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すっかり日は落ち、親族はじめ関係者や年寄り軍団は帰り
二次会では気さくな直哉関係の友人たちが、ワイワイダンスをしてまだ遊んでいる
酔っぱらった従業員達が、「花嫁に握手を!」「成宮牧場の女主人!」と「赤ちゃんに幸あれ!」と代わる代わるに紗理奈に握手を求め、ブンブン手を振り回されるから、紗理奈はキャーキャー言って真っ赤になり、笑った
直哉は従業員達が、親愛の情を示すものだと分かっていても、ついにはたまりかね暴れて彼らを蹴散らした
クスクス笑ってまだ彼らを追いかけて、暴れている直哉を遠くから見つめていると、大きな人間の気配が紗理奈の横からした
「疲れていないかい?サリー?」
その時北斗が紗理奈の横にオレンジジュースを、持ってきて横にドカッと座った
今は細長いシャンパングラスを持っている、黒髪のこの男性はいかつい顔つきのせいで、彼が本当はハンサムなことをわかりにくくしている
わ!わ!・・・北斗お義兄さんだっ!!どうしよう!緊張しちゃう・・・・
暫く二人は目の前で暴れる、直哉を微笑ましく眺めていた
直哉のお兄さんが無口なのはもうわかってる、そしてこの人はとても頭がキレる、やっぱり少し怖い
沈黙がなんとなく気まずい、直哉とは沈黙などまるでない
なぜなら微妙な空気を察してくれて、直哉の方が盛り上がる話題を色々提供してくれるからだ
直哉とは何もかも正反対のこの義理の、お兄さんをチラチラ観察する
直哉より少し背が低くて、彼よりも成熟した大人の雰囲気を身にまとっている、4人の子供達からは愛されて慕われ、自分の父親とは大違いだ
直哉より苦労や年齢を重ねてきた風貌は、男らしい自信に満ち溢れている
しかしアリスさんと一緒にいる時はどこか、可愛らしくなる所も紗理奈は見抜いていた
「あ・・・あの・・・大変だったでしょうね・・・・弟さん二人を・・・お育てになるのって・・・ご自身もまだ10代だったとナオから聞きました」
思い切って紗理奈の方から話題を振ってみた、北斗はシャンパンを一口飲んで、紗理奈を見つめた
ニッコリ・・・「父親代わりになろうとしたけど力不足だった」
あ・・・笑った・・・・
紗理奈の心臓がトクンッと動いた
「アイツはまだハッキリとわかっちゃいないが、それでも大進歩だと思っている、今まで言いだせなかったが・・・俺は君にずっと礼を言いたいと思っていた 」
「・・・お礼・・・?ですか? 」
紗理奈はきょとん?と首を傾げた、自分はいったい何をしたのだろう?お礼を言われることなんて・・・?
二人はしばらく見つめ合った、そして北斗は紗理奈にニッコリ微笑んで言った
「弟に「愛」を教えてくれてありがとう」
..:。:.::.*゜:.
その優しい言葉に、紗理奈は胸が詰まってしばし目を閉じた
ポロポロ・・・「そんな・・・私の方こそ・・・皆さんに愛をもらって・・・こんな素敵なドレスを着せてもらって・・・こんな豪華な結婚式も上げてもらって・・うちの・・両親も大喜びで・・・・ 」
「サリー・・サリー・・・頼むから泣かないでくれ!俺が泣かせてるみたいじゃないか 」
北斗が焦ってヒソヒソ声で言う
もう泣きたくないのにポロポロ涙が出る、これは現実に起こっていることで、自分の人生は今まさに一変しようとしている
直哉が遠くからこちらを見ている、大勢に囲まれて笑ってはいるものの、その目は紗理奈と北斗が何を話しているのか、気になってしかたがないといった所だ
フフッ・・・「退散するよ・・・もう少し妻と踊りたいんだ、こんな時でないと彼女を子供達に、取られっぱなしなんでね」
クスクス・・・「はい・・・・」
アイメイクが崩れないように、目じりの端にハンカチを差し込んで涙を吸わせ、立ち上がった北斗を紗理奈は笑顔で見送った
新郎の兄はすぐさまアリスを見つけ、ダンスホールに笑いながら愛しい妻を連れだした、それを紗理奈は微笑ましく見物していた
北斗は踊りながらアリスを段々と輪の端っこの、人気のない暗がりへ連れて行き、腰に回した手を徐々に尻に降ろそうとしていた
アリスはその手をぴしゃりと叩き、また自分を輪の中へ戻せと北斗をギロリと睨んだ
北斗は笑みをこらえて、いたって真面目くさった顔で、アリスを再びダンスの輪の中へエスコートした、なんて仲良しなんだろう
直哉は妖精のような花嫁姿の紗理奈をチラチラずっと見ていた
綺麗な純白のドレスは胸元だけを覆い、むき出しの肩や鎖骨はあらわになっていた、妊娠のせいで間違いなく紗理奈の胸は育ち、大きくなってさらに官能美を増した
ここ数日の紗理奈はすっかり満ち足りた様子で、アリス達と少女のようによく笑うから、どことなく無防備な感じもあり、直哉は彼女から目が離せず、守りたいという圧倒的な思いに駆られていた
幸せそうに笑う彼女を見る度、そうした紗理奈の変化は、自分がもたらしたものであり、自分の一部が彼女の中で育っているためだ
なぜかそう考える度、例えようもないほど興奮させられる
彼女の妊娠にここまで感心を覚えるなんて、思ってもみなかった
だって本来自分は女性の妊娠を喜ぶ様な男ではないのに、紗理奈にすっかり変えられてしまった
あそこでウエディングドレスを着て、真っ白な歯を見せてアリスと、ケラケラ笑っている女性は自分のものなのだ、そろそろ二人っきりになりたい
やっと紗理奈が一人になったのを見計らって、チャンスとばかりに直哉が走っていって、スチャッとひざまづき
紗理奈に向かって手を大袈裟に差し伸べた
クスクス笑って紗理奈も立ち上がった、直哉が北斗がしたように、紗理奈の腕を自分の腕にかけた
男らしい日焼けした肌の香りと、男性用の整髪料の匂い、そしてそこに今は少しウイスキーの香りを漂わせている
直哉は慣れた仕草で紗理奈の腰を抱いた、最初はただ左右に揺れているだけだったのに、直哉のリードで紗理奈にステップを踏ませた
そして紗理奈を一回転させ笑わせた、空気がシャンパンに変わってしまったかのようだ
紗理奈はお酒など飲んでいないのに、息をするたび軽い酔いを覚える
またさらに彼に引き寄せられ、音楽に合わせてまた引き離される
周りを見ると北斗とアリス、ジンと貞子、そしてダンスの輪の端っこの方で、お福さんとその旦那さんが躍っていた、思わず笑みがこぼれる
何か話さなければと思っても何も浮かんでこない、五感の全てで彼を感じている
逞しい体・・・・
耳にかかる息・・・・
ジンが抜けた後も和也の五つ子バンドは大活躍だ、音楽好きの五つ子は一日中でも演奏していられる
直哉が紗理奈の耳元で囁く
「よし!このままダンスを楽しんでいるフリをして、フェードアウトするぞ!、踊りながら裏口から部屋に帰ろう 」
紗理奈は目を大きく見張った
「ええ?・・・でもみなさんまだ、沢山いるわ・・・お相手をしないと・・・ 」
「もう十分相手したさ、どうせアイツらは朝まで盛り上がってるから、俺らは退散しよう 」
クスクス「本当にいいの? 」
「君は休まないと・・・疲れてるだろう?」
「でも楽しいわ 」
レオとアキが子供達に花火をさせている、キャーキャー北斗の子供達が嬉しそうにしている
百子がロケット花火を手で持って飛ばしている、花火の音にパインが怖がって「抱っこしろ!」と、レオにぴょんぴょん飛びついている
それを見て紗理奈がまた笑った、自分もまざりたい
「よそ見しちゃダメだめじゃないか、俺と踊っているのに」
直哉が見下ろしてきて視界を遮られた、鼻がくっつきそうだ
クスクス「今はあなたしか見えないわ」
「ずっとそうでいてくれ」
二人が見つめ合ってゆっくり回る、ハンサムな顔が自分にだけ微笑んでいる、この人が自分のモノになったなんて今だに信じられない
紗理奈が直哉の首に腕を回し、グイっと胸を押し付けた、直哉も彼女の腰を抱く腕に力が入る
なんだか弱い電流が流れているような気がした、こんな経験は生まれて初めてだった
枝を飾っているLEDライトの光が、点滅する度蛍のように暗闇に浮かび二人を包む
五つ子の演奏が遠くで聞こえる、まるで映画のワンシーンのようだ、ぐるぐる世界が回っている
「まるで夢みたい・・」
「夢でたまるか 」
直哉が紗理奈のおでこをくっつけて囁いた
「ずっと現実だ・・・・・ 」
..:。:.::.*゜:.