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「――本当に凄いですね!」
自称ジェラードを囲みながら、全員でしみじみと眺める。
近くで見ても、まさかこれがジェラードだなんて、なかなか信じられないレベルの女装だ。
「いろおとこー? 女の子になったの?」
「ふっ……。これは僕の変装術のひとつさ。
ところで、女装というか、変装術だからね!?」
……まぁ、確かに。
ジェラードの元の印象がほとんど無くなっているから、女装というよりも変装術という方が納得感がある。
「でもグリゼルダとルークはよく、すぐにジェラードだって信じられましたね」
「言われてみれば、気配がジェラードのものだったからのう」
「グリゼルダ様に同じく、です。……気付いたあとは、そのギャップにやられてしまいましたが」
「二人とも、本当に心配したんですよ!?
倒れた理由が、まさか笑いに堪えられないだけだったなんて……」
「いやぁ、ここ100年くらいの記憶の中でも、これは一番面白い出来事じゃったな♪」
「そ、そんなにですか……。
でもジェラードさん、よくもまぁこんなに……。いやー、とっても可愛いですね……」
「ふふっ、褒め言葉として受け取っておくよ……」
ジェラードを改めて眺めると、やっぱりどこからどう見ても女性だ。
しかもそれを追い打ちを掛けるように――
「……そもそも、普通に女性の声ですよね?」
「あー、これ? これは声帯の使い方を訓練するのさ。
時間は掛かるけど、案外何とかなるものだよ」
そういえば元の世界でも、ネットで『両声類』っていう単語を見掛けた覚えがある。
男性が可愛い女性声を出すような動画の――タグで見たんだっけかな?
「はぁ……。私の知らない技術がたくさんあること……。
それで、今日は何で女装……もとい、変装を?」
「ああ、うん。それはねぇ……。
ステインくーんっ!!」
「あっ、はいっ!」
突然のジェラードの呼び掛けに、ジェラードと一緒にいた男性がこちらに駆け寄ってきた。
……んん? これは見覚えのある人だぞ?
「アイナさん、こんばんわ。
こんなところまで押し掛けてしまって、申し訳ありません」
「いえいえ。えーっと、ジェラードさんのデート券を当てた方ですよね!」
「はい。当たったら当たったで何だか気になってしまいまして、デートを今日してもらったんです。
仕事も休みをもらって、この辺りをぶらぶらーっとしていました」
「そうだったんですか。
まさかこんなに早くデートするとは思わなかったので、完全に意表を突かれましたよ」
「僕もまさか、攻撃をされるだなんて思いもよらなかったよ……」
「えぇー? だってグリゼルダもルークも倒されたんですよ!?
……結局は笑い転げていただけでしたけど」
「わ、わたしが攻撃したのはアイナさんの指示があったからっ!!」
「あ! エミリアさん、ずるい!」
……まぁ、私の指示だったっていうのは否定できないけど……。
でも、あの状況じゃ正しい判断だったと思うよ?
「ははは……。やっぱりみなさん、とても仲が良いんですね」
ステインさんが控えめに、笑いながら言った。
和気あいあいとした空気の中で、そろそろ緊張も解けてきたようだ。
「本当に、驚かせてしまってすいません。
でもジェラードちゃんが大体悪いので、どうか許してあげてください」
「そうですね。それではまた、デートに付き合ってもらうことにしましょう!」
「えっ」
思わぬ言葉に一番驚いたのは、当のジェラードちゃんだった。
「正直なところ、俺って今まで女の子と付き合ったことがなかったんですよ。
どうにも緊張しちゃうっていうのかな……。
でもモニクさん――もとい、ジェラードさんは男性だから、安心して一緒にいられたんです」
「んん……?
えーっと……、最初は緊張しちゃうかもだけど、ちゃんと女性とお付き合いした方が良いと思うよ……?」
やんわりと注意を促したのはモニクちゃん――もとい、ジェラードちゃんだった。
確かにこのまま変な性癖が付いてしまったら、主にジェラードのせいになってしまう。
「だ、大丈夫だよっ! 俺はモニクさんのこと、女性だって思ってるから!
……あれ? いや、男性だって思ってるから!」
いやいや? 何だかすでに、混乱してしまっているよね?
今のジェラードを前に、『この人は男!』って言い切るのはなかなか難しいことだ。
だって、どこからどうみても女性なんだもん。
「ところで今日のデートは、もうおしまいなんですか?」
「はい、しっかりここまで送りましたので!
……っと、そうですね、俺はそろそろ失礼します! アイナさん、みなさん、お騒がせしました!」
「いえいえ。全然、ですよー」
「そう言って頂けると助かります!
それじゃモニクさん、またね!!」
「あ、うん」
ジェラードの返事を聞くと、ステインさんは嬉しそうに去っていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……モニクちゃんも、罪作りな男性ですねぇ」
「はぁ……。言わんといて……」
ジェラードは女性の姿のまま、焚き火にあたりながら悩ましい声を出した。
しかしそもそも、その声は今も女性のままだ。
「あの、ジェラードさん?
いつまでその声で喋っているんですか?」
「え? そりゃ、この姿をやめるまでだよ。
女性の姿で男の声だなんて、おかしいでしょ?」
「そ、そこはこだわりがあるんですね……。
そういえば私たちが攻撃しようとしたときも、声はそのままでしたし」
「安全よりも自分のこだわりを優先する。
……うーん。ジェラードさん、素晴らしいです!」
エミリアさんは変なところに感心をしているようだ。
確かにそれは凄いことだけど、しかしここでは何だか違う気もする……?
「でも、今回は無事にデートも終わっちゃいましたし。
せっかくの技術をこのまま埋もれさせるのはもったいないですね」
「いやいや? そもそもこれ、潜入用の技術だからね!!
これからもずっと使うから、大丈夫だよ!?」
「潜入かぁ……。確かに全然、正体は分かりませんでしたよね。
私なら鑑定すれば看破できますけど、一日中鑑定をしているわけにもいきませんし」
「そうそう、怪しい素振りを見せないのが重要なんだよ。
何事も自然に、自然に……、ね」
「ふむふむ、それはためになります……。なるような……。なりますかね……?」
「なるから!!
何だかもう、調子が狂っちゃうなぁ……。それじゃ、そろそろ元の姿に戻ってくるね!」
「「えぇー、もったいない……」」
「もったいなくないから!!」
私とエミリアさんの言葉を、ジェラードはあっさり否定してしまった。
うーん、やっぱりもったいないなぁ……。そんなことを思いながら、ジェラードがテントに入って行く様子をぼんやりと目で追い掛ける。
エミリアさんも同様に眺めていたが、少し間を空けてから話を続けてきた。
「……でも、ジェラードさんの新しい一面を見られた気がしますね。
王都ではいろいろなところに潜入していたみたいですし、変装っていうのも、少し気になっていたんですよ」
「そうですね。私も、あそこまで凄いものとは思っていませんでした。
頑張って女の子の振りをするくらいかな……って思っていたんですけど、そんな次元では無かったですね」
「うむ、あれはもう、変化の部類じゃな。
しかし魔法ではない分、看破することも難しいじゃろうて」
「あれ? ……そう言うってことは、変化の魔法……みたいなものもあるんですか?」
「人間には難しかろうが、いくつかあるぞ?
人間が扱えるのは視覚を騙すような幻惑系の魔法じゃが、竜族や魔族は身体自体を変えるものがあるのじゃ」
「へー、それは便利そうですね!」
「視覚だけ騙すとは言っても、些細な変化なら問題ないしな。
興味があれば、妾が教えてやっても良いぞ?」
「え、本当ですか!? 是非!!」
「では暇なときにでも教えるとしよう。
アイナはそもそも水や氷の魔法に適性があるからな。相性もばっちりじゃて」
「へー、属性的にはそっちなんですね」
「アイナさん、いいなー。グリゼルダ様、わたしもその魔法を覚えたいです!」
「エミリアの適性は光属性じゃよな?
うむ、魔法がちと違うものになるが、お主にも教えてやろう」
「やったー! 頑張りますっ!!」
「エミリアさん、頑張りましょうね!
ちなみにそれって、すぐに覚えられるものなんですか?」
「いや、前提がいろいろとあるからなぁ……。
1年以内に覚えられたら、早い方ではないかのう?」
「「え……」」」
……その魔法は想像以上に、結構な時間が必要のようだった。
まぁ私は時間がいくらでもあるから、大丈夫といえば大丈夫なんだけど……。
でもエミリアさんは、他に覚えたい魔法もあるだろうしなぁ。
絶対、時間が足りなくなっちゃうよね……。
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しめさば
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