴は無意識にギターケースをぎゅう、と強く握りしめていた。
なんでもない、いつもの風景のはずだった。
けれど、涼架が滉斗に向ける笑顔が、自分に向けるそれよりもずっと自然に見えて―― 胸の奥がちくりと痛む。
俺の方が涼架のこと―···。
「なに?」
滉斗が気づいて、軽く眉を上げる。
その仕草がいやにカッコよくうつる。
あいつはいつだって何してても男前で、なのに性格もいいなんて、僻みたくもなる。
「いや、別に。」
元貴はそっけなく答えるけれど、声がわずかに尖った。
珍しい彼のピリッとしたそっけない態度に涼架が首をかしげた。
「元貴、疲れた? ごめんね、長引いちゃって」
「……いや、全然。むしろ楽しそうでよかったね」
申し訳なさそうな涼架を見ていないフリをして顔を背けたがその 言葉には少し棘が混じった。
涼架はぽかんとしたあと、ふわっと笑った。彼が仲間外れのような疎外感を感じているのかと思って。
「元貴って、やっぱり寂しがりなんだね」
その一言で、元貴の胸が跳ねた。
そして言い返そうとして、やめる。
なんでそんなふうに、まっすぐ見抜くんだよ。寂しい、その感情は涼架に向けて確かにあったものだったから。
思わず涼架を見つめて合った目線を逸らしたとき、滉斗と視線がぶつかった。
滉斗は何も言わない。ただ、わずかに微笑んでギターを抱え直した。
(……わかってるのか滉斗。おまえは全部を?)
スタジオの時計が小さく鳴る。
3人共が黙り込んでしまった音のない時間の中で、元貴はひとり、胸の奥の旋律を聴いていた。
それは、涼架を想うほどに痛くなる、泣きそうになるくらい懐かしい音だった。
コメント
3件
的を射ているようで少しズレた、藤澤さんの「寂しがりやなんだね」に、切なさと思いの伝わらないもどかしさが詰まってる。こういう繊細な表現をもっと出来たならなぁ。勉強勉強_φ(・_・フムフム