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「……夜蛾が拉致された!?」
庵歌姫の声が会議室に響いた。彼女の目は怒りに燃えている。
「……ああ」
楽巌寺嘉伸が腕を組みながら答える。
「昨晩、研究室にいた夜蛾は何者かに連れ去られた。抵抗の跡があったが、呪力を封じられた状態で戦闘不能に陥ったらしい」
「そんな……!」
庵歌姫が拳を握りしめる。
「犯人の目星は?」
「ほぼ確定だ」
楽巌寺は険しい表情で言った。
「……鹿島だ」
「……嘘でしょ」
庵歌姫は目を見開いた。
「……そんなことを?」
「信じたくないが、証拠は揃っている。監視カメラの映像にも、研究室を訪れた鹿島の姿が残っていた」
庵歌姫は混乱しながらも、鹿島の言葉を思い出す。
(”呪霊を利用する者が、新時代を築く”……まさか、あれは本気だったの?)
「現在、廃寺で鹿島の姿が確認されている。そこに夜蛾も囚われている可能性が高い」
楽巌寺が地図を広げる。
「よし、すぐに助けに行く!」
庵歌姫は即座に立ち上がった。
「待て」
楽巌寺が彼女を制する。
「敵の戦力が不明だ。鹿島が単独ならいいが、奴はすでに不知火陣と繋がっている可能性が高い」
「……それでも! 夜蛾を放っておけるわけない!」
「もちろんだ」
楽巌寺は静かに言った。
「だからこそ、慎重に行く。お前一人で行くんじゃない」
「……つまり?」
「”奪還作戦”を実行する」
冷たい石の床の上で、夜蛾正道は意識を取り戻した。
「……ここは」
周囲を見回すと、古びた廃寺の内部だった。腕には呪符が巻かれ、呪力の流れを封じられている。
「目が覚めたか」
低い声が響く。夜蛾が顔を上げると、そこには鹿島泰弘が立っていた。
「お前……」
「悪く思うな、夜蛾」
鹿島は淡々と言う。
「お前の才能は惜しい。だからこそ、俺はお前を連れてきたんだ」
「……俺を”仲間”に引き込むつもりか?」
夜蛾は冷ややかに言う。鹿島はフッと笑った。
「話が早くて助かる。そうだ、お前の研究は素晴らしい。だが、お前一人では限界がある」
「だから不知火陣に協力する、と?」
「その通り」
鹿島は夜蛾の拘束された腕を見下ろした。
「不知火とお前の技術を融合させることで、”新呪術”を生み出せると。呪霊を完全制御し、術師と融合。それこそが”進化”だ」
「ふざけるな」
夜蛾は低く呟いた。
「お前が言っているのは”支配”だ。呪術の本質を歪める行為だ」
鹿島の表情が険しくなる。
「お前は理想に縛られているだけだ、夜蛾」
その瞬間、外から爆音が響いた。
「……!」
鹿島が驚いたように振り向く。
「どうやら、お迎えが来たようだな」
夜蛾が不敵に笑う。
「行くわよ!」
窓が先陣を切り、廃寺の正門を蹴破る。
「”薄暮の縛”!!」
彼女が術式を発動すると、廃寺内部の照明が一瞬で暗くなる。
「夜戦に持ち込むか……」
楽巌寺嘉伸が背後から進みながら言った。
「任せろ。こっちは音で敵を仕留める」
彼が三味線を構えると、強烈な音波が廊下を駆け抜けた。
「ぐあっ!」
潜んでいた呪詛師たちが吹き飛ばされる。
「……さすが楽巌寺先生」
庵歌姫は微笑むと、さらに奥へと突き進んだ。
「待て」
そこに現れたのは鹿島だった。
「……やはり来たか」
「当然でしょ、夜蛾を返してもらうわ!」
庵歌姫が気迫を込める。
「夜蛾の才能は、俺たちのものだ」
鹿島が印を結ぶと、廊下の影から改造された呪霊が次々と現れた。
「コイツら……!」
庵歌姫が呪具を握りしめる。
「……歌姫、楽巌寺」
奥の部屋から夜蛾の声がした。
「来るのが遅いぞ」
「アンタは……黙ってなさい!」
庵歌姫は叫ぶと、鹿島を鋭く睨みつけた。
「アンタみたいな奴には、絶対に負けない!」
そして、戦いが始まる――