テラーノベル
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※ドスゴー、死ネタ
ヨコハマ郊外。カレンダーは干支をまわり、短針が三を指す静まり返った街に、僕とふたりきり。
ドス君はそんなことお構いなしとでもいうように、ウシャンカに紛れて見えない横顔をおもむろに住宅街の方へ向けた。細雪が降り頻る中、宵闇の中でぽつりぽつりとぼんやり光る場所がある。
そこに人があること、 ドス君は考えているんだろうか。
「ねぇ、ヨコハマは冷えるね。やっぱり、オキナワとかにすれば良かったかも。」
ひんやりした指を絡め、雪のような身を寄せ合う。
その顔をなんとか振り向かせようと、僕は声をかけてみる。
雪のしんしん降るわけでもないけど、目元とか、鼻先とか、耳とか、頬とか。色んな場所が恋をしたように赤らむので、恋の時期は春じゃなくて冬だと勝手に思ったりした。
頰が火照っても「冬のせい」と言い訳できるのは、いいことじゃないけど。
「…そういえば、ドス君はさ、本当にこんな馬鹿げた逢瀬、したかったの。」
思ってもみない自虐を問うにしたって、相手が聞いていなければ意味すら為さない。
歌を歌っても、誰も聞いていなければそれは歌とは言えないのと等しい。それを僕は、その瞬間だけ度忘れしていた。
あまりに滑稽で、蒙昧で、自分を憐れむことを覚えてしまった。人を食った熊のように僕は、今後もこれを繰り返してしまうんだろう。
「まあ、答えてくれないよね。知ってたよ、じゃあ、行こっか。…ふふ、冷たい。」
赤紫に赤らんだ指先に触れながら、僕はただ足を進める。
進めて、進めて、港に辿り着いたなら、きっと健やかな次を夢みていけるだろう。少なからず僕は、そう信じている。もうこれからがないこと、自由という監獄に囚われた僕の考えた最適解、すべて僕のわがまま。
でも、あとひとつだけわがままをさせて欲しい。
「いっしょに、罪から逃れてしまおう。」
さいごのわがままは、あまりに稚拙だったよ。
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