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episode 3「桜の秘密」
私は翔くんが食事を終えるのを待ち、意を決してこの言葉を発した。
「ねえ、散歩いかない?」
彼からは、あっさりと一つの答えが返された。
「あかん、無理そうや」
…それって、足の機能を失ったってことだよね。
でも、私は一つの手段を残していた。私の少ない給料で買った、車椅子を使おう。
「じゃあさ、車椅子で行かない?」
「ホンマか?!✨」
もう時間は残されていないし、すぐに新たな苦しみを味わうことになるというのに、
笑う翔くんは、太陽のようだった。
私は車椅子を押して、早咲き桜の木が植えてある公園へと向かった。
「この蕾、きれいやな」
車椅子に座っているため、手が届かなくなってしまった翔くんは、精一杯に腕を伸ばして蕾の一つを指した。
「そうだね」
「満開の木、見れるとええな」
「きっと…ううん、絶対に見よう!」
本当なら、来年だって再来年だって、私の寿命が尽きるまで、一緒に見たい。
でも、そんなわがまま通じないよね。
出来ることならそうしたいけど。心の中では、ずっとそう思っている。
これは、誰も手を触れられない(もちろん翔くんもね!)、私だけの秘密。