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王立学園の中にも運動に関する授業がある。それが剣術の授業だ。
『貴族たるもの、何時いかなる時も王と民を護るべし』という精神から来ている。
この授業は上級生と下級生がペアになって行う。先達が後進を育て、自らも指導技術を学ぶという意味も兼ねていた。今までは基礎的な体力作りに励んでいたが、今回の授業から実地で学ぶことになる。
「俺が君の指導係だ。よろしく頼む」
そう言って俺の前で頭を下げたのは、アレックス・コンブリオだった。
「よろしくお願いします……」
よりによって何でアレックスと当たるのか……これはいよいよもう、俺が主人公ルートを歩んでいるということに他ならない。何故なら、本来アレックスとあたるのはノエルのはずだからだ。
ノエルは別の無難な先輩──女生徒じゃねーか……!──とキャッキャウフフと楽し気に取り組んでいる。……あれ、ずるくないか……。
「さしあたって、力量を知りたいのだが……」
「あ、はい……えぇと……何をすればいいですかね……?」
よそ見をしていた俺は慌ててアレックスに視線を戻す。
アレックスは俺の質問に、ふむ、と頷いた。
「素振りはできるか?」
「……まあ、一応……」
習ってきたことを思い出しながら、俺は木剣を振るった。
二度三度、と振ったところでアレックスから止めるように手があがる。
「なるほど。君が剣術がからきしなのが分かった。さてどう教えたものか……」
「えっ?!あれ?!振れてませんでした?!」
「まあ、棒を振り回した感はあったが……」
「ふ、振り回す……」
苦手寄りというか苦手に両足突っ込んでいる部類の剣術ではあるが、自宅ではそれなりの教師にそれなりに教えられてきたわけで……才能が溢れてないことは自分でもわかっていたが、そこまでとは思っていなかったの。むしろ今のはいい感じに振れた気がする!とまで思ってたよね……。
あまりの才能のなさにアレックスも頭を悩ませるとは、逆に才能感じるよね!俺ね!泣きたいけど!
「とりあえず、型から覚えていくか……」
俺の隣に立ち、アレックスが俺の木剣を構える手と背中に自身の手を添える。
そうして──特訓が始まった。……帰りたい……。
※
みっちりと時間いっぱい無駄なくアレックスは俺に指導をしてくれた。
その成果は少しはあったようで、立ち姿はそこそこだ、と終わり際に言われて肩を励ますように叩かれる。あれだけやって立ち姿というのが解せぬ。
とはいえ、全くできてなかったと想定すれば少しはましになったのかもしれない……。
「ありがとうございました」
俺が礼をすると、アレックスが笑んで頷く。どちらかと言えばアレックスは愛想がないほうで、滅多なことでは微笑まないので、あたりもその顔に少しどよめいた。尤も本人はそれに気付いてないようで、少しざわめいた周囲に首をかしげていたが。
「リーアム!」
アレックスが去った後にノエルが俺の横へと来た。
俺の耳元に顔を寄せ、
「やばいよ、お兄ぃ……先輩めっちゃいい匂いだった……!」
等と小声でほざく。
……おっまええぇぇ……!
「ほーう?!俺はみっちりきっちりみちみちだったよ……!」
近くにあったノエルの耳を軽く引っ張りつつ、俺も小声で返してやる。
前世でも妹は綺麗なお姉さま系の女性が好きだったように思う。生まれ変わったところでそこは変わらないらしい。
「アレックスはどうだった?」
俺の手から逃げるようにノエルは身をよじりつつ、アレックスが去ったほうを顎で指す。
どう、と言われてもな……今回は最低限の接触しかないわけだし、何かを話したわけでもない。なので今日の感想としては、剣術きつかったな、というのが一番ではあるが……。
「まあ、普通かな……どこがルート分岐だっけ?」
「アレックスは……実戦の時。ノエルを護って怪我をして……怪我の理由が……」
「ああ、足が悪いんだっけ?小さいころの後遺症で」
「そうそう。その蟠りを取るのがキーポイントだけど……」
実戦、とは言葉そのままに有事の際に敵を倒すためのものだ。
魔法でつくられた幻影の魔物が適役となる。幻影と言っても攻撃はしてくるし、攻撃が当たれば怪我をする。要するにちゃんと取り組まないと、死なないものの痛手は被るというわけだ。確かノエルはその時に、うっかりと幹に足を取られてしまい……といった流れだった気がする。
そしてアレックスの後遺症こそ、アレックスのトラウマであり、ノエルが言ったようにそれを解消するのが主人公の役割だ。
そうすることで、晴れてアレックスルートとなるわけだが……。
「うーん……これって、どこまですべきなんだ?」
正直、あまりやりすぎるとまずい、というのが印象だ。
下手に関わると小さなフラグが大きなフラグになる。リンドンがそのいい例だ。
……しかしリンドンに関して言えば、あっちがいつの間にか大フラグを構えていただけでトラウマ解消とかそういうことしてないんですよね、俺……。お家に軟禁コースを避けるためにああした行動には出たものの、ゲーム攻略で知りえている内容について何かしたことはない。
成り代わり主人公(仮)とはいえ、無条件で好意を持たれすぎ案件……。
「リアム・デリカート!」
俺とノエルがだらだらと歩いていると、後ろから剣のある声が高らかに響く。
「うわ……」
声で分かる。ディマスだ……そうだ、剣術の授業はクラス合同だわ……。
振り返りたくないが、相手が相手なだけにそうもいかず、俺は振り返った。
その瞬間──……ぴしゃん、と俺の頬に何かがあたって落ちた。
大した痛みではないものの、面食らうには十分なもので、視線が落ちた何かに向かう。
それは、白の手袋だった。そして、
「貴様に決闘を申し込む!」
俺を指さしながらディマスがそう宣言した。
正気?