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「くくっ……あぁ……笑ってすまない。まあ……モフモフ? 後で好きにしてくれ」
コイハが傷の痛みに息を荒げながらも笑ってしまい、とんでもないことを言い出した。ムツキは目の色が変わり、ナジュミネとリゥパは驚愕する。
「本当か? その尻尾に触ってもいいのか? その頭を撫で回してもいいのか? 君は大きいからな。抱き枕のようにしても……?」
ムツキは興奮気味にコイハへと次々と言葉を投げかける。彼女はその熱量に少し驚きはしたものの、彼がメイリを治癒し続けているので何も言うことはなかった。
「え、ああ、メイリが大丈夫なら何でもいいさ」
ナジュミネとリゥパは膝から崩れ落ちる。
「大丈夫だ。君も絶対に治す……。ところで、俺はムツキだ。君の名前は?」
「……コイハだ」
ムツキは、真顔になったかと思うとまた急に笑顔になり、表情筋が忙しい。心配させないための配慮とも言える。
「メイリさんにコイハさんか。いい名前じゃないか。メイリさんはタヌキの半獣人か? 顔も耳も少し丸っこいし、尻尾が縞々になっていないからアライグマじゃないと思っているんだが」
「さん付けはいらねぇよ。ってか、やけに詳しいな……」
「やっぱりか! 尻尾は間違えやすいから、ちょっと心配だったんだよな。しかし、人族のように見える部分も……肌も黒いんだな」
ムツキはメイリをまじまじと見つめる。彼女は魔力も補充されてきているからか、すっかり苦しげな表情からすやすやと安眠しているかのような安らか表情に変わっている。
「メイリは黒狸の半獣人だからな。……触るなよ? 約束したのはあくまで俺だからな」
「分かっているよ。さすがに不躾に触るような真似はしないさ」
「ご主人……触ってニャいけど、その虚空を撫でる手つきが怪しいニャ……」
全員がムツキの手つきを見ている。たしかに右手も左手もメイリを掠りもしないが、10cmも離れていないところで両手が妙な動きをしていた。
「これは……イメトレだ」
「何のイメトレをしてるんだ、お前は……」
「モフモフだ! さて、メイリさんはもうすっかり大丈夫だ。次はコイハだな」
ムツキはコイハの傷口を見る。やがて、両手で【ヒーリング】を使い始めた。コイハは全身を温かい空気に包みこまれたかのような気持ちよさに思わず笑みがこぼれる。
「銀色の毛並みが綺麗だな……あぁ……傷口のところはすぐに毛が戻らないから、少し時間が立たないと傷口が分かりやすいな……。こんな酷いのは許せないな……」
ムツキはモフモフが傷ついていることにひどく悲しみを覚えた。前の世界でも彼はケガをしている動物を放っておくことができなかった。それ故に悲しむことも傷つくことも多かった。
しかし、今の彼は、モフモフを治すことも救うこともできる力を持っている。それが彼自身を救うことにも繋がっていた。
「だいぶ楽になったよ、ありがとな」
「モフモフを守るのは俺の重大な使命だからな!」
「それはまだ、よく分からんが、俺もメイリも助かった。この恩には必ず報いる」
「旦那様!」
突如、ナジュミネが口を開いた。彼女の顔は中々に険しい表情である。これには思わず、ムツキも戸惑いを隠せない。
「ナジュ、どうした? 具合でも悪いのか?」
「あぁ、機嫌がすこぶる悪いとも。まさか本当に、命を救ったという弱みに付け込んで、白狐族にモフモフを要求するのではあるまいな?」
ナジュミネは立ったままに、座っているムツキをギロリと凝視する。彼はタジタジになり、立ち上がることができない。
「えっ……あぁ……えーっと……」
「俺なら構わないぞ」
コイハは助け舟を出す。彼女が自分で言ったことでもあるから、約束のようなものであり、それを果たすのは当然でもあった。
「……コイハと言ったか。自己犠牲は良くないぞ」
「自己犠牲……」
ムツキはグサリと心に矢が刺さった。
「いや、命を救ってもらったし、こちらから約束をしたのだから、犠牲も何もないだろ……」
「む」
ここでナジュミネが無言になる。全員が彼女の出方を窺う中、リゥパが優しい表情で口を開いた。
「ナジュミネ。素直に言ったら? その方がきっとムッちゃんにも伝わるわよ?」
「……そうだな。リゥパ、ありがとう。旦那様、妾は……嫉妬している……」
リゥパに言われ、ナジュミネが正直な思いを口にし始める。
「嫉妬?」
「そうだ。旦那様がデレデレで女の子の獣人や半獣人にモフモフするなんて耐えられない……。きっと、私やリゥパよりもこれからかわいがるに決まっている……」
「……ナジュ、そんなことないぞ。俺はユウもナジュもリゥパも愛しているし、もしハーレムが増えても、それは何一つ変わらないぞ」
ムツキは立ち上がり、ナジュミネの前でそう断言した。
「旦那様……嘘じゃないなら抱きしめてほしい」
「もちろん、嘘じゃないさ」
ムツキとナジュミネは抱きしめ合った。2人は完全に2人の世界に入っていた。リゥパやケット、ほかの妖精たちは特に気にした様子もない。
「いやいや、なんだ、この茶番は……」
コイハはムツキとナジュミネが真剣であることを理解しつつも、それを冷ややかに見つめながら思わずそのような言葉を声に出してしまっていた。
本人たちが真剣になるほど、周りは至って冷静になれるものである。