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____ことの発端は、薬箱だった。
もう何十年も前に掃除した、あなたの部屋から出てきた薬箱。
見つけた当時にはすでに割と年季が経っていたようで、表面は少しざらついていて。
きしむ蝶番の取り付けられた蓋を開けて見れば、なかは思っていたよりも綺麗で…
包帯、重ねられた絆創膏、何かの軟膏…どれもあまり使われていなくて、新品のような、ただの薬箱。
たった一つ、入っていた異質な物を除けば。
それは薬だのガーゼだのに混じって、箱にしれっと収まっていた。
何だか気になってしまって引っ張り出して覗いてみると、一冊の日記帳だった。たぶん、あなたの物。
表紙は真っ黒で、何も書かれていない。水にでも濡れたのか少しふやけていた。
後ろめたい気もしたけれど開いてみて___ええと、それで…どうなったんだっけ。
もうずっと昔の記憶だからだいぶ薄れてしまっているけど。とにかく、私はあなたを追ってここまで来たのだ。
降りしきる雨を掻き分けて。
私はぐるぐる回る思考に鬱陶しさを感じて、防波堤から腰をあげた。
ここにとどまっていても何も起きない。もう行こうか。
睫毛に落とされた雨粒を瞬きで払い落とす。
肩に提げた鞄にはあなたの日記帳(たぶん)が入っているから死守してきた。めんどくさがらずに傘を差せばよかった。
ちょっとは横雨もしのげたかもしれないのに。
今からでも遅くはないかな。罪滅ぼしをするみたいに、折りたたみ傘を広げた。
パッと音がして、私の周りだけ雨粒が弾き出される。
人影が増えてきた。みな足を早めて通り去ってゆく。
この後はどうしよう。駅へ向かった方がいいんだろうか。あなたはどうしたんだろう。
私はこんなにも優柔不断だったっけ? 後ちょっと。ちょっとだけ考えさせて_____