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みぅです🖤 第5話、読んだよ…。 美紗が「佐藤さん」って呼び直した瞬間、すごく胸が痛かった。距離を置こうとする気持ちと、それでも勇太くんを想う気持ちが両方あって、どっちも本物なんだなって伝わってきた。 「待つから」って言う勇太くんの必死さも、泣き腫らした目で断ろうとする美紗も、どっちも正しくて、どっちも間違ってないところが切なくて苦しいよ…。 それにしても、美紗があの約束をしたせいで、もっと大きなすれ違いが起きそうな予感がする…。次が気になるし、ちょっと怖い。
休みが明けた出勤日。
出社すると美紗は既に自分の席にいて、パソコンに届いていたメールをチェックしていた。
いつもはコンタクトなのに、今日はメガネ姿の美紗。
美紗の瞼は少し晴れていて、眼球も赤くなっていた。
痛くてコンタクトが出来なかったのか、メガネでいつもと違う目を隠したかったのか。
美紗はあれからどれだけ泣いたのだろう。
「おはよう、美紗」
そんな美紗に近寄り話しかけると、
「おはようございます。佐藤さん」
俺に話し掛けられたくなかっただろう美紗が、バレバレにも程がある作り笑いを浮かべながら俺を見上げた。
美紗と俺の関係は、同じ部署の人間全員が知っている。
だけど、俺らは会社で慣れ慣れしく接したりしない。職場だから。
でも、挨拶だけは敬語なしで交し合ってきた。美紗と俺は恋人同士だから。
『おはよう』には『おはよう』を。『お疲れ様』には『お疲れ様』を。
なのに今日は、『おはようございます』。
美紗が俺と距離を置こうとしていた。
「ねぇ、美紗。朝会終わったらちょっとだけ会議室に来て」
美紗が俺を避けようとしているからと言って、おとなしく避けられたままでいられるわけもない。
「……それは、仕事の話ですか?」
職場で仕事以外の話を断ろうとする美紗の態度は間違っていないとは思う。だけど、電話さえ出てくれないくせに、会社内での私語厳禁はちょっと酷い。
「……まぁ」
実際、事と次第によっては会社の人間も関わる話だったりする。
「……分かりました」
返事をした美紗は、俺の顔を見ることなく頷きながら視線を下げた。
俺との間に壁を作ろうとする美紗の態度に、イライラに似たモヤモヤが募る。
美紗は何も悪くない。でも、俺だって悪くない。
だけど、かつて自分に極悪非道な仕打ちをした真琴の兄の俺は、美紗の目にはどう映っているのだろう。
いつも通り淡々とした朝会が終わると、美紗に目くばせをし、2人で会議室へ。
美紗は椅子に座らずに、立ったまま気まずそうに床を見つめていた。
そんな美紗の隣に立ってみても、美紗は相変わらず俺の方を見てくれない。
「ねぇ、美紗。なんで電話出てくれなかったの? 結婚しないっていうのも本気じゃないよね? 招待状こそまだだけど、もう部署のみんなに言っちゃってるじゃん。『結婚式に来てくださいね』って」
そんな美紗に、薄ら『仕事も関係してます』的な要素を無理矢理織り込み話しかける。
「……本当にごめんなさい。『許してください』って言われても許せるわけないよね。電話、出なくてごめんなさい。全部分かってるの。何を言われなくても、説明されなくても、勇太くんは何も悪くない事はちゃんと分かっているの。分かってるけど……。分かっているのに……。どうしても、どうしても、頭に気持ちがついていかないの。部署のみんなには、私から話す。私の我儘の結果だから、私が何とかする。結婚の約束を破った私を信用出来ないかもしれないけど、勇太くんに……佐藤さんに迷惑は絶対に掛けません。佐藤さんは何の心配もいりませんから」
美紗は何度も何度も頭を下げ、名前で呼んでくれていた俺を【佐藤さん】と言い直した。
美紗が俺との間に作った壁をどんどん厚く、どんどん高くして、俺の侵入を拒んだ。
「待ってよ。勝手に1人で結論付けるなよ。俺の気持ちは無視すんの? 俺はしたいよ。美紗と結婚したい。今そんな気持ちになれないなら、延期したっていいと思う。取りやめることないだろ? 俺、待つから。いくらでも待つから」
だけど俺は、どんな壁もよじ登るし叩き壊す。
だって、美紗へのあのプロポーズはノリでもなければ、流れでしたわけでもない。俺の一世一代だったんだ。
「いくらでもなんて待たせられるわけないでしょ。……あれからずっと考えてた。佐藤さんのこと。佐藤さんの両親のこと。……真琴ちゃんのことも。佐藤さんのことが大好きで、私なんかに優しくしてくれる佐藤さんのお母さんとお父さんのことも大好きになって……。あんなに可愛がってもらったのに、【真琴ちゃんを産んだ人なんだ】って思うと佐藤さんの両親が怖くなった。佐藤さんのことも、【真琴ちゃんのお兄ちゃん】って考えるだけで苦しいの。こんな色眼鏡で人を見る私なんか嫌でしょう⁉ 私も自分自身が嫌で嫌で仕方がない。何も悪くない人に嫌悪を抱いて不義理を通す自分を最低だと思う。だから、私の為になんか待つ必要ないんです。いつになるのか分からない時間を待たせるなんて出来ない。佐藤さんにはもっと素敵な人がいる。私とじゃ幸せになんかなれない。幸せになって欲しい。佐藤さんは。絶対に」
美紗が、泣き腫らせた目から涙を零した。
美紗は、俺のプロポーズが一世一代のものと分かっていた上で、真剣に考えた末の破談の申し出だった。
泣きじゃくる美紗に、テーブルの隅に置いてあった箱ティッシュを手渡す。
美紗はそれを「ありがとうございます」と受け取ると、そこから何枚か引き抜き、メガネを外して涙を拭った。
美紗の目の周りは少し皮が剥けていて、痛々しかった。
なんで美紗がこんなに泣かなければいけないのだろう。なんで俺がこんな目に遭わなければいけないのだろう。
全部全部、真琴のせい。真琴への怒りが蘇る。
ふと、痛々しい目をした美紗が壁に掛けられた時計を見上げた。
「佐藤さん、30分後にアポ入っていませんか? 朝、佐藤さんのスケジューラーに確か商談の予定が書かれていたと思うのですが……」
美紗はいつも、自分の予定だけでなく営業の人間のスケジュールもチェックしていた。営業の予定を気にかけてくれる美紗は、営業に指示をされる前に必要な書類を揃えたりする気遣いが出来る為、みんなから信頼されていた。
「うん。もうそろそろ出ないと。また今度……」
「もう行ってください。遅れちゃいます」
『また今度ゆっくり話そう』と言いかけた俺を、美紗が遮った。
この言葉を、1秒も要しないこの言葉を、何故言わなかったのかと後々後悔するなんて思いもしなかった俺は、帰ってきてから言おうと飲み込んでしまった。
「じゃあ俺、ちょっと出てくるわ」
「あ、佐藤さん。私が真琴ちゃんに苛められてたってことは、誰にも言わないでください。苛められっ子ってレッテル貼られるの、嫌なので。私にも一応プライドがあるので」
会議室を出ようとした俺の腕を美紗が掴んだ。
この時、バカな俺は【美紗の名誉を守る為】と思い、
「分かったよ。絶対に言わないから」
すべきでない約束してしまった。
俺の返事にホッとしたのか、
「ありがとうございます。引き止めてすみません。お仕事、頑張ってきてください。行ってらっしゃい」
少し微笑むと、俺の腕から手を放し、その手を横に振った。
何日かぶりに見た美紗の笑顔に嬉しくなって、
「うん。頑張ってくる。行ってきます」
美紗に手を振り返して会議室を出た。
俺がいない間に、美紗がとんでもない動きをするなんて、考えもしなかった。