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今回は飴色パラドックスの蕪木の体調不良です
ある案件を1人任された蕪木。
尾上が帰宅すると目にしたのは
リビングのテーブルの上に、散らばる資料と空の無数のコーヒー缶。
その真ん中で、蕪木はキーボードを打ち続けている。
「カブ、いい加減にしろ」
珍しく、尾上の声は低かった。
『まだ終わってねえ』
「三日まともに寝てないだろ」
『寝る暇何て無えよ』
「だからって限度あんだろ!!」
思わず尾上の声が荒くなる。
蕪木の指が一瞬止まる。
しかし、視線は画面から外れない。
「今回の案件、危ないんだろ」
『……普通だろ』
「嘘つけ」
尾上は机を叩いた。
「顔色見ろよ自分で!!」
やっと蕪木が此方を見た。
その目は少しだけ赤くて、明らかに疲れている。
「……尾上」
蕪木の低い声がしん、とした部屋に響く。
「頼む」
その一言で、言葉が詰まる。
――まただ。
この人は、こうやって自分を削る。
そして俺は、それを止めきれない。
「……くそ」
尾上は拳を握りしめた。
「じゃあ俺も行く」
『いらねえ、足手纏いだ』
「いーや、行く」
蕪木は少しだけ眉を寄せたけど、
それ以上は何も言わなかった。
夜の繁華街。
張り込み開始から3時間が経過していた。
「……まだ出てこねえな」
尾上が小さく呟く。
隣でカメラを構える蕪木は、何も答えない。
その代わりに 小さく、咳をした。
「カブ」
『……平気』
「さっきから何回目だよ」
『煙いだけ』
でも声は掠れている。
尾上はペットボトルを差し出した。
「飲め」
『後で』
「今」
押し付けるように渡すと、渋々受け取る。
その時 手がわずかに震えた。
「……お前、マジで」
言いかけて、止める。
ここで口論しても意味がない。
今は仕事中だ。
「……終わったら病院行くぞ」
『行かねぇ』
「行く」
『……はぁ、』
「これは決定事項」
きっぱり言うと、蕪木は少しだけ目を細めた。
でも、否定はしなかった。
ターゲットの車が動いた。
「出た」
カメラを構える。
シャッター音。
証拠になる決定的な一枚だった。
その瞬間、蕪木の肩が小さく揺れた。
「カブ?」
返事がない。
次の瞬間、蕪木の身体が ぐらりと傾いた。
「――っ、カブ!!」
慌てて支えると蕪木の身体が 熱い。
異様な程熱かった。
「おい、しっかりしろ!!」
呼びかけても、反応が鈍く 呼吸が浅い。
「くそ……!」
周囲を確認して、人目を避けながら路地裏へ連れていく。
「カブ、聞こえてるか」
『……尾上……』
小さく掠れた声。
意識はある、でも限界だった。
『終わった……ネタ、取れた……』
「そんなことどうでもいい!!」
思わず怒鳴る。
「お前が倒れたら意味ねえだろ!!」
蕪木はうっすら笑った。
『……怒ってる』
「当たり前だろ」
声が震える。
「ずっと無理してたの知ってたのに」
『……っ、…』
「止められなかった」
ぎゅっと肩を抱き寄せる。
「俺、相棒失格だ」
その瞬間。
弱い手が、尾上の服を掴んだ。
『……違う』
小さな声で告げる。
『一緒に、来てくれた…』
『それで十分だ、』
その言葉で、胸が締め付けられる。
救急搬送までは必要なかったが、
近くのクリニックで応急処置を受けた。
点滴が終わるのを待つ間。
廊下で、女性記者に声をかけられた。
「尾上さん、大丈夫でした?」
同業の記者。
今回の件で何度か顔を合わせている。
「ええ、なんとか」
「蕪木さん、大丈夫ですか?」
「……まあ」
「尾上さん優しいですよね。」
その距離が、少し近い。
「仕事できて優しくて、モテそう」
その瞬間。
背後から、低い声。
『……尾上』
振り向くと、点滴スタンドを引きながら立っている蕪木。
「カブ!?動くなって言われただろ」
『……誰、』
「同業の記者だよ」
蕪木は一瞬だけ女性を見て、
そして尾上の腕をぐっと引いた。
『……来い。』
「お、おい」
そのまま半ば強引に歩き出す。
点滴が終わると必要な薬が処方され、
ふらふらな蕪木を支えながら家まで歩くのは無理だと判断しタクシーで帰ってきた。
家に戻ると、蕪木はそのままベッドに倒れ込んだ。
「だから無理すんなって言っただろ!!」
尾上は声を荒げる。
「倒れるまでやるなって言ってんだよ!!」
息が荒いまま、言葉をぶつける。
暫く沈黙が続いた。
『……悪い』
小さく掠れた蕪木の声。
それで、一気に力が抜けた。
「……怒ってるわけじゃねえよ」
ベッドの端に座る。
「怖かったんだよ」
「お前、あのまま動かなくなるかと思った」
静かに、蕪木の手を握る。
まだ少し熱い。
「……もう、あんなの嫌だ」
その言葉に、蕪木は目を細めた。
『……さっき嫉妬してた』
蕪木がぽつりと言った。
「は?」
『さっきの女』
「え、そこ!?」
『距離、近過ぎ』
尾上は一瞬呆れて、でもすぐにため息をつく。
「バカ」
そっと額を軽く叩く。
「俺がお前以外の所に行く訳ないだろ?」
『……』
蕪木はゆっくり目を閉じた。
『……分かってる、でも不安だった…』
小さな声。
珍しく弱気な蕪木にキュンとしつつ
「なぁ、一緒に寝ていいか?」
と告げ、一緒の布団に潜る。
数日後
熱は下がり、顔色も戻ってきた。
ソファで並んで座る、 自然に肩が触れる。
「……なあ」
尾上が小さく言う。
「次、無理しそうになったら」
「一人で抱えんな」
『分かった、ちゃんと……お前に言う」
その言葉に、胸が温かくなる。
「最初からそうしろよ」
軽く笑って、距離を詰める。
尾上がゆっくり蕪木に近づくと、唇と唇が触れる。
やわらかくて、あたたかい。
『……ありがとな』
「だから当たり前だって」
『それでも』
蕪木は少しだけ目を細めて、
今度は自分から深くキスをした。
長く、ゆっくりと。
『……好きだ』
「……知ってる」
『お前も言えよ』
「好きだよ、カブ」
そのまま、抱き寄せる。
体温が重なる。
失いかけた距離が、ちゃんと戻ってきた。
「もう倒れんなよ」
『お前が傍で見ててくれるなら、倒れねえ』
「ずっと見てる」
『じゃあ大丈夫だな』
小さく笑って、もう一度キスをした。