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#もりょき
1,933
「ごめんなさい、十二位はおとめ座!アクシデントに見舞われるかも!」
前に涼ちゃんが見てるって言ってたから、なんとなくつけてみた星占い。アナウンサーらが楽しそうにリアクションを返している。なんやねん、最下位やないかい。
一位はおうし座か、涼ちゃんじゃん。涼ちゃん今日は超ハッピーなんじゃない?
「…運命の出会い、ねえ…」
そりゃあアクシデントだわな、俺にとっては。たしかに最下位だわ。
今日はなーにすんだっけ?…ミセス系は収録と打ち合わせ
…個人的には、…ああ、そうだ、あいつどうにかしないと。
数日前ーー
ゼンジンの余韻でまだふわふわと浮いているような夜、涼ちゃんが先に、まあこの後ナニをするためにお風呂に行った。浴室の扉が閉まる音が、静かな部屋に吸い込まれていく。この後のことを想って幸せで堪らない、そんな気分だった。
テーブルの上のスマホが震えた。小さな振動なのに、妙に耳に残った。涼ちゃんに仕事の連絡でも来たかな、と何気なく視線を向けた。けれど、画面に浮かんだ名前を見た瞬間、胸の奥に冷たい針が刺さったような感覚が走った。
ーー誰だこいつ。
涼ちゃんのスマホに表示される名前はほとんど知っている。仕事関係、友人、家族。そのどれにも当てはまらない、見覚えのない名前。けれど、通知に表示されたメッセージの冒頭の一行が、その人物がただの知り合いではないことを告げていた。
『久しぶり。急に連絡してごめん。ずっと話したかったことがあって――』
ざわざわと胸の奥が波打っている。『ずっと話したかったこと』。
その言葉に、物凄く嫌な予感と、激しい嫌悪感が体を満たした。
シャワーの音が遠くで響いている。
「…邪魔だな」
思わず呟いた言葉は自分でも驚くほど、地を這うように低かった。
多分予想は当たってる。これはただの再会じゃない。ただの同級生とかじゃない。その確信は、胸の奥に静かに沈んでいく重石のようだった。
シャワーの音はまだ続いている。涼ちゃんが戻ってくるまで、あと数分。
スマホに手を伸ばす。触れ慣れた重さ。
画面を開かず、設定だけを静かに変えていく。通知が鳴らないように、ロック画面に表示されないように。涼ちゃんがアプリを開いても気づかないように。
こいつの存在を、涼ちゃんの世界からそっと消すために。今はとりあえずそれでいい。
シャワーの音が止まった。スマホを元の位置に戻し、何事もなかったようにソファに腰を下ろした。
そして今日にいたるわけなんだが、
例のそいつ、SNSをチェックするとどうやら芸能界の関係者らしいし、今後仕事で関わりを持つこともあってしまうかもしれない。まったく…ほんと涼ちゃんは虫が付きやすいんだから。悪い虫かどうか、ちゃんと確認しておかないと危ないからさ。
同級生のことは気がかりだが、今日も今日とてしっかりと仕事がある。スタジオで涼ちゃんと目が合って、思わずにやけてしまった。だって、なんて愛おしい人なんだろうと思って。つられて涼ちゃんも目尻を下げてふにゃりと笑った。
ああ、あのネックレスをかけたあなたを早く見たいな。俺の色をした真っ赤なガーネット。石言葉は、真実、情熱、愛、実り、そして、束縛。それを身に着けたあなたはどれほど美しいだろう。楽しみで仕方がない。
今日が終われば涼ちゃんの誕生日に涼ちゃんを独り占めなんていう最高のご褒美が待ってんだ。勝手に気分は上がっていく。
上機嫌のままに収録を終え、次は会議室へと向かって行っていたところに、スタッフが僕の名前を呼んだ。明日の予定とセットの確認らしい。書類の束に目を通し、少しだけ話してから、再び会議室へ向かった。
ちょっと遅くなっちゃった。早く始めたかったのにな。
ふと、その時見覚えのない人影が視界の端に映った。少しうなだれているようにも見える。だれだろう。あんな人、うちのスタッフにいたっけ。
そう思いながら、小走りで部屋へと向かった。
まず、部屋に漂う少し異様な空気に気が付いた。そしてそれが若井から発せられているものだとすぐに分かった。なにかを言いたそうな目でこちらを見ている。…ああ、なるほど。なんとなく分かったかも。もう十数年一緒にいるんだ。大体は言いたいことなんて分かる。まーた涼ちゃんかな?
会議が終わる。すぐに若井が傍によって来た。
「元貴、ちゃんと涼ちゃん見とけよ。また虫ついてたんだけど。」
「うん。同級生とかいうやつでしょ、来たの?」
「急に来て涼ちゃんに話があるって。あれ絶対脈ありだって。」
「そうだよなー、この後ちょっと話してくるわ。」
「はは、こわぁ。」
「釘さすだけだよ。ありがとね、若井。」
「いーよ。…夜楽しめよ?」
「うるせー。」
そっと窓からもう暗くなり始めている外を見る。落ち着かない様子で、何度もスマホを確認している人影が見える。さっき見たあれはお前だったんだ。
ほんとに来たんだ。涼ちゃんに会うために。わざわざここまで。会議終わるのを待ってまで。
胸の奥が、ひどく冷えた。氷のように静かで、けれど確実に広がっていく冷たさ。
涼ちゃんは知らない。あいつが今日ここに来ていることも、自分に向けられている感情の温度も。
知らなくていい。知らないままでいい。
俺はゆっくりと息を吸い、涼ちゃんの背中に声をかけた。
「あと今日、表は人が多いみたい。 裏口から出た方が早いよ。」
ほんのちょっとした嘘。でもその嘘一つで、お前はもう二度と涼ちゃんに会う機会を失う。
涼ちゃんが裏口へ向かうのを見届けながら、俺はゆっくりと表口へ回った。廊下に足音が静かに響く。そのたびに、胸の奥の冷たさが増していく。
涼架に触れようとした。
涼架の名前を呼ぼうとした。
涼架の世界に入り込もうとした。
その事実だけで、心の奥にひどく不快なざらつきが生まれる。
同級生はまだそこにいた。期待と不安が入り混じった顔で、涼ちゃんを待っている。その顔を見た瞬間、胸の奥の冷たさが、ゆっくりと形を持った。
ゆっくりと歩み寄っていく。足音を聞いた同級生が振り返った。
「あ…あの、涼架くんは…?」
「今日はもう帰りましたよ。裏口から。」
同級生の表情が一瞬で曇る。その変化を見ると、胸の奥に奇妙な満足感が生まれた。
「そ、そうですか…。あの、どうしても伝えたいことがあって…今日、話せなかったので…」
必死な声。その必死さが、逆に不快だった。
涼ちゃんに、何を伝えるつもりだった?
俺は一歩近づいた。同級生が無意識に後ずさる。
「藤澤は今、とても大事な時期なんです。あなたの“気持ち”がどうであれ、負担になることは避けてほしい。」
同級生の目が揺れる。その揺れを見て、胸の奥の冷たさがさらに深く沈んでいく。
「負担なんて…そんなつもりじゃ…!」
「あなたにそのつもりがなくても、です。」
静かに言葉を落としていく。一切の感情を表に出さずに。
「藤澤は、誰にでも、誠実に向き合おうとする。だからこそ…あの子を濁らせる存在は、必要ない。」
“濁らせる”。その言葉に、同級生が息を呑む。
俺はさらに一歩近づいた。距離はもう、手を伸ばせば触れられるほど。
「涼架は、俺が守ります。だからーー」
一拍置いて、微笑んだまま、静かに告げた。
ーーもう、近づかないでくださいね。
軽く会釈し、背を向けて歩き出した。
『一度だけでいいから会ってほしい』
その文字を見た瞬間、胸の奥に静かな怒りが灯った。
やっと涼ちゃんの家に帰ってこれて、一息つく中、ふと涼ちゃんのスマホを手に取って、あいつの連絡先を消してやろうと思って開いたとき、そいつからの新しいメッセージに気が付いた。まだ新着メッセージだったから涼ちゃんは見てないみたい。
まだ諦めていないのか。まだ涼ちゃんに触れようとしているのか。
ふつふつと湧き出る不快感と、高速で回転し始める脳は、すでに手を動かし始めていた。
涼ちゃんのメッセージアプリを開き、聞き覚えのある、涼ちゃんと仲がいいらしい友人の連絡先を開き、短いメッセージを送る。
『最近、○○から変な連絡が来て困ってる。悪い人じゃないと思うけど、距離を置きたい。もし何か聞かれたら、そう伝えてほしい。』
彼なら、きっと善意で動いてくれる。涼架のためだと思って。これで終わり。だって俺がなりすました涼ちゃんが会いたくないって言ってんだから。この後連絡先も消してしまえば、涼架の世界から、そいつの影が消える。
息をついてソファに体を沈めていく。涼ちゃんがお風呂から上がってきたようで、僕の隣に座った。
ちらりと時計を見る。あと、五分。
「ねえ、元貴」
ふっと涼ちゃんが言葉をこぼした。
「ん?」
「今日さ、朝占いで運命の出会いがあるって言ってたんだよ。」
「…うん。」
そうそれ。僕も見てたよ涼ちゃん。あれ僕のはめっちゃ当たってたよ。涼ちゃんには運命の出会いなんてなかったけどね。
「それで…帰り道元貴と初めて会った場所を通って、ああこれがほんとに、運命の出会いだったんだなって。思った。」
その言葉が落ちた瞬間、胸の奥がふっと温かくなった。自然と手が伸びて、 涼架の頬に触れた。その温度が、胸の奥の影を溶かしていく。
そう、そんな風に思ってくれてたんだ。涼ちゃんがそう思うならそれが正解だよ。あの占い当たりすぎだね。
「元貴、あの日出会ってくれて、ありがとう。」
…ああ本当に、あなたって人は。その響きが、甘くて、優しくて、どうしようもなく愛おしい。まるで、長い間探していたものをようやく手のひらで確かめられたような感覚。愛おしさに涙が出そうだった。
涼ちゃんが僕を見て笑う。その笑顔が、僕の世界の中心にある。
「…こちらこそ、生まれてきてくれてありがとう、涼ちゃん。」
あの日運命は僕らに味方して、あなたというかけがえのない贈り物をくれた。僕があなたに背負わせてしまった、“涼ちゃん“であり続けるという運命に、柔らかく強い覚悟で答えてくれた、優しくて強い人。
あなたの美しい覚悟と笑顔を、一番近くで、一番深いところで見れる。なんて幸福なことだろうか。
どうか涼ちゃん、これからも変わらず傍にいてね。今日の幸せな思い出を、ずっと先でも、二人で懐かしいと、幸せに笑えるように、涙できるように。
「涼ちゃんおめでと。これからもほんとにね、愛してるよ。」
33年前の今日の日の奇跡に感謝して。
~Happy Birthday to Ryoka~
コメント
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初めて1話で4000字も書きました…!二つ合わせて7000字超え…なかなか頑張ったかな?😄 以前の涼ちゃんの誕生日から一年で、またどっぷりとミセスにハマりましたね〜 毎日毎日涼ちゃんからたっくさん生きる元気を貰ってます!三人の奇跡のような美しい関係を見ていられることが幸せです 涼ちゃん、本当に生まれてきてくれてありがとう💛この一年もどうか、かけがえのない一年になりますように🥰